『ディブロお父様とホープとサクセス』

「ディア、どうだった?」

「白色のお馬さん達にしました」


 あたしがマークさんと別れてシンリー達の元へ合流した後、ディブロお父様に報告する。


「旦那様、確か白色の馬って数も少なく、かなり性格に難がありますよね」

「シンリーの言う通りだ。若い頃の私も白色の馬を買おうと思ったが、相手にされなくてな…」

「そうなんですか?むしろ、あの子達の方から来てくれましたけど…」


 あたしの言葉にディブロお父様と親衛隊は驚愕の表情を示した。しかし、あたしが特別ではなく、この世界の貴族に原因がある気がした。


「どうせ、多くの貴族は『私が乗ってやろう』とか『俺様の馬になれ』とかお馬さん達の前で言ってたんじゃないですか?」

「ギクゥ…」

「あたしが珍しいんじゃなくて、真剣にお馬さんと向き合っていないのが悪いだけです」

「グハッ……愛娘のディアよ…。私をいじめるのはやめてくれ…」


 そう言えば、ディブロお父様も『昔、挑戦した』って言ってたから、あたしが言ったような事をやっていたのだろう。


 あたしの言葉がディブロお父様にクリーンヒットしたみたいだが、自業自得である。ちなみにあたしの親衛隊でさえ、この時ばかりは、ディブロお父様へジト目を送っていた。


「ディブロお父様、しばらく時間が掛かるかもしれませんし、馬車を見に行きませんか?」

「そうだね」


 これ以上、ディブロお父様の黒歴史を弄るのはかわいそうだと思ったあたしは、馬車を見にいくことを提案して話を変えることにした。


ーーー


「お馬さん達、今日は本当にありがとうね…」

「「ヒヒーン」」

「君達の後輩になるあたしの愛馬達をお願いね」


 馬車屋へいく前にあたしはディブロお父様のお馬さん達に感謝を伝える。そうすると彼らは任せとけと言わんばかりに上下に首を振る。



 彼等の様子を見届けた後、ディブロお父様とあたしと親衛隊だけで馬車へと乗り込み、馬車屋へと向かう事となった。


ーーーー


 ガララララ…


『セントラル地区』を馬車で少し走ると、大きな文字で『道具屋;ガンタツ』と書かれた看板が特徴的な大きなお店に、馬車が停まった。


 お店の構造は、前世でいうスーパーマーケットのような規模で、右スペースを加工場、左スペースに様々な商品の展示をしている。


「いらっしゃっせぇって、ベルンルックの旦那ですかい?久しぶりじゃねえですかい」

「ガンタツ、久しぶりだね。明日は私の愛娘のディアの晴れ舞台でね…。馬車が欲しいんだ」

「それならあっしにまかせてくだせぇ」


 そして、ディブロお父様が馬車から降りて、ガンタツと呼ばれた男の人と交渉をしていた。


 ちなみに、ガンタツさんは筋肉ムキムキの大きな男性である。


「お、お初にお目にかかります。ベルンルック公爵家の長女『ディア•ベルンルック』と申します。以後お見知り置きを」


 そして、なぜかあたしはガンタツさんを見て、前世のヤ◯ザを思い浮かべてしまったせいか、普段通りの挨拶なのに、緊張してしまう。


「嬢ちゃん?お嬢様?んー、まぁこの際、どっちでもええ。買った馬の体格を教えてくだせぇ」

「あ、はい。小柄な白馬を2頭です」

「よーし、分かりやした。小さい馬車を幾つかマークの旦那のところに運ぶとしやすかねぇ…。おら、野郎ども、仕事だ。いくぞーっっ!!」

「「「「「おっす、親方!!」」」」


 ガンタツさんが大きな声を出すと、ぞろぞろと彼と同じような筋肉ムキムキの人達出てきて、ガンタツさんの後へ着いて行った。


「ディア、私達もマークのところへ戻ろうか」

「は、はい…」


 ディブロお父様はあたしと違って、怯える事なく、マークさんの場所へ戻ることを提案した。一方で、あたしは身体が震えているのを隠しながら、ディブロお父様の馬車へ乗り込み移動する。


「ディアお嬢様、ガクブルだったな…」

「あははは!!ロン、それ言っちゃダメー」

「震えるディアお嬢様もかわいいです!!」

「こ、怖がってないし…」

「ディアお嬢様は天使です!!」


 当然、親衛隊のみんなに隠し通せるはずもなく、馬車の中で揶揄われる事となった。


ーーーー


「ベルンルックの公爵様と『馬姫様』、お待ちしておりました」

「あたしは『馬姫』ではございませんが…」


 あたし達が馬車でマークさんの所へ戻った時には、ガンタツさんとマークさんがいる。


 そして、彼等の付近には、こんな短時間なのにもかかわらず、あたしの馬車が完成していた。


 あたしが決めた白色のお馬さん達にガンタツさん達が色を合わせてくれたのか、馬車の色もベースが白色で部分的に金色が採用されている。


「嬢ちゃん、どうですかい?」

「ガンタツさん、本当にありがとうございます!!あの子達に合う最高の馬車ですっ!!」


 あまりの馬車の出来栄えにあたしは恐怖を忘れて、彼等に大きな声で感謝を伝えていた。


「ディアも気に入ったようだね。それじゃ、私は会計をしてくるから、待ってるんだよ」

「ディブロお父様、その…」

「ディア、お金は大事な誰かに使う物だ。私にとって、その誰かは愛娘のディアなんだ」


 ディブロお父様の言葉を聞いて、『セブン⭐︎プリンセス』の『ディアベルンルック』の『エピローグ』の回想シーンを思い出した。


ーーー


『おーほっほっほっ…権力しかなかった愚かなあなたはわたくしに利用されましたのよ」

『ディア、お金と権力は大事な誰かに使う物だ。私にとって、その誰かは愛娘のディアだっただけだ。だから、後悔はしていないよ』

『おーほっほっほっ…死を待つ今の状況で強がりを言っても無駄ですわ』

『ディア、今でも、私は愛しているよ』


ーーーー


「今のディアには難しいかもしれないね……」

「………突然の質問でごめんなさい。でも、あたしにとって大事なので、1つだけ確認させてください。今、ディブロお父様は幸せですか?」

「愛娘のディアがこんなにいい子に育った。私は胸を張って『セブンス学園』に送り出せる。今以上に幸せを望むと罰が降るだろう」


 この先、『セブンス学園』であたしにどんな未来が待ち受けてるのか、分からない。


 でも、少なくともあたしは心優しい『ディブロお父様』をあの悲劇から救えたと確信ができた。



ーーーー


「ディアお嬢様、この子達の名前は出しますか」

「この子達の名前?いや、必要だよね」


 ディブロお父様がマークさんとガンタツさんとそれぞれの会計の話をしている間、あたしが自分のお馬さん達の頭を撫で撫でしていた所、シンリーにお馬さんの名前について、質問された。


「右の子を『ホープ』と左の子を『サクセス』」

「素敵な名前ですね。由来をお聞きしても?」

「この子達があたしに希望と成功を与えてくれるんじゃないかなって思ったから…かな?」


 もちろん、ディブロお父様を完全に救えたわけではない。でも、少なくともあたしが運命に負けても彼は巻き込まれない、心からそう思えた。


 そんな幸せな日だから、あたしは『ホープ』と『サクセス』という名前を付けた。


「ディア、お待たせ」

「ディブロお父様、ありがとうございます」

「帰ろうか」

「あたしの馬車は…」

「ディアお嬢様、俺がやるぜ」


 そう言えば、以前にアースがロンが『卸者』を練習してるって言ってたような気がする。


 そのため、あたしの新品の馬車の卸者をロンに任せて、あたし達は2台の馬車に別れて、ベルンルックの屋敷まで帰る事となった。


ーーーー


「ホープ、サクセス、あたしの家族になってくれてありがとう」


 あたしはホープとサクセスのそれぞれに感謝を伝えた後、お別れをして、メイド達の出迎えの挨拶と共に、ベルンルックの屋敷の方へと戻る。


 ちなみに、あたしのお馬さん達は、ディブロお父様のお馬さん達が飼育されている場所の空きスペースで生活する事となった。


ーーーー


「シンリー、明日から『セブンス学園』だね!!」

「私には使命があります。それは、ディアお嬢様に付着するお邪魔虫を焼き払うことです!!」

「シンリー、なんか顔が怖いよ!?」


 自分の部屋に戻った後、あたし達は湯浴びなどを既に済ませて、ベッドで寝転がっている。


 もちろん、あたし達は明日から『セブンス学園』へ通う事となっているため、今日は早く寝なければならない。


「ゴホンッ、ディアお嬢様、明日はいつもより早いので、早めに電気消しますよー」

「はーい」


 そして、そのままあたしとシンリーは眠る事となった。


ーーーーー


 序章〜1章がこの話にて終わりました!!

 明日から物語の本舞台、2章へ突入です。

 2章は少しシリアスです!!

 改めて、たくさん作品がある中、拙作をここまで読んで頂いた方々、ありがとうございました。

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