お風呂

「シンリー、身体洗ってくれるかしら?」

「は、はい!!」


 シンリーにお風呂場へ案内され、赤ワインで汚れたドレスを脱ぐ。


 そして、未だにあたしに怯えるシンリーの緊張をほぐすためにも彼女に手伝ってもらう。


「あ、あの……」

「ん、なあに」

「怒ってないんですか…?」

「昔のあたしはどうだったの…」


 赤ワインを掛けられたため、ドレスが汚れ、他の服に着替えなければならないという意味では面倒だ。でも、それ以上でもそれ以下でもない。


 それよりも、シンリーを許しただけで周囲にあんな反応された事が気になった。


 あたしがあたしになる前の『ディア•ベルンルック』はどうだったのだろうか。


「昨日までのディアお嬢様なら、『アップルパイを所望しますわ』と仰ったので、数十分後に持っていくと『今はショートケーキの気分だったのに!!』と怒られてしまいました」

「えーと、そうなの。……他にはあるかしら」


 それは『理不尽の権化』と言っても、過言ではない。そして、それを苦笑いしながら、話せるシンリーのメンタルもかなり強い。あたしなら、間違いなくメンタルが折れて、逃げ出している。


 そう思いながら、次の質問をすれば、まだまだエピソードが出てきそうだと判断した。


 そのため、この際、思い切って他のエピソードもシンリーから聞いてみることにした。


「今のように背中を洗っていましたら、『もっと強く洗ってくださるかしら?』と仰られたので、強く洗ったら『強すぎるのよ』と怒られました」

「や、やけに鮮明だね。もしかして、シンリーがあたしの担当をすることが多かったの?」

「ええ。私は外見からも分かると思うんですけど、まだ見習いです。大変失礼かもしれませんが、『ディアお嬢様』は先輩のメイドの方々に避けられていることが多かったので…」


 背中を自分で強くやるようにと言って、強すぎたら怒るのも大概だよね…。


 そんな命令する人の元で働くのを避けるのも当然と言えば当然だと思う。


 しかし、いくらあたしがめんどくさいからと言って、まだメイド見習いのシンリーへ全部やらせるのはどうかと疑問に感じた。

 

 ザパァー


「さ、シンリーも入りましょうか」

「ディアお嬢様と一緒なんて恐れ多いです!!」

「それなら命令にしておくわ」

「ご、強引です」


 体を洗って最後に掛け湯をした後、シンリーを湯船へ誘ってみる。分かってはいたけど、彼女から断られてしまった。そのため、強行突破を試みる。『命令』というのはこういう時に使うのだ。


 ちなみに、シンリーの外見の特徴的な所は、桜色の髪をポニーテールにしている所で、外見は9歳くらいのメイドの女の子である。


「いい湯だねー」

「はい…」

 

 結局、あたしの強引な命令により、シンリーは半ば付き合う形で、湯船へ入ることとなった。


 久しぶりに40度程度の程よい暖かい湯に入れて、あたしも大満足である。


「シンリー、今まで、本当にありがとうね。そして、これからもよろしくねって、え?シンリー、

なんで泣いてるの!?」

「私、メイドの仕事辞めようと思ってました…。いつもディアお嬢様に怒られてばかりで…っぐ…先輩のメイドさんとも馴染めていませんでした」

 

 少し離れた距離にいるにもかかわらず、シンリーは未だにあたしへ怯えていそうだった事と、今までの彼女の苦労も考えて、シンリーを対面に思い切って、感謝を伝えてみることにした。


 そうするとシンリーが泣き始めてしまった。彼女の話によると、どうやら、昔のあたしの理不尽さだけでなく、メイドの先輩との関係もうまく行ってなかったらしい。


「今も辞めたい?」


 心の中では、シンリーに本当はやめて欲しくない、そう思いつつも、あたしは彼女へ近づき、俯く彼女の顔を下から覗き込んで質問をする。


「いいえ。『ディアお嬢様』は『ディアお嬢様』です。それは変わりません。だから、もう少しだけ『ディアお嬢様』にお仕えしたいと思います」

「よかったぁ!!それじゃ、改めてだけど、これからもよろしくね?」

「はいっ!!」


 シンリーがこれからもあたしに仕えてくれることになって一通り満足した後、あたしは、シンリーと共に湯船を出た。


ーーーー

※シンリーはメインヒロインの1人です

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