スカルで助かる! ~親友はガイコツヒーロー~

持田ぐみ

第1話

 朝日のなかの小さな神社。

 まだ若葉もまばらな小枝をゆらし、あたたかい春風が吹き抜けていく。


「独渦中学校2年ゼロ組の貴船きぶね頑是がんぜです。今日からの新学期、どうぞお見守りください」


 パンパン。

 おれの柏手かしわでが、小さな境内に響く。


 それに応えるように、周囲の木の葉がザワっとひるがえった。

 続けてもう少しだけ、心のなかで祈る。


 誰にでもあると思うんだ。


 声に出していえない秘密の願い。


 友達にも先生にもなかなか話せない、自分だけの祈り。

 目を閉じて無心に祈っていると、後ろから強い気配がした。


未了みりょう!」


 髪が真っ白の天然パーマの男子――無患子むくろじ未了みりょうだ。

 切れ長の瞳は右目だけ青みを帯びていて、怒ったようにつりあがっている。

 唇はへの字に結ばれていて、いつも不満げ。

 フレンドリーの欠片もない、とがった空気をまとっている。


 未了は黙っておれの隣に並んだ。


 二回の深いお辞儀、二回の柏手。手を合わせて祈る。


「…………」


 ぶつぶつと口の中で祈っているので何を言っているのかはわからない。

 最後にぐーっと深いお辞儀をして、参拝は終わり。


「まずいな」


 未了がつぶやいた。


「なにが?」


「時間」


 キーンコーンカーンコーン。


 こ、これは始業のチャイム!!

 今日は新学期の初日、始業式だ。

 おれは鳥居の外に飛び出した。


「うわ、もうこんな時間? 未了! 遅刻だ!」

「わかってる。先に行け」

「えー?」


 神社の外にはおれたちが通う独渦中学校の校庭が広がっている。

 いまお参りしていた独渦山神社は、校庭のなかにあるんだ。

 だからダッシュで行けば、ギリギリ教室から出てくるみんなと合流できるのに。


「もう少し話し相手しろってさ」


 未了が神社のほこらを指さした。

 学校ができる前からあった古い神社で、学校ができたときに同じ場所に建て直された。鳥居も祠もまだピカピカだ。


 未了はここの神様に気に入られているらしく、しょっちゅう長居をしている。


「わかった!」


 おれは鳥居に礼をして、校庭へ走り出した。

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