全盲のギタリスト

みららぐ


街を歩けば誰もが振り返るほどの美人、とはまさに私のことだと思う。

世の男ども全員に必ず恋されるほどの完璧な容姿を持って生まれ育ってきた私にとって、のはあり得ない出来事だった。


「……は?」


その男の予想外の態度に、私は思わずそんな声が出た。

ここは若い男女が入り混じる「合コン」の場だ。

そしてその男の目の前に、こんなに美人で儚い完璧な女性が存在している。

普通の男なら、そんな私に少しでもお近づきになろうとあらゆることを聞いてくるのが当たり前だ。

が、いま私の目の前に居るこの男は、私ではなく手元の“いちごパフェ”に夢中になっている。


だいたいこの男は、この喫茶店に入ってきた直後から既に何か変だった。

こんなに美人ぞろいの私たちに目を向けない、挨拶も声が小さくてよく聞こえない、話しかけても全く目が合わない。

せっかくそこそこイケメンなのに、合コン開始前から既に浮いていた。


私はそんな彼に呆れつつ、少し強めな態度で声をかけてみた。


「あ・の!」

「!」


すると彼は、ようやく私のその声に反応して顔を上げた。

が、それでも目は合わない。


「…僕に、声かけてます?」


それどころかそんな抜けていることを聞いてくるもんだから、私はその問いかけに「当然でしょ」と頷いた。


「さっきから私、ずーっとあなたの目を見て話しかけてるでしょ!?」


私が強めの口調でそう言うと、彼は少し沈んだ声で言った。


「すみません。僕…」


しかし彼が何かを言いかけた矢先、私の分のドリンクを運びながら合コン主催者のトモヤ君が言った。


「ごめんねー、美菜ちゃん!こいつ、目が見えないんだよー」

「…え」


そんなトモヤ君の言葉を聞いて、私は真っ先に嘘だと疑った。

目が見えないのに何でこういう合コンなんて来てるのよ。

ただ人見知りでこういう賑やかな場が苦手だからそうやって嘘吐いてるだけでしょ。


「…嘘吐くならもっとマシな嘘吐いてよね」


しかし私がそう言うと、目の前のその男が言った。


「あの…本当です。僕、本当に目が…見えないんです。今日はただ僕は、人数合わせに来ただけなんです」


僕は端っこで邪魔しないように大人しくしてるので、どうぞ、構わず合コンを続けて下さい。

なんて、その男がそんなことを言うもんだから、「そんなことより美菜ちゃんさ」とウザ絡みをしてくるトモヤ君の腕を振り払って、私はその男のすぐ隣に席を移動した。


「…え?あの」


目は見えなくても、音で判断しているんだろうか。

私が席を移動すると、男も少し戸惑うように顔をこちらに向ける。

そんな男に、私は面白半分で問いかけた。


「ねぇ、両目とも見えないの?」

「あ…はい」

「なんで見えなくなったの?」

「えっと…3歳の時に高熱が、出て…それで」

「え、そこからずっと見えないままなの!?」


やば。私は男のそんな言葉を聞くと、そう言って嘲笑した。






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