第2話 全ての始まりは酒場から

「『冒険の書が消えました。』は皆様のおかげで第二話までやってこれました!」


「二話ぐらいでそんなことしねぇよ!誰のおかげでもないよ!惰性で冒険してるよ俺ら」


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「本当なんです!Fランクの冒険者があの巨大なドラゴンを倒したんですよ!」


 受付嬢は背丈の高い女性に必死に訴えかける。

 少し笑みを浮かべた彼女は受付嬢の首に刀を向ける。


「覚えていてほしい。この国の温情でこの施設がまだ形を保っているのだと。冒険者は罰せられるべき者の集まりなのだと。私たちがその気になれば冒険者たちを潰すのなんて造作もないことを」


 彼女はスッと鞘に収めると恐怖で固まる受付嬢を背に『集会所』を後にする。


「さて、久々に会いにいくとするか。その冒険者とやらに」


 彼女はドラゴンの背に乗ると颯爽と国を後にする。


 ここは『ツギノ王国』

 雪周とレイがドラゴンを討伐した『ハジマリーノ国』から少し南東へ離れた場所。


 その国の酒場に二人はやってきた。


「やっぱり冒険といえば酒場だろ!!」


 酒が飲めるとテンションが上がる雪周に目的はそれじゃないと体に教え込むレイ。


「私たちはあくまでも情報収集に来たんだよ」


「情報収集?」


「そう!『冒険の書』を集めるのが私たちの旅の目的でしょ?その為に情報が必要なの」


「え?お前まだ『冒険の書』を集めようとしてたの?てっきり諦めたものだと…」


「諦めきれねぇよ!まだ二話なんだよ!それに私の夢、いや冒険者みんなの夢なんだよ!」


「俺たちが旅を始めてどんぐらい経った?」


「まぁ一年行かないくらいじゃないかな」


「それで『冒険の書』に近づいたなって経験は?」


「全くもってなし!」


「俺たちは多分旅するセンスがねぇんだよ!そんなやつが夢を簡単に語っちゃダメだろ」


「およそ十兆G」


「へ?」


「『冒険の書』を全て集めた際の最低取引価格はおよそ十兆Gと言われてる」


「レイ!なにしてんだよ!早く俺たちの夢を捕まえるためにこの酒場の奴らを片っ端からぶん殴って『冒険の書』の在りかを吐かせるぞ!」


「現金なやつ…」


 雪周はビール片手に不審に酒場をうろつき回る。

 一通り見渡したところで一番弱そうなやつ目掛けて乾杯を繰り出した。


 雪周はゆっくりと肘を引き酒場で楽しむ男の冒険者の顔目掛けて思いっきり腕を突き出す。


「乾杯〜!!」


 気持ちのいい快音とともにジョッキが冒険者の顔へとめり込む。


 酒場の壁まで吹き飛ばされた冒険者は口から血を流しながら雪周を睨みつけながら叫んだ。


「てめぇ!なにしやがんだ!」


「すまん。あまりに乾杯顔だったから乾杯しちまった」


「乾杯顔ってなんだよ!!」


「それよりも『冒険の書』に関する情報、もしくは『冒険の書』そのものを差し出せ!さもなくば、もう一度乾杯すっぞ」


「乾杯って脅し言葉じゃないんだよ!何かの隠語みたいに言ってんじゃねぇぞ!」


 そんな小競り合いを横にじっくりと酒を楽しむ男が雪周を指差し豪快に笑いながら口を開く。


「リャハハハ!『冒険の書』のことが知りてぇのかサムライ」


 そのおかしな笑い方を聞いた途端に酒場が一斉にザワつき始める。

 酒場にいる冒険者たちはまるで夢でも見ているかのように目をこすりながら変な笑い方をする男を凝視している。


「なんだお前。笑い方海賊王か?」


「リャハハ!教えてやってもいいぜ。『冒険の書』について」












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