第52話 最後の戦いが終わりました

「アスモ、弾はまだあるな?」

「あるけど……余裕はそんなにないわよ?」

「分かってる」

 アスモに残弾の確認をして、俺は美女に向き直る。今はベルゼが相手をしているが、軽くあしらわれていた。

「ベルゼ……!」

「うん……!」

 ベルゼに声を掛け、彼女を一旦下がらせる。それと同時に、俺は刀で床に落ちた物を―――アスモが撃った弾の空薬莢や、円卓から落ちて割れた陶器の破片を掬い上げ、美女に向けて飛ばす。

「そんなものが効くと思ってるの?」

 当然、美女はそれをあっさり避ける。だが、それでいい。俺は気にせず、次々と小物を戦場に投げ込んでいく。

「こんなもんか」

「……ねえ、真面目にやってくれる?」

 そうして、美女の周囲がゴミ塗れになった。アスモからは苦言を呈されたが、恐らくこの方法でないと突破できないので気にしていられない。

「随分散らかしたわね。まきびしのつもり?」

 この惨状を見て美女はそう呟くが、こいつにまきびしは役に立たないだろう。足を取られて転ぶほどのドジだとは思えないし、それならここまで苦労しない。

「アスモ、ベルゼ、やるぞ」

「はいはい」

「うん!」

 状況を整えて、俺は二人に声を掛ける。これだけでは簡単な意思疎通しか出来ないが、それでいい。やってたら分かるだろう。

「そらよっと……!」

「またなの?」

 床のゴミを刀で掬い上げ、美女に向かって投げる。当たり前のように回避されるが、間髪入れずに次々投げ込む。

「おらっ……!」

 勿論それだけでなく、刀で斬りかかることもする。ゴミを壁に当てて反射させつつ、逃げ道を塞ぐように刀を突き出し、防ごうとする前に引っ込める。距離を詰められる前に後退してゴミを投げつけ、深追いして来なければ再度突っ込む。

「ベルゼ……!」

「うん……!」

 俺の攻撃がさっきより緩くなった分は、ベルゼに加勢して貰って補う。……そろそろ頃合いのはずだ。

「アスモ……!」

「ったく……!」

 そこでアスモに銃を撃たせる。当然、これも回避されるだろう。

「くっ……」

 案の定、美女は銃弾を避けた。しかし、今までのように平然とはしておらず、苦しそうに顔を顰めていた。

「やっぱりか」

「バレちゃったようね……」

 俺が美女のカラクリを看破するのと、彼女がそう漏らすのは同時だった。

「どういうこと?」

「こいつの強さは、驚異的な感知能力と演算能力の賜物らしいからな。だったら演算の邪魔になるゴミを増やしてやればいい」

 美女の言葉を信用するのであれば、彼女は周囲の情報を元に未来を演算している。であれば、演算を妨害すればいい。

「宙にそれなりの大きさのゴミが舞っていたら、弾丸の軌道を読むのは難しくなるだろ」

「よく気づいたわね」

 正直、この策が通じるかは賭けだった。

 血飛沫を回避できなかったのは、小さい物体を演算するのは難しいから。けれど、銃弾は躱せる以上、出来ないことはないはずだ。だったら、その難易度を上げてやればいい。銃弾に近い大きさの物なら無視するのはリスクがあるはずだし、妨害には丁度良いだろう。

「オリジナルの私だったら、これくらい余裕のはずなんだけどね……」

「オリジナル?」

 ボヤく美女の言葉に、俺は思わず聞き返してしまった。……どうやらこいつは俺たちを謀るつもりもないようなので、どうせなら取れるだけの情報を取ってしまおう。

「そうよ。今の私は、オリジナルのコピーだもの」

 そんなことを思って食いついたところ、意味不明なことを言われてしまった。

「私たち七天王は、一から作られた訳でも、転生者という訳でもない。既にいる人の姿や力を元に作られた劣化コピー。記憶も経験も引き継げないし、肉体的にも弱体化してる。私は演算能力である程度事情を把握してるけど、それだけだし」

「ふーん」

 なんか色々言っているが、正直殆ど理解できないし、興味もない。戦闘の役にも立たなそうだし、それ以上聞く価値を見出せなかった。

「んで? これで通してくれるのか?」

「まさか。言ったでしょ? 一撃入れるまで通さないわ」

「だよな……」

 話が逸れたが、結局は何も終わっていない。方向性はこれでいいとしても、まさかこれだけでまともにダメージを入れられるとも思ってなかったし。

「さあ、第二ラウンドよ」



「アスモ、お前も前に出ろ」

「了解」

 攻略法は分かったものの、それでも簡単に勝てる相手ではない。となれば全力で押し切るしかないだろう。

「袋叩きだけど、悪く思うなよ」

「別にいいわよ。それで勝てるのならね」

 三人に囲まれて、美女は狼狽えるどころか挑発してくる。その余裕がいつまでもつのか。

「行くぞ……!」

 俺が床のゴミを掬い上げて飛ばすと同時、ベルゼとアスモが駆け出す。

「はぁっ……!」

「えいっ……!」

 ベルゼはナイフで斬りかかり、アスモは銃で殴り掛かる。そうしながら、舞い上げたゴミをお互いに弾き飛ばし合い、包囲網を作った。

「息がぴったりね。さすがは姉妹」

 軽口を叩く美女だが、今までと比べて動きの精彩を欠いているようだった。やはり確実に効いているようだ。

「俺も忘れるなよ」

 そこに俺も参戦し、三人で美女を追い詰めていく。

「悪くはなかったけど、攻撃パターンが少なすぎよ」

「知ってるわよ……!」

 とはいえ、相手がこちらの動きに慣れてしまえばこの作戦は効き目が悪くなる。演算を妨害したところで、そもそも演算する必要性が薄れてしまえば妨害にならない。その対策を、アスモはちゃんと考えてくれた。

「うおっ、危ねーな……!」

「知るか馬鹿……!」

 俺が刀を振るうタイミングに合わせて、アスモが俺に向かって発砲してきた。銃弾が刀に当たって、嫌な音を立てる。うまく刀で弾き飛ばせたからいいが、下手をすれば俺に当たっていた。

「くっ……!」

 けれどその甲斐はあった。刀に当たった弾が跳ねて、美女に向かって飛んで行った。それも躱されたものの、相手の髪を何本か持って行った。掠り傷ですらないが、ようやく命中させることが出来た。

「跳弾まで全部把握できるかしら?」

「味方に撃つなんて、思い切ったわね」

「未来は読めても、心までは読めないか?」

 正直あんまりやりたくないが、この際だから使える手は全て使う。とはいっても、アスモはエイムが怪しくなりつつあるし、俺の刀もそんなに頑丈じゃない。同じ手はそう何回も使えないだろう。

「うりゃあーーー!」

「ちょ、おい……!」

「何やってんのよ……!」

 すると、今度はベルゼが動いた。ゴミを飛ばしまくり、壁や床に当てて反射させていく。更にはナイフを大きく振り回して、俺たちを巻き込みそうな勢いで美女に斬りかかった。お陰で同士討ちになりそうだった。

「やるじゃない……!」

 けれど、ベルゼの猛攻によって美女の頬に傷が入った。先程から動きが鈍っているし、思ったより作戦が効いている。

 こいつがやっている演算は相当高度なものなのだろう。それに余計な負荷を掛けまくった結果、脳が疲労してきているのかもしれない。

 それに、この美女は身体能力自体はそこまで高くない。演算によって最適な動きが出来ることでその差を埋めているだけだ。心身ともに疲弊させれば崩れるのは早い。

「アスモ、ベルゼ、合わせろ……!」

「ええ……!」

「うん……!」

 三方向から、合計六つの武器で攻撃する。ただでさえ対処困難な攻撃だ、疲弊した美女が捌くのは難しいだろう。

「このっ……!」

 今まで飄々としていた美女が焦りを露わにして腕を振るう。俺の刀を指で白刃取り、それで俺の動きが止められた。

「そらっ……!」

「きゃっ……!」

 そして後ろに蹴りを繰り出す。ベルゼがナイフで防ぐが、片方のナイフが弾かれる。

「はぁ……!」

「ちっ……!」

 更には俺の刀を無理矢理動かして、アスモの打撃を防ぐ。

「でも―――」

「これで―――」

 けれど、それが限界だった。アスモとベルゼの攻撃は片方しか防げておらず、残りを止める手段がない。アスモの銃が頭を、ベルゼのナイフが肩を捉え、美女を打ち倒す。

「……お見事」

 そうして、七天王最後の一人は平伏すのだった。

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