第44話 各々戦いました

  ◇◆◇



魅惑幻影アリュールイリュージョン……!」

「えいっ……!」

 幻影で敵の視界を塞ぎ、その隙にベルゼが斬りかかる。最早慣れた連携だ。

「……鬱陶しい」

 だけど、剣士の女は幻影を即座に消し飛ばして、ベルゼの攻撃にも対応する。

「このっ……!」

「……銃は面倒」

 ベルゼの斬撃の合間に銃撃で剣士の女を狙うけど、後退で躱された。ベルゼはナイフとはいえ二刀だし、それに加えて幻影と銃まで捌くなんて……七天王の連中はどいつもこいつも化け物すぎる。

「アスモ、まだやれる?」

「当然でしょ」

 ベルゼの問いに私―――アスモはマガジンを取り替えながらそう答えた。前回の七天王戦はほぼタイマンに近い戦いだったから弾の装填をする暇がなかったけど、今回はベルゼと一緒だから多少は余裕がある。

「でも、闇雲に戦ってても埒が明かないわよ」

「それだよね……」

 余裕はあっても、楽勝とは到底言えない状況ではあった。相手の剣士は普通に強い。銃を見切って避けてくるなんて芸当を平然としてくるし、私とベルゼだけだと決定力に欠ける。

「……いい加減にして欲しい」

 その上、話し合っている時間もない。剣士の女が復帰してきて、戦闘再開である。

「ベルゼ」

「うん」

 名前を呼ぶ。それだけで意思疎通が出来る。さすがは相棒、どこかの馬鹿兄貴よりもずっと頼もしくてありがたい存在だ。

「はぁ……!」

「……ワンパターン」

 ベルゼが剣士に斬りかかるけど、普通に対応される。そこまでは今まで通り。

「……!」

 そんな剣士の女を死角から狙撃するけど、普通に気づかれて回避された。……ベルゼに気を引いて貰って、わざわざ幻影を身代わりに立てつつ茂みに隠れて狙ったのに、当然のように避けないで欲しい。

「聞いてはいたけど、さすがに強いね……」

「ええ……」

 茂みから出てベルゼの隣に並びながら、私は頷いた。……ベルゼは七天王との初戦闘だけど、私やルシフルから前回の連中の話を聞いていたから、強敵であることは理解している。とはいえ、戦闘経験が少ないのは変わらないし、それ故に地力で劣る私と組むことにしたんだけども。

「……やっぱり、銃士が一番邪魔」

 そんなことを考える暇もなく、剣士が私目掛けて斬りかかってきた。

「くっ……!」

「アスモ……!」

 相手の剣を銃で受ける。一撃では終わらず連打されるけど、何とか防げてはいる。

 以前、宗近とかいう男に修行をつけて貰ったことで、多少は近接戦も出来るようになった。だから即死しないで済んでるけど、それでも生きた心地がしない。

「アスモから離れろ……!」

「……こっちの方がまだマシかな?」

 ベルゼが剣士に斬りかかるけど、剣士はベルゼと私、二人を同時に相手をし始めた。圧倒的に手数が足らないはずなのに、空いた手で殴り掛かったり蹴りを交えて補っている。……ほんとに化け物だけど、お陰で多少は考える余力が出来た。

(あの人狼と同じで身体能力が異常だけど、その割には戦い方がお粗末なのも同じね)

 この剣士は私より小柄なのに、見た目とかけ離れた戦闘力を発揮している。パワーよりは速度に寄っているみたいだけど、問題はそこじゃない。

 前回の人狼は身体能力の高さに対して、戦闘技術が未熟という歪さがあった。この女も同様だ。銃撃を察知して回避できるのに、いくら二人掛かりとはいえ私たちを倒せていない。こいつも身体能力に物を言わせて技能を磨かなかったパターンだろうか?

(となれば、そこがつけ入る隙になるか。一撃入れれば何とかなりそうだし)

 この女は人並外れた戦闘力があるけど、耐久面は普通の人間とあまり変わらないみたいだった。最初に足を撃った時は掠っただけとはいえダメージになっていたし、それ以降も回避し続けているから、当たれば倒せるはずだ。その点で言えば、魔物よりは全然何とでもなる。おまけに技術面ではそこまで脅威じゃないとなれば、そこを突いて急所に一発撃ち込めば勝てる。

(後は、それをどうやってやるかって話よね……)

 言うのは容易いけど、それを実際に成し遂げるのは難しい。どうやって一撃を通すのか、私は頭を悩ませるのだった。



  ◇◆◇



「はぁっ……!」

「ちっ……!」

 槍使いの刺突を刀で往なして防ぎ、木の陰に隠れる。だが、向こうも動いているから猶予は一瞬だけだ。その間に息を整え、戦況の考察を進める。

「ったく……」

 戦場は森の中。木々が立ち並ぶ場所なせいで刀を振り回しにくい。相手は槍による突きをメインに戦ってくるからその点でもこちらが不利。俺の能力ではアスモやベルゼのように搦め手も使えないし、技術と立ち回りで不利を埋めていくしかない。

「……っ!」

 その直後、攻撃の気配を感じて咄嗟に回避。間合いでも不利な上に動きを制限されて、主導権を取られているのがしんどい。

「くそっ……!」

 とにかく距離を取って森に潜もう。居場所を察知されていると一方的な戦いになる。

「……」

 木々や茂みを使って隠れる。音を立てれば居所を気取られるから、呼吸にすら気を遣う。

(……槍使いとの戦闘は、あいつ以来か)

 そんな中、俺が思い出すのは宗近との修行。あいつは剣士なので刀で斬り合うことが多かったが、例外が二回だけあった。一度目は徒手空拳、二度目は棒を使われた。

 この状況で参考になるのは、棒を使われた時の経験。槍と同じ長物を使って、俺を何度も転がしてきた。その時に説かれたのは、棒による攻撃手段。突きによる点の動きと、振り回すことによる円の動き。だが、今のあいつは後者の動きを封じられている。そこだけは俺と同じだ。まあ、そのせいでリーチの差がそのまま不利に繋がっているんだが。

「かくれんぼか? 遊んでる暇はないんだがな」

 槍使いの声が徐々に近づいている。完璧ではないにしても、ある程度こちらの場所が割れているみたいだ。時間稼ぎにもならないか……。

(ベルゼの作戦を借りるか……)

 片方の刀を静かに地面へ下ろし、適当な石を拾う。そしてそれを水平に投げた。遠くの木に石が命中し、茂みが揺れて音が鳴った。ベルゼが魔物相手に使っていた手だ。

「そこか……」

 そちらに向かって槍使いが飛び込むのを感じ、俺は刀を拾って槍使いを横から奇襲する。

「っ……!」

 無論それもすぐに気づかれたが、側面からの急襲によって少しだけ有利に立つ。

「小賢しい……!」

「そりゃどうも……!」

 相手の突きを左の刀で受け流し、右の刀で突き返す。体を捻って躱されたが、刃の向きを変えて斬りかかった。

「ぐっ……!」

 そうして、相手の左手を切り裂くことに成功した。だがそれも浅い。片手を封じることは出来ただろうが、それでも軽傷止まりだろう。

「おぉ……!」

 でも、それがいけなかったのかもしれない。ようやく入れられた一撃に気が緩んだのか、それとも防いだ攻撃が意識の外に追いやられたのか。相手が槍を引いた時に、俺の左肩を軽く掠めた。

「ぐはっ……!」

 その直後、肺の中から空気が押し出され、足に力が入らなくなった。運動以外の理由で動悸が酷くなり、歯が噛み合わなくなり、頭が割れるように痛み出す。何が起こったんだ……?

「手こずったが、どうにか当てられたか……」

 苦しむ俺に、槍使いが安堵の声を漏らした。

「とある神話で、必殺の槍と名高いガ・ブルギ。その名前をこの槍に与えた。人の姿をしたものにしか効果を発揮しないという欠点はあるが、俺は人間には勝てないからな。本来ならば使う機会もない技だった」

 槍使いが何かを言っているようだったが、俺には聞いている余裕がなかった。体の制御が出来ない、思考が纏まらない、とにかく苦しくて呼吸すら覚束ない。

「冥途の土産のつもりだったが……時間の無駄だったな」

 そんな言葉にも、いや言葉を理解することが出来ないので最早ただの音だが、それに反応すら出来ず。頭の中が真っ白になるのだった。

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