第30話 王都に着きました

  ◇◆◇



「おいおいおい、冗談じゃねぇぞ……!」

 七天王との戦闘を終えて。俺はアスモを担いで中央王国へと走っていた。

 南の方から迫ってくるのは、白く光るガラスのような壁ような何か。先程乗り越えた丘も飲み込み、王都の城壁も取り込まれつつある。あれに掴まったらどうなるかなど、考えたくもない。

「もっと速く走りなさいよ……!」

「無茶言うなよ……!」

 担がれているアスモが急かしてくるが、こいつを抱えているせいでいつも程の速度が出ない。そうでなくとも激戦の直後で、軽傷とはいえ怪我もしているんだ。未だに追いつかれていないだけでも奇跡である。

「もう少し……!」

 国境を跨ぐ門はもう目と鼻の先だった。門は開放されていて、このまま突っ込めば中央王国に入れる。……国境を越えてもこれが止まってくれる保証はない。けれど、壁で止まってくれるのを期待してあそこに逃げ込むしかないのだ。

「ルシフル君……! アスモちゃん……!」

「無事だったか……!」

 門の前には真由美と幸太郎がいた。彼らはここでずっと待っていたようだ。

「お前ら、門に入れ……!」

 俺は彼らに入国を促しつつ門に向かう。彼らも迫り来る壁に気づいたのか、慌てて門の奥へと入っていく。

「っ……!」

 門に駆け込んで、即座に横に逸れて光る壁から隠れる。地面にへたり込み、光る壁が迫るのに備えた。

「……」

 それから少しして。もうとっくに追いつかれるくらい時間が経過していたが、特に何も起こっていない。助かったのか……?

「ちょっと、あれ……」

「ん?」

 アスモに言われて、俺は後ろを振り返った。壁の上、南方王国の空が広がっているであろう部分を、透明な何かが覆っていた。日の光を反射しているので完全な透明ではないが、かなり透明度が高い。

「門から覗いてみるか……」

 アスモを下ろして、俺は門のところに戻ってみる。門の向こうも透明な何かに覆われていて、とても戻れそうにはなかった。街道脇の雑草が不自然な形で固まっているし、南方王国側の時間が完全に停止したかのようだった。

「……とりあえず、こっちに入って来る様子はないな」

 これが何なのか、見た目通りガラスなのかは分からないが、ともかく国境を越えてくる様子はなかった。これで一安心だな。

「だ、大丈夫なのか……?」

「とりあえずはな。そうだ真由美、アスモが怪我をしているんだ。回復魔法を頼む」

「えっ!? う、うん、すぐに治すね!」

 差し迫った危機は去ったので、俺は真由美にアスモの治療を頼んだ。応急処置しかしていないし、それすら十分でない状況で全力ダッシュをする羽目になったのだ。早く治してやらねば。



「ここが王都か……随分と近いな」

 アスモの治療を終えて、俺たちは中央王国の王都に赴いていた。国境から徒歩数時間という距離にあり、疲労困憊ながらもどうにか辿り着くことが出来た。王都というだけあって、やたらとデカくて人通りも多かった。まあ、活気だけなら交易都市の方があったが。

「中央王国ってU字型の領土になってて、王都も真ん中にあるから、国境から近いみたい」

「ふーん」

 真由美が王都の立地について説明してくれた。そういえば、前に地図を見た時もそんな感じだった気がする。あの時は交易都市サンライへの配達目的で見てたから、中央王国まではそれほど気にしていなかったが。

「お腹空いたわ……」

「まあ、飯は食いたいし宿に泊まって寝たいが……ここでもちゃんと金下ろせるよな? 持ち合わせはないんだが」

 人里に来たことで物資の補給や寝床を得ることが出来るようになったが、問題は金だ。ルクスナを出た時に、手持ちの金は全て物資の購入に充ててしまった。冒険者ギルドで金を下ろす余裕がなかったので預けていた金はそのままになっているはずだが、他の町のギルドでも引き出せなかったら破産だ。

「確か大丈夫だったはずだけど……国を跨いでても平気なのかな?」

「まあ、とにかくギルドに行こうぜ」

 適当な通行人に道を聞いて、俺たちは冒険者ギルドへ向かう。

「なんか、ルシフル君たち、見られてない?」

 その道中、真由美がそんなことを言い出した。確かに、擦れ違う通行人が俺たち兄妹に目線を向けている。

「まあ、この外見だからなぁ……」

 とはいえ、注目を浴びるのは当然のことだ。白髪に赤目なんて容姿はどうしても目立つ。前にいた町でも、転生してしばらくは注目を浴びていたし。

「そんなことより、ギルドが見えてきたぞ」

 雑談をしている間に、ギルドに到着した。中に入って、受付へと向かう。

「おーい、金の引き出しを頼むー」

「はーい」

 受付で声を上げると、近くにいた受付嬢がこちらへやって来る。そして俺たちを見て、彼女はふとこう漏らした。

「あれ? ベルゼさん?」

「「!?」」

 受付嬢の口から出た名前に、俺は思わず目を見張った。恐らくはアスモも同じリアクションをしているだろう。そうならないはずがない。

「あれ? あれれ? ベルゼさんじゃ、ない……?」

「ベルゼがここにいるのか!?」

「きゃっ……!」

 聞き間違いじゃない。やはりこの受付嬢はベルゼと言った。あまりの衝撃に、俺は思わず受付嬢に迫った。

「ちょ、ちょっと、ルシフル君……!」

「どうしたんだよ、急に……!」

 真由美たちが俺を止めようとするが、こいつらを気にしている余裕がなかった。何でここであいつの名前が……? まさか、本当にあいつがいるのか?

「ベルゼが、ここにいるの……?」

「どうなんだよ!? ベルゼがここにいるのか!? 答えろ!」

「い、痛いです……」

 受付嬢の肩を掴んでベルゼの所在を聞き出す。だが、受付嬢はなかなか話そうとしない。

「落ち着けルシフル……!」

「落ち着いていられるか!」

 幸太郎に窘められるが、構っていられない。もう二度と会えないと思っていた相手と再会できるかもしれないんだ、平静でいられるものか!

「いいから落ち着けっての……!」

「ぶっ……!」

 だが、幸太郎に顔面をぶん殴られた。めっちゃ痛い……。

「何やってんだよ……お前らしくもない」

「……当たり前だろ」

 殴られたことでほんの少しだけ頭が冷えたが、それでも平常心とは程遠い。今すぐこの受付嬢を締め上げてでも、ベルゼの居場所を聞き出したいところだ。

「だ、大丈夫ですか……?」

「は、はい……あの、もしかして、ベルゼさんのご家族の方ですか?」

「……ああ」

 とはいえ多少は落ち着きを取り戻したことで、受付嬢の問いに俺は大人しく頷いた。そう、ベルゼは俺にとって、アスモにとっても当然、大切な家族だ。

「ベルゼは、俺の妹だ」

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