第28話 思いつきました

「おらっ!」

「っ……!」

 人狼が繰り出した五本のロープが、俺の方へ向かって伸びてくる。ロープの先には鏃のような金属片が取り付けられていて、これだけでも十分な殺傷力がありそうだった。まともに受けるのは論外、刀で弾くにも手数が足りない。となれば選択肢は一つ。

「はぁっ……!」

「おいおい、勇敢過ぎんだろ」

 俺が選んだのは距離を詰めること。この手の遠距離攻撃は懐に入られると弱い。アスモが戦っている金髪少女も、近接戦に持ち込まれたせいで浮遊する刀を持て余している。それにどの道近接戦以外の選択肢はない。ここは距離を詰める一択だ。

「けれど、わざわざ付き合う理由もないよな」

 だが、人狼は当然のようにバックステップで距離を取ってきた。このまま距離を広げていけば完封できるので、こうなるのは必然だろう。このまま追いかけっこを始めても勝てるか怪しい。だったら―――

「アスモ……!」

「了解……!」

 俺はアスモに声を掛けて方向転換。それと同時に、彼女の方も反転して俺の方に来る。

「なっ……!」

「えっ……?」

 困惑の声を上げるのは人狼と金髪少女。俺たちは対戦相手を入れ替えて、お互いに戦いやすい奴と戦うことにしたのだ。

「うらっ……!」

「え、ちょ、待って……!」

 俺は金髪少女に刀を振るう。相手も鞘で応戦してくるが、武器の威力ではこちらが勝る。体格差も合わせてこのまま押し切ろう。

「ダーク……! 出し惜しみするな……! リスクを恐れて勝てる相手じゃねぇ……!」

「分かった……!」

 すると、人狼が金髪少女に指示を出した。その直後、宙を漂う刀が俺に向かって飛んでくる。

「うぉっ……!」

 自分を巻き込みかねない軌道を飛んでくる刀。俺はそれを躱して、或いは弾いて、捌いて行く。

「えいっ……!」

「くっ……!」

 だが、脅威は浮かぶ刀だけじゃない。金髪少女の鞘も防がないといけない。こちらの手数が刀二本に対して、相手は刀二本と鞘二本で、向こうの方が倍もある。うまくやらないと押し負ける……!

「うおぉぉぉーーー!!!」

 俺は声を張り上げながら、相手の攻撃を捌いて行く。鞘はともかく宙に浮かぶ刀は目で見て対応出来ないので、風を切る音を参考に何とか見切った。鞘による殴打を蹴りで相殺したりして、手数不足を補う。

「うわー、すごーい! ここまでやれるとは思わなかったなー!」

 全力で追い縋る俺に対して、金髪少女の方はまだまだ余裕のようだった。このままではジリ貧だ。この打ち合いもいずれ俺の体力が尽きて終わる。その前にこいつを出し抜かなくては。



  ◇◆◇



「このっ……!」

「おっと……!」

 私―――アスモは、人狼に向かって銃を撃った。けれど人狼はあっさり見切って弾を爪で弾いてしまう。……銃口の向きから弾道を読んだ訳ではないはず。反動の抑え方を変えてわざと狙いをブレさせているのに普通に対応しているし、純粋な動体視力と身体能力だけで対応しているのか。でも、それなら私自身をさっさと殺さないのは不自然すぎる。銃弾を弾き飛ばすよりも、私をさっさと殺す方が容易いはずだ。

「ちっ……!」

 金属片がついたロープが迫って来たので、私は銃で殴りつけて弾いたり、躱したりする。

 銃弾を見切れるだけの実力があっても瞬殺して来ないのは、このロープの制御もあるからだろうか。恐らく、自分の体とロープの操作を同時にこなすのが難しいのだ。それならロープの操作を止めて私をさっさと殺した方が良さげだけど、そうしないのは何か理由があるのか。それとも、単純にそこまで頭が回っていない? 身体能力に物を言わせているだけで、戦闘経験自体は少ないのだろうか?

「はぁっ……!」

「おいおい、野蛮すぎるだろ……!」

 とにかく中途半端な距離を取るのが一番悪手だった。私は一気に距離を詰めて、人狼に殴り掛かる。……宗近の指導で多少は近接戦に慣れたけど、正直まだまだだ。今は銃使いが殴り合いを仕掛けることで意表を突けているから何とかなってるけど、やがて対応されるのは明白だった。

「うぉっと……!」

「死ねっ……!」

 左手の銃で頭に殴り掛かって、向こうの爪に防がせる。その隙を突く形で右手の銃を発砲。腹に弾を撃ち込んだ。

「ぐっ……!」

「はぁ……はぁ……」

 どうにか一発叩き込んだけど、思ったよりもダメージが低そうだった。やっぱ見た目通り、普通の人間じゃないみたいね。

「なるほどな……喧嘩を売ってくるだけはあるってことか」

 土手っ腹から血を流しながらも、人狼はふらつく様子も見せなかった。やっぱり大して効いてない。

「……やってらんないわ」

 常人ならまず動けないダメージを与えても、平然と動いてくる敵。この世界に来てからずっとこうだ。私が銃で戦っているのは、対人戦において銃が強力な武器だからだった。標的を狙って引き金を引くだけで勝てる魔法の武器、それが拳銃だった。けれど、この世界で拳銃は魔法の武器になり得ない。魔物には殆どダメージが入らず、本物の魔法の方がずっと強い。片手で正確に当てられるように練習したり筋トレしたり、最近では銃を使った格闘技まで練習したのに、簡単に勝たせてくれない。こんな理不尽な世界、やってらんない。

(弾数もそんなにないし……やるんなら一撃で仕留めたい)

 銃に残った弾はそれぞれ五発ずつ。予備のマガジンはあるけど、こいつとの戦闘中にマガジンを交換するのは不可能だろうから、これが尽きたら手札が一気に減る。拳銃を鈍器にして殴ったくらいで倒せる相手じゃないし、「弾切れ=死」と言ってもいい。だから、急所を確実に撃ち抜いて倒す。それしかない。

(でも、そんな隙を見せてくれる相手じゃない……幻影を使っても、頭部への攻撃は見切られそうだし)

 まだこの戦闘では魅惑幻影アリュールイリュージョンを使っていないから、タイミング次第では不意を突けるとは思う。けれど、それを利用して弾を撃ち込んでも防がれそうな気がする。幻影の後ろから撃っても、弾道が頭部に向かっていればこいつは平然と防いでくるはずだ。さっきは頭を殴りつつ腹に撃ち込んだから、死角になっていて気づかれなかったというのもあるだろうし。

(このままグダグダ戦っててもジリ貧……一か八かに賭ける方が建設的ね)

 そこを何とかする方法は思いついてる。けど、実行にはリスクが大きすぎた。

 失敗すれば全滅確定なのは当然のこと、成功しても命を落とす危険がある。それに何より、実行するにはルシフルの協力が必須だ。作戦会議をしている余裕はないし、あいつが私の作戦を瞬時に察してくれるか、察してくれたとして躊躇なく実行してくれるか、そこが問題だった。一瞬でもまごついたり躊躇ったりしたらその時点で詰む。

「でも、やるしかないか……!」

 ここまでの思考時間は一瞬。迷っている時間もないし、腹を括って決断する。あの馬鹿兄貴に命運を委ねるのは癪だけど、こんな時くらいは信用してもいいだろう。あれでも一応は兄なのだから。

魅惑幻影アリュールイリュージョン

「うおっ……!」

 私は能力を使って、人狼の眼前に幻影を作り出した。即座に爪で掻き消されるけど、目晦ましが目的だから問題ない。私は既に、ルシフルの方へと走り出していた。

「ルシフル……!」

「おう!」

 私の呼び掛けに、金髪女と戦っていたルシフルが反転してこちらに向かってくる。

「逃がさないよ……!」

魅惑幻影アリュールイリュージョン

「うわっ……!」

 金髪女がルシフルの妨害をしようとしてくるけど、あいつの眼前に幻影を作って気を逸らす。問題はここからだ。

「……」

「っ……!」

 擦れ違いざまにルシフルとアイコンタクト。目を見張っているから、こちらの意図は正しく伝わったみたいだった。後は、こいつがちゃんと動いてくれるかと、運がこちらに味方するかだ。

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