第11話 新しいクエストを受けました
◇◆◇
「ルシフル君! アスモちゃんと一緒に寝てるってどういうこと!?」
「うるせぇ……」
朝。食堂で朝食を取っていると、真由美が急に食って掛かってきた。どうやら、アスモが寝ぼけて真由美のベッドに入ったらしい。そこから、俺と同室だった時にも同じことがあったと知ったのだとか。真由美はそれが気に入らないようだった。
「同じ部屋ってだけでもあり得ないのに、一緒に寝るなんて非常識だよ!」
「別に一緒に寝てる訳じゃないっての。アスモが勝手に入ってくるんだよ」
「だーかーらー! そんな状態で同じ部屋のままなんて駄目でしょ!」
「面倒臭ぇ……」
口に含んだ朝食を飛ばす勢いで叫ぶ真由美。正直ウザい。
「大体、何でそこまで騒ぐんだよ? お前に関係ないだろ?」
「それは……」
俺の問いに、真由美は言葉に詰まった。ここまで突っかかる理由はあるが、あまり話したくはない、といった感じだろうか。けれど意を決したのか、彼女はぽつぽつと話し始めた。
「……私、前世でお兄ちゃんと同じ部屋だったことがあるんだ」
「ふぅん?」
真由美が語ったのは前世のこと。こいつにも兄弟がいたのか。
「お兄ちゃんと私は実の兄妹じゃなかったんだけど……そのせいなのか、私にセクハラしてくることが多々あって。それで、私が中学に上げる前には部屋が分かれたんだ」
「なるほどな。それで、兄妹で同室っていう状況に拒否感がある訳か」
自分が兄から性的嫌がらせを受けていたという過去があって、そのせいで俺たち兄妹のことにも過剰に反応してしまうということらしい。
「うん……二人がそんな関係じゃないって分かってるけど、どうしても見過ごせなくて」
真由美も、自分が大袈裟にしすぎだということは理解している模様。それでも、自身の過去のせいでスルー出来ないでいる、と。
「まあ、それならしゃーないか……」
事情を聞き終えて、俺は溜息交じりにそう言った。……こいつはこいつで、それなりの過去を抱えている。それが影響してるっていうなら、俺たちに出来るのは配慮することだけだ。一応はパーティを組んでいる仲なんだし、多少のことは受け入れよう。幸い大した手間でもないし、何ならアスモからセクハラ野郎扱いされなくて助かるまである。
「ごめん……」
「まあ、悪いのはそのクソ兄でしょ? 全部そいつのせいよ」
謝る真由美に、アスモがフォローするようにそう言った。……こいつ、他人に気を遣ったり出来るんだな。しかも赤の他人に。真由美と馴染んだようで何よりだ。
「アスモちゃん……」
「さ、早く食べてクエスト行くわよ。人数が増えたんだから、じゃんじゃん稼がないと」
アスモは照れ隠しなのか、朝食を口に詰め込んでいく。今日も仕事だ。
◇
……三日後。
「……ここだな」
クエストで指定された場所に着いて、俺たちは足を止めた。……ここは町の近くにある森だ。今日受けたクエストは「ブラックベア10体討伐」であり、そのブラックベアが出現するのがこの森だ。
「だ、大丈夫かな……」
「あんたがビビッてどうすんのよ……」
何故今までと違うクエストを受けたかと言えば、パーティ人数が増えたせいで報酬の取り分が減ったからだ。ビッグラット討伐は報酬額が少ないから、三人で分けると赤字になってしまう。故に、連携が取れてきたこのタイミングで、より報酬が多いクエストに切り替えたのだ。俺とアスモだけでは困難なクエストだが、真由美が加わったことで火力面は補強されているし、立ち回りに気をつければ何とかなるという判断だ。
「とにかく気をつけろよ、お前ら。地下通路と違って、どこから奇襲されるか分からないんだからな」
先頭を歩く俺は、後ろの二人に注意を促す。ここは地下通路と違って屋外なので、全方位どこからでも魔物が襲撃してくる可能性がある。後衛の二人を守り切れないかもしれないので、彼女たち自身にも用心して貰わないと。
「う、うん……」
「分かってるわよ」
俺の言葉に、二人は大人しく頷いた。そのまま、獣道を通って森の奥へと入っていく。……ブラックベアの出現場所は、この森の奥。他の魔物は出ないらしいが、この前のビッグラットみたいに偶発的な大量発生もあるかもしれない。ギルドに問い合わせてある程度情報を集めたが、具体的な強さは戦ってみないと分からない。警戒レベルは今まで以上にしなければ。
「……」
「……」
「う、うぅ……」
神経を尖らせながら、俺たちは森を進む。真由美は最初に出会った頃みたくオロオロしているが、今回は彼女が重要ポジションなので、あの時みたいにテンパって動けないという展開だけは勘弁して欲しい。
「……来るぞ」
そんな中、俺は前方に気配を感じて足を止めた。地下通路と違って音が反響しないので聞こえにくいが、地面の揺れからも魔物の気配が分かる。ブラックベアはかなり大型の魔物らしいから、これはその移動による振動だろう。
「事前に話した通り、アスモは俺と一緒に足止め。真由美は魔法で魔物を狩ってくれ」
「了解」
「う、うん……!」
俺は二人に指示を出すと、刀を構えた。その直後、前の茂みからデカい熊が2体現れる。黒い体毛に覆われているし、こいつがブラックベアだろう。ギルドで見た情報とも一致する。
「
俺は能力を使い、先頭の熊に斬りかかる。森の中で火を使うと火事が怖いが、散らした火花程度で生木や茂みを燃やすのは難しいはずだから、大丈夫なはずだ。
「ぐっ……!」
熊の鼻っ柱に斬りつけたものの、あまりの硬さに刀が弾かれた。熊が悲鳴を上げているので、多少のダメージは入っているようだが……地下通路のネズミとは比べ物にならないな。
「
もう1体の熊は、アスモが能力で囮を作って足止めする。彼女の幻影を熊が薙ぎ払うことで、大きな隙が生じた。
「ホ、ホーリーランス……!」
その隙を突く形で、真由美の魔法が熊に命中する。かなりのダメージが入ったのか藻掻き苦しんでいるが、消滅には至らない。
「おらっ……!」
とにかく俺は目の前の熊を相手しなくてはならない。怯んだ熊の目を狙って突きを繰り出すが、やはり刀が弾かれる。急所を狙ってこれか……。
「ホーリーランス……!」
その間にも真由美が魔法を連打して、もう1体のほうを仕留めた。これで残りに集中できる。
「こっちだ……!」
熊の気を引いている俺は、そのまま熊の右側へと大きく迂回した。勿論熊も追ってくるが、それが狙いだった。
「ホーリーランス……!」
俺に注意が向いて隙だらけの横腹を、真由美の魔法が貫いた。苦しさから暴れ出す熊の猛攻を何とか躱していく。もう一撃……!
「っ……!」
魔法によって開いた傷口を、アスモの銃撃が襲った。熊の動きが止まり、またも致命的な隙が出来る。
「ホーリー、ランス……!」
そこに真由美の魔法が当たり、熊が消滅する。……どうにか倒せたようだ。
「……ふぅ。大分きつかったな」
「そうね……」
戦いが終わって、俺とアスモは一息吐いた。……この戦闘で、俺たち兄妹の攻撃は殆どダメージになっていなかった。真由美が加わっていなければ、二人纏めて熊の餌食だっただろう。まあ、その場合はこのクエストを受けることもなかったんだが。
「はぁ……はぁ……さ、さすがにしんどい……」
その真由美はと言うと、鞄の中から小瓶を取り出して、中の青い液体を飲んでいる。……真由美曰く、転生者が魔法を使うと魔力というものを消費するらしく、あの液体―――ポーションを飲むとその魔力が回復するらしい。
「とりあえず、今の戦闘ではっきりしたな……ブラックベア討伐は真由美以外は時間稼ぎしか出来ない。そして、その時間稼ぎも俺たちだと厳しい。精々2体までが限度、3体以上なら全力で逃げるべきって感じだな。戦闘中に別の奴に奇襲されたらほぼ詰みだ」
あの熊たちを倒すには真由美に頼るしかない。そして、彼女が魔法を撃ち込む時間と隙を作るのが俺とアスモの役目。だが、熊の数が多いとそれもままならない。大群と遭遇したり奇襲をされたら終わる。
「とにかく、少し休憩したらまた動くぞ。残り8体だ」
「ええ」
「う、うん……」
とはいえ、金を稼ぐためには泣き言を言っている余裕がない。俺たちはクエストを続行するのだった。
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