裏切られて死んだはずの俺が平行世界で力を得て最強になるまでの軌跡

刀根光太郎

第1話 ~運命の出会い~

【パラグラン王国・エデロディア領】


~とある一室~


 日が沈み、夜が訪れる。魔灯石まとうせきが部屋を明るく照らす。読書をするには十分なあかり。アレン・ヴォルディスは魔導書まどうしょの頁をめくる。


 黒い髪に一束の赤毛。黒い瞳の青年。彼は優秀な魔導師まどうしではない。だからこそ日々努力をしている。


 才能に乏しい彼が研究をしているのは転生の魔法。つまりは生まれ変わりの魔法である。彼は理不尽に抗う術を探していた。現状では転生したいとは考えていない。しかし、彼の人生が自然とそうさせる。



――――



 アレンは物心がつく頃には奴隷であった。子供でありながら働かなければ死ぬ過酷な環境。十歳になる頃には戦奴せんどとなり、剣を握った。そこであらゆる恐怖を体験した。


 数年後、休戦に入ると再び奴隷として使役される。いくら働けど裕福になることはない。奴隷だからだ。


 ある日、彼は魔導書に出会う。文字は戦奴の時、偶然教わる機会があった。共に戦ったご老人は優しく、戦い方の基本など必要な知識をくれた。しかし彼は、戦場でアレンを庇い亡くなった。その時、アレンは人生で最も涙を流した。


 アレンはご老人の「逃げろ」と言う言葉に従い、主人が油断した一瞬の隙をついて逃げ出した。


 魔導書には魔法の基礎が書かれていた。炎、氷、雷など自然現象に似ているが、

それとは法則が異なる不思議な力であると。彼は戦場で体験したあの恐ろしい力であると理解する。


 魔法を具現化するためにはマナが必要である。空間を漂う自然のマナと体内で生成されるマナ。魔法は体内で生成されるモノを使用する。


 魔法の基礎を習得する前、彼は冒険者で生計を立てていた。魔物の討伐、ハーブや薬草採取、護衛など、冒険者ギルドで発行する依頼を受ける者たちである。騎士団とは別の組織であるが、領地を守る役割を担っているのは同じである。


 冒険者は一人で活動するには危険である。予想外の事態が度々発生するからだ。アレンも定石に従いパーティーを組む。


 幸運にも三人の若者と出会った。剣士ゲリオゼ、魔導師レーシア、武道家オリビアとの四人パーティーを結成する。


 戦場を経験したアレンが作戦を考案する。当然作戦は完璧なモノではない。しかし素人の集まり、彼は貴重な人材であった。今にして思えば戦場を経験したとはいえ、

非力な一般兵であったので魔法に興味を持つのは自然の成り行きであっただろう。



☆彡☆彡☆彡☆彡



 暫くして、ギルドの依頼でとある街に滞在した時の事である。食料や水、魔導具の買い出しの途中、裏路地近辺を通りかかる。男の声が耳を刺激する。不快な怒鳴り声。戦場のとある一部分の記憶が蘇る。


 街中で物騒だと感じた。アレンがふと立ち止まり、原因となる場所を覗いた。女の子が襲われていた。数人に押さえつけられ、仰向けで抵抗している。荷物が落ちる。彼の体は勝手に動いていた。


 アレンは激怒していた。初級の魔法、『ファイアーボール』を放つ。空間に赤い魔法陣が現れる。そこから火の球が出現して発射される。


 男たちが怯む。立ち上がる前に蹴り飛ばした。不意打ちを受けた暴漢は地面に転がる。慌てて立ち上がって逃走する。


 彼女は恐怖で粗相をしていた。戦場を経験している彼は気にしない。衣服は破かれていた。体に切り傷もある。しかし、幸い彼女は無事であった。もう少し遅れていたら犯されていただろう。


「酷い事を……」

「……ぁ……ぁ……」

「もう大丈夫だ」


 自身のローブを彼女にかけた。放心状態であったので優しく手を握り、意識の回復を待った。数分後、彼女に意識が戻る。記憶がフラッシュバックして嘔吐をする。時間をかけて介抱する。


「大丈夫か?」

「……あ、貴方が助けてくれたの?」


「奴等は追い払った。あまり一人で裏路地を歩かない方が良い。まだ敗残兵も多いからな」

「ありがとう……」


 アレンはその場を去ろうと立ち上がる。しかし、彼女が泣き出したので慰める。恐怖は簡単には消えない。


 気分転換に少し会話をした。彼女の名はイリス・フローレス。改めて観察すると整った顔立ちに綺麗な金髪の長い髪。そして美しい青い瞳。頬が柔らかそうな女の子であった。


 彼女は同じく冒険者。回復師をしている。回復師は軽傷なら数十秒もあれば治療する。度合いにもよるが、重傷でも苦痛を和らげ、一時的に行動する事が可能となる。


 他には指定した人物の体力を回復させたり、一定時間身体能力を向上させたりできる。身体能力が向上すると感覚にずれが生じるため、受ける側も訓練が必要である。



 イリスは孤児であった。不幸だったのが院長と数人の大人からの虐待。さらに年長の子から陰湿な虐めを受けていた事だ。未だに小さな古傷が多く刻まれている。その辛い記憶からか彼女は現在も不安定な精神であった。


 ある時、老人夫婦に引き取られた。夫婦は優しかった。しかし、数年後に老衰で亡くなる。イリスは涙が枯れるまで泣き続けた。数週間は動けなかった。


 そして彼女は冒険者になった。しかし、楽な仕事ではなかった。治療や体力の回復等、魔法を酷使させられる。魔法は無限に使用できるわけではない。体内のマナが尽きると使用できない。さらにマナが欠乏すると体に悪影響が起こる。彼女は運悪く、心無い人々に搾取されてきた。


 精神が安定した頃、イリスは頬を赤らめる。恥ずかし場面を散々見られたからではない。


「私、アレンと一緒に行きたいっ」

「俺は既にパーティーを……」


「そ、それならその……入れてほしいの……やっぱり急に。嫌、だよね。私なんかが……ごめんなさい今のは忘れてっ」


「そんなことはない。俺が三人を説得する。だからそんな悲しそうにするな……」

「……あ、ありがとうアレン……私頑張る……」


 イリスが微笑かける。不思議な事にアレンも自然に微笑み返した。こうして五人パーティーとなった。

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