君からと僕から。

如月 愁

彼からの通知

真由はスマホの通知音に、すっかり条件反射で胸が高鳴るようになっていた。

大学の課題やバイト先からの連絡よりも、ずっと気になるのは——彼から届く小さな文字たち。


彼、というのは同じゼミの蒼。きっかけは些細なものだった。グループLINEで課題の話をしていたとき、真由がぼやいた「図書館にコンセント少なすぎ問題」に対して、蒼が「隅の机なら空いてるかも」って返信してくれた。それだけ。

でもそれ以来、二人だけのDMが始まり、通知は日常の小さな灯りになった。


「ピロン」

まただ。

スマホの画面をのぞくと、

『今日、帰り道一緒にどう?』

と表示されていた。


通知のプレビューに浮かぶたった一文で、真由の鼓動は速くなる。

開くのが怖いような、でも待ちきれないような。通知のバナーだけ見つめていると、まるでそれ自体が告白みたいに思えてしまう。


真由は返信欄に「うん」と打ち込んで、でもすぐ消して、「いいよ」に直す。

たった二文字の違いで、自分の気持ちがどれだけ伝わるか考えてしまう自分が、少し可笑しい。


駅までの道で、蒼が笑いながら言った。

「通知見たときの顔、たぶんすぐわかるよ。真由、すぐ赤くなるから」


「え、見えてた?」

「うん。俺も同じ。通知くるたびに、やばいって思ってる」


ふたりは顔を見合わせ、照れ笑いのまま視線をそらした。

その瞬間、ポケットの中でまたスマホが震える。

友人からの他愛もない連絡。けれど真由の心には、もう別の通知が鳴り続けていた。


それは画面に表示されない、ふたりの間だけで響く合図。

——恋が始まる音。

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