第二話 決闘 (改稿版)
ミゲルが訓練場に現れると、すでにレオは汗を流して剣を振っていた。
「よぉ。なかなか来ないから、逃げたのかと思ったぜ。」
訓練場に立つレオが、目の前に現れたミゲルをからかう。
「お前の戦い方はソヨルから聞いたぞ。細身の体格に似合わず、大鎌を軽々と操るんだろ?“死神”なんて呼ばれてたらしいじゃねえか。まったく、大層な二つ名だな。」
レオは軽口を叩きつつ、ミゲルに訓練用の剣を手渡す。
「…そういうお前は、普段どんな武器を使っている?」
ミゲルが鋭い眼差しで尋ねると、レオは口角を上げて答えた。
「俺は斧が得意だ。だが斧と大鎌じゃ公平じゃねえ。今日は互いに剣を使おう。それと、魔法はなしだ。」
筋骨隆々のレオと、細身のミゲル。体格差は歴然だったが、二人はそんなことを気にもせず、同時に剣を構える。
「二人とも、準備はいいな?一本勝負だけだぞ。こんな馬鹿げた勝負、長引かせる気はないからな。」
渋々ながら審判役を引き受けたカイが忠告する。
「では―始め!」
合図と同時に、レオが力強く踏み込み、大きく斬りかかった。
ミゲルは素早く身をかわし、するりと背後に回り込む。
「いつの間にっ…!」
慌てて受け流すレオ。しかしミゲルは一切隙を見せず、間合いを取り直していた。
次の瞬間、一歩踏み出したかと思うと、その姿が視界からかき消える。
「消えた!? うおっ―!」
困惑するレオの喉元に、冷たい剣先が突きつけられる。
その瞳に映るのは、命を奪うことさえ呼吸のように淡々とこなす“死神”の静けさだった。
手から剣が滑り落ちた。
「はい、終了。満足したか? レオ。」
淡々と告げるカイに、レオは拳を握りしめる。
「くそっ……なんで、こんな一瞬で……!」
「それは―わざとそうしたからだな。そうだろ、団長?」
カイが目を細めると、ミゲルは小さく頷いた。
「オレとお前じゃ、体格も体力も差がありすぎる。長引けばこちらが不利だ。だから短期決戦で仕留めた。」
「だからって…なんでそんな早く決着つけられるんだよ…。」
力なく吐き捨てるレオ。膝を折るようにその場に崩れた。
「魔法を使えば勝てるかもしれねぇ!」
希望を見出したように叫ぶが、カイは冷たく首を振る。
「無理だ。団長は相当な魔法の使い手だ。身体強化程度しかできないお前じゃ、到底敵わない。」
「…ぐっ、そうかよ。」
肩を落とすレオは、立ち上がるとふいにミゲルを振り返った。
「そういや、お前ソヨルの家に居候してるんだろ?」
「ソヨルの家というより、カルシダさんの家だが…それがどうした。」
「俺も今日、そこに泊まる。」
「は? なぜそうなる。」
珍しく狼狽するミゲルに、レオは当然のように言う。
「団長に相応しいかどうか、見極めるためだ。俺はな、戦に強いだけじゃ団長は務まらないと思ってる。」
レオは肩を叩きながら笑う。
「おい、勝手に決めるな。カルシダさんに迷惑だろう。」
カイが眉を顰めるが、レオは聞く耳を持たない。
「この前カルシダさんに『ぜひ今度泊まりに来て』って言われたんだ。今日がその日ってことにすりゃ文句ねえだろ。」
「いや、ダメだと言ってるんだ。」
「カイは頭が固いなぁ。なあ、お前はどう思う?」
今度はミゲルに視線を向ける。
「…どうしても今日じゃなきゃ駄目なのか。」
「おう。抜き打ちじゃないと意味ねえからな!」
しばらく黙考したミゲルは、静かに頷いた。
「……あぁ。いいだろう。」
「おい、本気かよ。」
信じられない様子でカイが耳打ちするが、ミゲルは低く答える。
「こんなくだらないこと、早く終わらせたいだけだ。」
「…だが、あのことがバレる危険性は高いぞ。」
「構わない。バレたらバレたでいい。」
「しかし…。」
二人がひそひそと話していると、怪訝に思ったレオが顔を覗き込む。
「何だよ、そんなに親密そうに。」
「別に。…いいか、絶対に迷惑かけるんじゃないぞ。」
カイが鋭く釘を刺すと、レオは一瞬たじろぎながらも睨み返す。
「わーってるよ。」
それでも何か言いたげなカイだったが、ミゲルに肩を叩かれて口を閉じた。
「……面倒なことになっても知らんぞ。」
カイは小声で呟き、片付けを始める。
「おい。お前らも片付けろ。」
怒られた二人も渋々作業を手伝う。レオは鼻歌を歌いながら楽しげに、ミゲルは無表情のまま淡々と。
「…随分楽しそうだな。」
「まあな。友達の家に遊びに行くみたいで、ちょっとワクワクしてんだ。」
レオは屈託のない笑顔を見せる。その無邪気さに嘘はない。
「遊びじゃないんだがな…。」
ぼそりと呟いたミゲルは、静かにため息をついた。
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