第3話 物語の主役になったみたい
「それでね、長澤くんがピアノ教室に通い始めたんだって」
お昼前に送ってきた動画の話題になった。いつものグループで商業施設へ遊びに来ていて、長澤がストリートピアノで演奏を披露したらしい。いすずたちが一緒に居たのもあって、脚を止めて聞く人も多かったんだろう。加えて、長澤は顔がいいから映える。
「あいつ、ピアノなんて弾けるんだ」
「ううん。昔はそんなの習ってなかったから、最近始めたんだと思うよ」
そんな短い間に引けるようになったなんて、素直にすごいと思った。でもなんでまた?
「いすずが変な顔してたの、動画に撮られてたよ……」
「変な顔って言わないでよー」
「ウソウソ。口開けてたのもかわいかったから」
「撮ってた人に、SNSに上げていいですかって聞かれたの。長澤くんがいいって言うし、私もすごい!――って思ったからいいですって言ったんだけど、あんな顔してたなんて思わなかったの!」
身振り手振りを添えて、慌てて説明する彼女がかわいかった。
ただ――
「さっきまでただの友達だったのに、長澤くんが突然物語の主役になったみたいで、すっごい興奮したの。あんなの初めて!」
何も、誰も悪くないのに、そう言った彼女がちょっとだけ腹立たしかった。
◇◇◇◇◇
いすずに麦茶を入れてもらったり、お菓子を食べて休憩したりしながら僕は夕方まで勉強していた。
「そうだ。明日、一緒にプール行かない?」
帰る前にいすずが聞いてきた。
「明後日じゃダメかな。明日は模試があるんだ」
「う~ん、土日は混むから明日みんなで一緒に行く予定なんだけど、つよしくんが来てくれると嬉しいなって」
僕は彼女のグループとは仲が悪いわけじゃないけど、特に良いわけでもない。まあ、勝間さんなんかちょっと僕をバカにしてる気もするし、木内さんもあまり話をしたことがないし、話しかけられたことも無い。佐藤さんだけ、いすずと一緒の時に少し話をするくらい。
三年に上がってからは勉強を頑張りたくて放課後に友達と遊ぶようなことがなかったから、男子には付き合いが悪いと思われてるのは間違いない。
いすずもこれまで何度か僕を一緒に遊びへ誘った。けど、ふたりで出かけるならともかく、グループの輪の中にはあまり入りたくなかった。
「――でも仕方ないっか。明日も行って、明後日はつよしくんと行こ」
「大変じゃない?」
「私、体力ついてきたんだよ。すごいでしょ」
確かに、以前の彼女に比べると体力がついたと実感していた。
夜、いすずとメッセージのやり取りをした後、思い出して昼の動画を観なおした。演奏してるのは例のトレカのアニメの新作劇場版の曲っぽい。ただ正直、いすずが言うほどは…………お世辞にも上手くはなかった。それでも長澤なりに頑張ったんだと思うし、いすずも感動したんだろう。人だかりもほとんどが子供連れだった。
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