第04話 夕食、フレンドとの出会い

 一度夕食を食べにログアウトし、再度ログインしたアプリコット。再ログイン地点は、最後に影響下にあったポータルの目の前になる。つまり、今回の場合は始まりの街のポータル前だ。

 ログインしてすぐ、アプリコットはお腹が空く感覚を覚えた。

(さっき食べたばっかりなのに!)

 再度の空腹にアプリコットは疑問に思うが、とりあえず空いていることに変わりはない。幸い、広場の周りには飲食店が複数あり、アプリコットは最初に目に入ったお店に入ることにした。

 

「いらっしゃい! 今は人がいっぱいだから相席になってもいいならどうぞ!」

 入店と同時に女将から声が飛んでくる。確かに、店内はテーブル席もカウンター席も人で賑わっていた。

「あ、それならここ空いてるよ。」

 少し濃い水色のショートヘアの女の人が声をかけてくれたので、ご厚意に甘えることにする。

「ありがとうございます。」

「困ったときはお互いさまだよ。あ、私はアニー。よろしくね。」

「あ、アプリコットです。にしても、人が多いですね。」

「みんな満腹度のこと、頭から抜けてたみたい。」

「あ、満腹度。そういえば、そんなのありましたね。」

「おやおやぁ? もしかして?」

「恥ずかしながら私もです。」

「だよね。まあそういう私もなんだけど。」


 満腹度。それは時間経過や活動状態によって減少していくステータスの一種で、食事でしか回復しない。また、ログアウト中もログイン中ほどではないが減少していく。満腹度が低下するとお腹が空いたように感じ、0になるとHPが徐々に減少する。運営曰く、

「ゲームとはいえ、肉体を維持するにはエネルギーが必要なんです。」

とのこと。


「アニーさんは何を頼みました?」

「『さん』も敬語もなしでいいよ。私は、〈ミナル兎のソテー〉だね。」

「ありがとう。じゃあ私も同じのにしようかな。すみませーん! 〈ミナル兎のソテー〉をくださーい!」


 食事を待つ間無言になるのもよくないと、アプリコットからアニーに話しかける。せっかくのフレンド獲得チャンスを逃さない手はないという打算もあるけれど。

「アニーはどういうスタイルでプレイしてるの?」

「私は《剣》と《盾》だよ。おもいっきり暴れたくて。」

「その割には《盾》も使うんだ?」

「どっしり構える感覚も好きでね。そういうアプリコットは?」

「《杖》から魔法を撃っていくスタイルだよ。」

「魔法かー。それもいいよね。そうだ、このあと空いてたらパーティ組まない? ちょうど前衛と後衛だし。」

 あっけらかんとアニーが言う。

「いいよ。じゃあ、フレンド申請しておくね。」

 こうして、アプリコットとアニーはフレンドになった。その時ちょうど、頼んでいた品が届く。

「はーい。〈ミナル兎のソテー〉だよ。」


 アプリコットもアニーも兎肉は人生で初の体験だ。アニーがこの品を注文した理由もそれである。ちなみに、せっかくの異世界だからと、食べたことのないメニューに飛びついたのはこの2人だけじゃない。店内の来訪者の多くがこの料理を注文していた。

「お肉、さっぱりしてるね。」

「癖があるかなって思ってたけど、ベリーソースとの相性がいい感じ。」

 アプリコットとアニーはそんな感想を抱いた。


 食事を終えた2人はまず、北門を出て草原で連携を確認することにした。今度のお相手は、先ほど戴いたミナル兎だ。


 ミナル兎 Lv.3

 

「《マジックショット》」

 まずは、遠方からアプリコットが先制をしかける。すると、兎は戦闘態勢になり、アプリコットへ飛び掛かってくる。

「よっと」

 それをアニーが盾を使って難なくカバーする。そして剣を振り下ろす。

「《スラッシュ》!」

 攻撃が命中する。兎のHPは残りわずかだ。

「アプリコット!」

「OK!《マジックボール》」

 魔法の球が、アニーを避けて兎に命中する。このゲーム、パーティーメンバーへのフレンドリーファイアは無効になっているが、攻撃が身体を貫通するわけではない。故に、制御が簡単な《マジックボール》をアプリコットは選んだ。そして兎はドロップアイテムへと姿を変えた。

 

「ふぅー、魔法があるとやりやすいよ。」

 戦闘を終えたアニーが感想を言う。

「1人だと斬って守っての繰り返しで気が休まらなくてさ。」

「私も前衛の有難さが分かったよ。攻撃を気にせず、魔法に集中できるもん。」

「それはよかったよ。」

 と、お互いを誉め合ったところでアニーが提案する。

「そうだ。せっかくだし、このまま北の森を攻略しない?」

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