第四十四話「紫の宝玉、空を裂く慟哭」

 全種族会談の日がやってきた。 城に様々な種族があつまる。 皆、緊張して会話をかわすものは少ないようだ。


(やはり今までの偏見などから簡単には打ち解けられはしないな。 とはいえ魔王復活阻止の目的は同じだ。 なんとかうまくいってほしいが......)


「あっ、パラルク!」


 肩にのっていたパエルクが飛び降りる。 走ったその先にはパエルクに似たケットシーが二足歩行で歩いてきていた。 それはちゃんと貴族のような服をきており、姿勢もきれいだ。


「ああ、兄さん」


「ほら、これがおいらの弟、パラルクだよ!」


 自慢げにパラルクを紹介した。


「兄がお世話になっております」


 そうパラルクは深々と礼をした。


「私はケイともうします。 パラルクさんは警護で」


「ええ、次の警護は私が選出され、今日は引き継ぎもかねてここにきました」


(ずいぶん、しっかりした弟さんだな)


「まあ、二人も話があるだろうから、私は部屋にいくよ」


 二人はなにか話ながら歩いていった。



「やはり会議はすぐにまとまらないか」


「ああ、各種族の主張があってな......」


 そうガガンが疲れたようにいった。 ガガンはオーク族の警護としてこちらにきていた。 ガガンの話によると、各種族が過去のことでわだかまりがあり、ひとつの言葉で紛糾したという。


「各種族も一枚岩じゃない。 種族内の対立を避けるためみんな弱腰にはできないんだろう。 居間はそれどころではないというのに......」 


 ガガンがそう頭を抱えている。


(この会議とてまだ各種族の長や王が指導力があるからこぎつけただけだからな。 これからどうなるかはわからないたろうな)


「ただ、宝玉をまもることでは一致しているだろ」


「ああ、そこだけは自分達にも影響があるからな...... それでケイ、バラシエと戦ったんだときいたぞ


「ああ...... あいつはガガンと戦い勝つために奴らに協力しているといっていた」


「そうか、やはり...... それが本音か」


「対立していたのか?」


「いいや、私が戦い方を教えていた。 あやつに負けないよう、常に鍛練をしていた。 それがあやつのためだと思ったからだ...... ただ俺への勝利への執念が増しているのは薄々感じていた......」


 ガガンは後悔の顔を見せた。


「それがバラシエの劣等感を増大させたのか......」


「よかれと思ってしたことが、あやつを歪ませようとはな。 人を教えるとはなんとも難しいな......」


(確かに......)


 午後からの会議がはじまる。



「どうしたの パエルク元気ないじゃない?」


 ティルレがいうように、パエルクはじっと外をみている。


「......うん」


「弟さんと久しぶりにあったんだろう? なにかあったのか?」


「......なんかさ。 前から真面目で頑固だったけど、猫みたいにするなとか、ケットシーとしての誇りをもつべきとか、なんか冷たくなってた。 あの時...... いや、いい」


 なにかをいいかけたがやめた。 


「まあ、警護を任せられるほどなら、それぐらい普通じゃない?」


 ティルレがいう。


「でも、前とはちがう」


「人は年をえると考えも変わる。 彼はケットシー族の未来の深く考えているんじゃないかな」


「......そうなのかな。 でも寂しいな。 昔はよく二人で走り回っていたのに」


 そうパエルクは背中を丸めて顔を伏せた。



 しばらくすると、外から騒がしい声がした。


「宝玉が奪われた!!」


「追え! 逃がすな!!」


「まて! モンスターがくる!!」  


「正門を閉じろ!!」


 そう複数のけたたましい声が城内でこだまする。


「まさか、誰かが魔力水晶を使ってモンスターを操っているのか!」


「それに宝玉が!!」


「行きましょう!」


 ティルレとエジェルガが立ち上がる。


 私たちも部屋を飛び出して、混乱する城内をはしる。 どうやらモンスターも城に入り込んだらしい。


「パエルク! 宝玉がどこにあるかわかるのか!」

 

「うん、匂いはわかる! でもパラルクが警護していてこんなこと! とられちゃったのか! いや、この匂い......」


 それ以上いわず、先に駆けていく。 私たちはパエルクのあとを追い城の上階へとむかった。


 

 私たちがパエルクを追い、扉を開けテラスへとでた。


「やっぱり、パラルク...... なんでお前が」


 そこには紫の宝玉をもつパラルクの姿があった。 


「......兄さん」


「なんでだよ! それは魔王を復活させる宝玉だぞ!」


「知っているよ。 これで私たちは誇りを取り戻せる」


「どういうことだ?」  


 私が聞くとパラルクは遠くをみた。


「私たちはね。 人の世界に生きて怠けているうちに、どんどん魔力を失っているんだ。 もはや立ってしゃべるだけの猫でしかない」


「それの何が悪いんだよ!」


「私たちはケットシー族だ。 猫じゃない。 かつては高い魔力をほこり、他の種族に一目おかれていたが、今はどうだ! 人間に媚びへつらう惰弱な亜人種族といわれている! 他の種族と敵対してでも誇りを取り戻すべき時なんだ!」


「そんな......」 


「みんなから慕われる兄さんのように自由にいきすぎたんだよ...... 本当はみんな兄さんが族長になればいいと思っているんだ......」


 パラルクは悲しげにパエルクを見つめた。


「それで宝玉を盗んだのか」


 私がきくと、パラルクは宝玉をみた。


「......ベルフォリアはいった。魔王による支配に抗い、ケットシーとしての誇りを取り戻せってね」


(ベルフォリア、やはり絡んでいたのか)


「やめろ。 魔王が復活したらケットシーも滅んでしまうぞ」


「誇りももてない種族なら戦って滅んでしまえばいい」


 そのとき、パラルクは懐から魔力水晶をだす。 宝玉がひかると、イモリのモンスターが壁を上りテラスに上がってくる。


「ケイ、モンスターだ!」


「城の水路かなにかにひそませていたのか!!」


 ティルレと私ではい回るイモリを迎撃する。


「じゃあね、兄さん」


 魔力水晶が輝くと空から鳥のようなモンスターが飛来して、パラルクはそれに飛び乗ると空の彼方へ飛んでいった。


「まって! パラルクーー!!」


 パエルクの慟哭が空にむなしく響いた。

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