第三十七話「煙の中の潜入、贖罪の夜」

「こっち......」


 夜、暗がりでパエルクと数人の他のケットシーについて細い道を走る。 ここはパルケサスの町の裏通り。 ケットシーの情報網から抜け道を通りやってきていた。


「エジェルガ、ここは危険だ。 本当にいいのか」


「......は、はい。 私もルドシアークの野望の阻止をしたい。 自らの贖罪のために...... この命を賭けても」


 そう普段はおどおどしているエジェルガは真剣な眼差しでいった。


(騙されたとはいえ、魔力水晶をつくったことをやはり後悔しているのだろうな) 


「でもバンパイアは他の種族を見下してたのに、そんな簡単に騙されるなんて甘いわね」


 そうティルレはあきれたようにいう。


「全ての種族を幸せにするといった王の理想は私にとってものすごく輝いてみえた...... 私はとても弱く。 バンパイアの中でも浮いた存在でしたから......」


 エジェルガは目を伏せる。


(自信のないエジェルガは王から力を借りたいといわれ、判断を誤ったのか...... 自分を認められてなかったのなら、その甘言に乗るのもわからなくはない」


「ふーん、バンパイアは他の種族だけじゃなく、自分たちのなかでもそんな差をつけるんだ。 優れているんじゃないの?」


 不思議そうにパエルクが通りを確認しながらいった。


「仮に単一の種族になっても、そういう階級や差別はなくならないよ。 もともと人は何かに属さずには自らを確立できるものは少ない。 国や血筋、権力、財力、能力、地位や種族、そういうもので自分を確立させている」 


「何かにたよらないと生きていけないってこと?」


「そうだ。 それは私たちにもいえるだろうな......」


(ただいまは、魔王の復活を阻止しないと......)


「パエルク、バンパイアの王、ルドシアークはどこにいるかわかるか?」


「ルドシアークかはわからないけど、城にバンパイアがたくさんいるってさ」


「だったら城ね」


 ティルレはうなづく。


(直接対決するにしても、宝玉を奪うにしても、バンパイアはとても魔力が高いといっていたな。 それに......)


「エジェルガ、ルドシアークは洗脳魔法を使うといっていたが、どんな魔法だ」


「王家に伝わる魔法で正確にはわかりません...... ただかつてルドシアークに反旗を翻したものたちの一団を全員、自害させたのをみたことがあります」


「ひぇ!」 


 パエルクは悲鳴を上げた。


(それはエジェルガに対する脅しのようなものも含まれていたのだろうな。 それを見てなお、反抗するのだから、この子も芯は強いのかもしれない)  


 エジェルガのその瞳を見ながら私は思った。


「ただ、効果範囲があるはずですから、パルケサスをコントロールするにはここにいるしかないでしょう......」


「そんな魔法、どうやって防ぐのよ!?」


「私の見たことから推測すると、効果を発するにはルドシアークが一度、見て認識することが必要なはず......」


 エジェルガが眉をひそめていった。


「それなら見つからなければいいってことか」


(魔法である以上、魔力を何らかの方法で放っているはず...... 対峙しないとわからないが予想はつけられる......)


「見つからないなら得意だ。 それならおいらに任せてよ」


「私もね。 とっておきもあるからね」


 自信満々でパエルクとティルレの二人は話す。



「ここが城か」


 重装備の衛兵が厳重に城の回りを警備している。


「あれを騒がれずに突破するのは難しいな。 だが中にはいらないと」


「ここはおいらがやるよ」


 パエルクは仲間のケットシーたちになにかを伝えた。 ケットシーたちは姿をけし、しばらくすると多くの猫たちが現れる。 


「な、なんだ猫の群れ!?」


 そして猫たちは衛兵たちの前にいくと、威嚇しながら走り回りけんかしはじめた。


「なんだ!? やめろ!!」


「こらっ! 暴れるな!!」


 衛兵たちは猫やケットシーに足元を走り回られ、慌てている。


「なにしてる!」


 さらに門の外に兵士がでてきて混乱しているようだ。


「いまだよ!」


 追いかけ回している衛兵の隙をついて城の横につくと、ティルレがゴーレムの足場をつくり壁を乗り越えた。


「よし、あの窓が開いている。 ティルレ!」


「わかった! いいよ! 誰もいない」


 窓を覗いたティルレが小声でいった。 正面での騒ぎで兵士たちが気をとられている。 その間に開いている二階の窓にゴーレムを台にして潜り込んだ。 


 そこは侍女の部屋らしく、ものも少なくきれいに整頓されている。


「なんとか入り込めた。 ティルレ、ゴーレムの生成が早くなったな」


「ふふん、当然でしょ。 毎日訓練してるからね」


 そうティルレが得意げに胸をはる。


「あとは...... 光よ、集まって散れ」 


 部屋の外に光魔法を拡散して放った。 それは城の木々を燃やし煙が上がる。


「火事だ!!」


 そう叫ぶと人が騒いで外にあつまった。


「なんだ! 火が!!」


「消火しろ!! 水を!!」


「よし、光よ。暗く砕けろ」


 放った光が暗く細かくなり煙のように部屋に充満していく。


「あとは計画通り別れて行動しよう。 見つかりづらいパエルクとティルレは先に王の部屋に隠れていてくれ、私とエジェルガは後でいく」


「わかったわ。 いくわよパエルク」


「わかってるよ! でも落ちないでよ」


 パエルクにのりティルレは部屋からでていった。 


「私たちもいこう。 見つかったら光の魔法で目眩ましして走り、ルドシアークまでたどりつきたい」


 部屋をあけ煙のようになった光を通路へと流していった。 


「きゃあああ! こっちからも火が!!」


「火元は、どこだ!?」


 パニックになった城内の声が聞こえる。 黒い煙に身を隠して、私とエジェルガは部屋からでて城内をすすんだ。


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