第7話 ダンジョンゾンビは大鎌を振るう
翌日俺の部屋に小綺麗な女性用の衣装を身に着けたスケルトンが2本の大鎌を肩に担いでやってきた。裁縫担当のスケルトンが配達業務も受け持っているのだろう。
スケルトンのもつ大鎌を受け取って肩に担いだ。2本の大鎌は先端に金属が集中しているために重心がブレる。ここまで頑張って持ってきてもらったことを感謝するために声をかける。
「いそがしいところすまない。本来なら力仕事が得意な俺が取りにいくべきだっただろう」
「いえいえ、私たちはダンジョンの異変には対処できないから、こんなことでお役に立てるなら本望です。ユキト様も侵入してきた冒険者を倒していただきありがとうございます。おかげで加工場の被害は最小限ですみました」
その素直な言葉に照れが表に出てきそうになる。そのにやける頬を強引に取り繕うとばれないように平然とした声を作った。
「お互い様だ。お前たちの作る装備や武器、道具がなかったら今よりも被害はひどかっただろうからな。えっと……お前の名前は何と呼ばれてるんだ?」
褒めてくれる人物が俺は好きだ。もっと褒めてもらえるよう行動に原動力が生まれる。逆に褒めるのが大の苦手だ。褒めようと言葉を出すと小恥ずかしさで声が震える。だからなのだろう俺はこのスケルトンに些細な興味が沸いた。
「わたしは裁縫所担当のピオニーと呼ばれています」
「ピオニーか、これからもよろしくな」
今度ピオニーがいる加工所に作業着の依頼でも出しに行こうと予定を立てた。
***
俺はピオニーと別れたのち大鎌を担いで防御壁の門の前に農耕班のゾンビ達を集合させていた。
「お前たちにはこの大鎌でこの一帯の雑草を刈り取ってもらおう。刈り取った雑草は残りの者で1階層のダンジョンの廊下に敷き詰めてくれ。2時間おきに休憩をはさむこととする。あと大鎌の役は2時間おきに変わってやってくれ。じゃあまずは俺が大鎌の使い方の手本を見せるからついてくるように」
俺は指示を出すと肩に担いだ大鎌の一本を教授に手渡す。教授は快く大鎌を受け取った。
「一番手はわたしということですな」
「一応これからはお前を副官として扱うつもりだからな」
俺はこっちをみる教授の視線を振り払って言葉を続ける。
「その知識を俺とエル姐さんのために発揮できるように、形だけの褒美のようなものだ。いやなら別の奴にやらせ……」
「この教授、大任をしかと任されましたぞ。これからはユキト殿の側でよりいっそうの研鑽しますぞ」
「おう。よろしく」
とりあえず教授を形だけでも幹部代理という立場に持っていけた。これでいっそう部下への指示を明確にすることが出来るだろう。正直エル姐さんからこの任を任された瞬間は最高に嬉しかったが、あとで部下を上手く扱う知識がないことに気付き試行錯誤でここまでやってきた。はっきり言ってよく頑張ってきたと俺自身を褒めてあげたい。けれども今後ダンジョンを守っていくのを俺だけの知識に頼るのは危険だ。クリスは戦闘能力が低い生産系で、クドラトは潜入特化の少数部隊だ。シルビアに関しては……戦力にはなるが、わがままだからなあいつ。そういうことで防衛部隊の側面がある俺には戦略的な知識が乏しい。それをカバーできる人材……ゾン材がいるならしっかりと斡旋していくべきだと俺は思う。目の前にいる教授の表情から満更でもなさそうなので良しとする。
話が逸れたので俺はコホンと咳をして耕作予定地に部下を連れて歩き出した。
***
コツがいる道具なのでまずは俺が手本になるように大鎌を振るう。大鎌の使い方は重心を落とし横薙ぎに振るように刈り取る。ただし地面に近づけすぎると刃を痛めるために根より若干上を目掛けて振るわないといけない。もちろん大鎌を持つ者の近くに立ってはいけない。下手した死傷者がでるだろう。まあ俺たちは上半身と下半身が別れても死なないが、気を付けるに越したことはない。
一通り振り方をレクチャーしたのちに教授と手分けして2時間ぶっ続けで草を刈り続けた。刈り取った草をダンジョンまで持っていく係と敷き詰める係に分かれて部下たちが運ぶ。
この作業を一日かけて10人で50
「これは明日は動けそうにないですな」
一番見た目の年齢が高いであろう教授が外聞を捨てて地面に尻をついて言った。俺はまだ余裕があるが、もし今襲撃されたら間違いなくどこかで不調が生まれ一網打尽であろうことを想像した。
「明日は休みにする。各々回復のためにダンジョン内で過ごすように」
回復は入念に行ったほうが良いと結論をつけて部下を解散させた。
まだ足が動きそうにない教授を、立たせようと近づくとぽつりとつぶやく。
「ユキト殿雑草は刈り取りましたがここを耕して種を植えてもすぐに雑草が生えてきそうですな」
教授は耕作放棄地の恐ろしさを理解しているのだろう。今まで畑ではなかった場所を改めて畑にするための最大の問題を。
「俺にはその問題を解決する方法が既にある」
俺は知識から一つの問題解決方法を導き出して対策準備を既にしていた。
「ほほう。その方法とは?」
教授は自分の豊富な知識にない情報が気になるのか食い気味に聞いてきた。ただ教授へと情報マウントをとれる機会はそう多くないことを俺は知っている。なので出し惜しみをしてみることに決めた。
「それは明後日のお楽しみだな。今日は体が疲れてるだろうから帰るぞ」
教授に肩を貸して体を立たせて、歩幅を合わせながら帰路に向かう。
「ユキト殿!あまり部下をからかうのはよくないですぞ?」
「たまには良いだろ?」
教授の物言いたげな視線を無視してダンジョンへと足を向けた。
******
深い森の中で巨大な斧を振るう化け物が野生の地竜の胴体を真っ二つに裂く。地竜の口からは断末魔を発しようとしたが口から噴き出る血液で喉が塞がり、ゴポポという液体が泡立つ音をたてながら崩れ落ちた。
「オレハナニヲスレバイイ?」
人の2倍はある体躯に牛の頭がのっかた化け物は隣にいる水色の髪をした女に声をかける。黒髪に赤い角をのぞかせた女は妖艶に口元に指を置き、化け物に指示を出す。
「魔王様の為に、もっと知能がある魔物が必要なの。だからあなたにはダンジョンにあるダンジョンコアを探して破壊してちょうだい。もちろんそのあとのダンジョンコアは好きにしていいわ。だけど魔物はあまり痛めつけないでね?魔王さまに捧げるために必要だから」
「ワカッタオレダンジョンコアコワシテクウ。モットツヨクナル。マオウサマノタメニタメニタメニタメニ」
化け物は理性を失ったのか指示を出していた女を無視して暴れ出す。女は危険を察して軽やかに後ろに飛び退いた。
「こいつはやっぱり失敗作みたいね。命令が1つしか記憶出来ないみたい」
そうつぶやくと女は森が作り出す暗闇の中に消えていった。
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