#2

――配信冒頭の雑談。通常のプレイ以外で入手するデーモンの話になる。

――「ブエル貰いに東京行った」


あぁ、なんだっけ。

東京でやってるイベントの来場者特典だっけ。

ブエル自体強くないから対戦では使わないけど、地方住みのコレクターは辛いよね。


――「マモンは鬼畜だった」


マモン、懐かし!

あれはマジで鬼畜。

みんな知ってる?


まず、マモンってめっちゃ強いの。

マモン強すぎて、マモンの対策するにはマモンが必要みたいな、もうそれぐらい強いの。


で、マモンって攻略本の特典でしか手に入らないのね。

攻略本の中に袋とじがあって、その中に入ってるシリアルコードを入れると手に入るんだけど、なんだっけ、あれ。


――「ベルゼブブ」

――「アスモデウス」

――「ベルゼブブとアスモデウス」


そう、ベルゼブブとアスモデウスとマモンでランダムだったの。

買って開けるまで、どのシリアルコードが入ってるか分からない。

酷くない?

攻略本って当時でもそこそこしたよね?


――「¥2500」


だよね。

小学生には何冊も無理じゃん。

俺も一冊は買ってもらったけど、たしかアスモデウスだったと思う。

はずれ。


あ、思い出した。


小学校の同じクラスにデーモンエリア友達が五、六人いたんだけど、その中にイケザワ君って子がいて、その子が一発でマモン当てたの。


他は俺含め全員当たってなくて、皆で「すげえ、すげぇ」って言ってたの。


で、当たってないヤツの中にアサノって子がいて。

その子は特にデーモンエリア好きだったの。

俺も好きだけど、それよりも全然好き。

それこそ確かブエルとか持ってし、ゲームだけじゃなくてグッズもめっちゃ持ってるぐらい。


だから、アサノはイケザワ君に「羨ましいねぇ、羨ましいねぇ」って言ってて。

マジでこんな喋り方するんだけど。

とにかく、誰よりも羨ましがってたの。


でも、最初は別にそんな嫌な感じじゃなくて。

俺らも「イケザワはマモン当てたもんな」みたいなイジりしてたから、それと一緒のノリぐらい。

だったんだけど、段々アサノがしつこくなって来たのね。


「どうやったらマモン当たるの?」とか「本屋に知り合いいるとか?」みたいなこと言い出して。

そんな訳ないの。

普通にイケザワ君は運が良かっただけなのに「何かズルしたんだろ?」みたいに言うようになって。


それをマジで何日も言い続けてたの。

俺らも、もう飽きてるのに。

イケザワ君は優しいからずっと付き合ってんだけど、俺らの方がもう腹立っちゃって。

「マジでやめろよ」って普通にキレた気がする。


――「お前が?」


俺だけじゃなくて、皆。

キレても止めないの。アサノが。

なんか途中から「返せよ」とか言い出して。


――「どゆこと?」


いや、分かんないんだけど、アサノの中で自分のマモンをイケザワ君が盗んだみたいになってたっぽい。

最初はエスカレートしたイジりだと思ってたけど、段々「あれ、これマジかも」って思い始めて。

皆でアサノを無視するようになったの。


――「いじめじゃん」


いや、いじめっていうか。

もうおかしくなっちゃってるから相手できなかったのよ。

皆で「今日から無視しよう」ってやったんじゃなくて、自然に誰も話さなくなっていった感じ。


で、アサノと絡まなくなってしばらくしたら、イケザワ君の机の上に攻略本が置かれるようになったの。

毎朝登校すると、イケザワ君の机の上に袋とじが破られた攻略本が置かれてる。


――「やば」

――「話変わって来たな」


絶対、アサノが買ったけど当たらなかった分を嫌がらせで置いてるだろって思って。

アサノに「お前だろ」って言ったんだけど、「俺じゃない」って言うのね。

一気に五冊とか置かれてるときもあって「いい加減にしろよ」ってキレるんだけど、ずっとアサノは認めないの。


で、もうしょうがないから担任の先生にも言って。

学級問題になっちゃった。

職員室にアサノ呼ばれて。

でもね、それでも認めなかったみたいで。

結局、朝一から担任が教室を見張ることになったし、なんか逆に俺らが「アサノをいじめるな」みたいな叱られ方した。


――「先生って大変やなあ」


それで、やっぱり担任が見張るようになってからは置かれなくなった。


でもさ、もう既にイケザワ君の机に置かれた攻略本は五十冊超えてたのよ。


そんな買って当たんないことある?

三分の一だよ?

て、いうか五十冊とか買える?

十万以上するからね。


だから俺らの中での結論は、アサノは実はマモンを当てたんだけど、その時には嫌がらせすることが目的になっちゃってたから、攻略本を古本屋で買って置いてたんじゃないかって。

当時、古本だと一冊百円とかで売ってたからね。


――「アサノどうなったん」


アサノは普通に卒業したよ。

中学は一緒じゃないから分かんないけど。


――「前の話より面白かった」


待って、これで終わりじゃない。


うちの学校、小学校のくせに学園祭みたいなのをやるのね。

文化祭みたいな感じで、クラスで店とかやる。


で、学祭の準備期間はいつもより校門が開くのが早くなって、朝早く登校して学祭の準備していいことになってんの。


その時には、とっくに攻略本事件ことなんか忘れてたんだけど。


ある日、俺がなんかの当番で朝早く教室入ったらイケザワ君の机の上に一冊、置いてあったの。


見た瞬間どきっとしたよね。

「やば」と思ったんだけど、アサノが置いた証拠とかないかなって。

証拠見つけて突き付けてやろうと思って。

教室、俺一人だったし。

攻略本、手に取って見てみたの。


そしたら、全部のページに赤ペンで「返せよ」って書いてあった。


――「うわああああああああ」

――「ぎやあああああああああああ」


学祭の準備とかどうでもよくなっちゃって。

とりあえず本は元に戻して、教室出てトイレに隠れたの。


――「なんでw」


いや、一番怪しいの俺じゃん。

とにかく犯人だと思われたくなくて、皆が登校してくるぐらいのタイミングで一緒に登校したフリしようと思った。


けど、途中で教室にランドセル置きっぱなしなの気づいて。

「やばい」って思って急いで教室戻ったの。


そしたら、もう攻略本なくなってて。

イケザワ君に聞いても「なかったよ」って言ってた。


――「こわすぎ」

――「犯人見つかったん?」


いや、別に俺も詳しい話は誰にもしなかったから。

そもそも、信じてもらえなくない?

もう攻略本なくなってんだし。


だから、犯人わかんない。

アサノか、夏休み前のアサノに便乗してイケザワ君のことが嫌いだったヤツがやったのか。


でも、イケザワ君って誰かに嫌われる感じじゃないんだよね。

さっき言ったみたいに優しいし、頭良かったから中学受験してたし。

友達もたくさんいるタイプじゃなかったから、あんま思い当たらない。


――「先生とか」


先生?

あぁ、なるほどね。

うん、どうだろ。


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