第2話『空き教室で……』

 5分後。滝尾さんに連れられてやってきた美術室は、絵の具と埃に似た匂いがする。


 マズイ。なし崩しについてきてしまった。


「えーっと。滝尾さん? こんなところでなにをするんですか?」


 恐る恐る訊くと、カバンを用意していた滝尾さんがこちらをじ、と睨みつけるように見てくる。


「これだよ、コレ」


 言いながら滝尾さんは自身のスマホを上下に振った。


 な、なんの動作を表しているんだ?

 

 そんなことを考えていると、滝尾さんはこちらにスタスタと近づいてきて、僕の前で立ち止まる。


「ヤるんだろ?」


「な、なにを……?」


 困惑して固まる僕を尻目に、滝尾さんはブレザーのボタンを外し始める。


「で、ヤんのかって訊いてんの」


 やるって、まさか……!? ブレザーを長机の上に放り投げて、ワイシャツのボタンにも手をかけ始める滝尾さん。


「こんなところで脱ぎ出したら、ダメですっ! みみみ、見られちゃいますぅ!」


「あぁ? 別にアタシの勝手だろ」


「かか、勝手じゃないですよ! ここは学校ですよ、おかしいですよ!」


「おかしかねーだろ。みんなふつうに脱いでるって」


 脱いでないよ! 心の中でノリツッコミを決めるも、当然本人にはつっかかれない。言うことも聞いてくれなさそうだし、せめて脱ぎ出す本人を見ないように目を逸らす。


 どうしても耳に入ってくる衣擦れの音。


「――ほらやんぞ、サンダム」


 え? 今、サンダムやるって言った? そして続いて鳴るアプリサンダムのゲーム音。困惑しつつ見ると、Tシャツにスカート姿の滝尾さんが背もたれのない椅子に座り、ザンタムのゲーム画面を開いていた。脱ぐのが普通って、暑いから脱ぐってことだったんですね。


 ……えっと。『ヤる』とはもしかしてサンダムのことで?


「オマエもやってんだろ? ちょうど今マルチでしか引けないガチャがあるから手伝え」


 僕も引きたかったガチャだ。二周年記念で二人以上ローカル通信でガチャを引くと無料で星6以上確定という熱いキャンペーンなのだが、ローカルという性質上、友達がいない俺にはハードルが高い。ぶっちゃけ半分諦めてた。


「えっと。僕でよければ大歓迎ですけど、なぜ僕なんですか?」


 話したこともない陰キャ男とやるより適任がいるだろう。


「アタシには友達がいないからだ」


 ぎろり、と睨みながら滝尾さんはそう言ってくる。


「……なるほど」


 他にかけるべき言葉が見つからないのでとりあえず無難? に相槌を打ちつつ、僕はスマホのロックを解除、アプリを起動する。

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