第16話



ディラズの小屋は質素だが整えられていた。 厚い本で埋まった棚、色とりどりの液体が入った瓶、そして埃をかぶった机に散らばる魔導具。 古びた木の匂いと乾いた薬草の香りが空気に染み込んでいた。


台所では、三人が小さな木のテーブルを囲んで座っていた。 ヘイターは温かいコーヒーの入ったカップを手にし、この重苦しい空気に慣れようとしていた。 エルは微笑み、ぎこちなさを和らげようとしていた。


「久しぶりね、兄さん……」

懐かしそうな表情で彼女は言った。


ディラズは視線を逸らし、飲み物をかき混ぜながら小さく答えた。

「……それほどでもない。」


ヘイターは好奇心から身を乗り出した。

「初めまして。お名前は?」


青年はまだ警戒しながら目を上げた。

「ディラズ……元王宮魔導士だ。」


ヘイターは思わずコーヒーを吹き出しそうになった。

「君が? でも、王宮魔導士にしては若すぎないか!」


若き魔導士は深く息を吐き、遠くを見るような目をした。

「幼い頃から強制されたんだ。選択肢はなかった。」


エルは兄の腕にそっと触れ、優しく続けた。

「彼は天才だけど、欠点があるの。臆病さと自分を小さく見せようとする癖……それが彼を世間から遠ざけたの。」


ヘイターは温かく微笑んだ。

「それでも、会えて嬉しいよ、ディラズ。友達になろう。」


ディラズは一瞬ためらったが、やがて手を差し出し、わずかに頬を赤らめた。

「……いいだろう。」


空気は少しずつ和らいでいった。 だがすぐにディラズは顔を上げ、真剣な目で二人を見据えた。

「それで……お前たちをここに連れてきた理由は何だ?」


エルは身を乗り出し、彼の目を真っ直ぐに見つめた。

「あなたの観察用の魔導具のためよ。どうしても必要なの、兄さん。」


「お願い……」

彼女はほとんど子供のように可愛らしい表情を作った。


ディラズは大きくため息をつき、髪をかき上げた。抗えないように。

「分かった……手伝おう。ただし、ついて来い。」


彼は二人を地下室へ案内した。 冷えた空間、松明だけが灯りを揺らしている。 隅には古い宝箱があり、ディラズはそれを脇にどけた。 すると、青白い光を放つ魔法陣で覆われた床下扉が現れた。


ヘイターは目を見開いた。

「なぜそこまで用心深く?」


ディラズは真剣な表情で答えた。

「その道具はマナを放つ。もし魔導具を探している者がいれば、見つけられてしまう。だからこその結界だ。」


彼らは慎重に降り、小さな符文の刻まれた箱を抱えて戻った。 そして小屋の図書室へ。 そこは広大で、視界の果てまで本が並び、中央には儀式用の祭壇が用意されていた。


ディラズは箱の中から淡い青を帯びた水晶の宝珠を取り出し、木製の祭壇に置いた。 そして古代語を唱え始めた。


「ヘイター、お前の血が一滴必要だ。そうして初めて、この宝珠がお前の肉親を探せる。」


ヘイターは喉を鳴らしながらも頷いた。 エルが銀の針で彼の指先を軽く突くと、一滴の血が宝珠に落ちた。 すると宝珠は強烈な光を放ち始めた。


机を囲むルーンが次々に輝き、宝珠はまるで生き物のように脈動する。 ヘイターは背筋に冷たい戦慄を覚えた。


エルは立ち上がり、真剣な顔で宝珠を見つめた。

「残念だけど……」

低い声で言った。

「あなたの兄は……最悪の場所に落ちてしまったわ。」


ヘイターの心臓は激しく鼓動した。

重苦しい沈黙が場を支配し、宝珠はなおも脈打ち続けていた。 まるで恐ろしい運命を告げているかのように。

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