晒し者の変身。
@ok_nir
第1話 小さなバズ
浜川裕平は、朝目覚めると、自分がまたもや「再生数」の夢に囚われていることに気づいた。社会に出ることもなく、就職活動もせず、彼が唯一まともに外界とつながっていると思えたのは、自分の小さなユーチューブチャンネル「Syome_game」だった。
そこでは、誰も買わないような古いゲームや、入手経路の怪しい海賊版タイトルを実況する動画を日夜上げていた。
ある夜、彼の実況が唐突に“プチバズ”した。安物のマイクに吸い込まれる彼のくぐもった声と、汚れた机の上の雑多な物が映り込む動画は、なぜかネットの隅々に広がっていった。
「誰だよこの陰キャw」「部屋汚すぎて草」
コメント欄には嘲笑と冷笑が並んだが、それでも再生数は確かに伸びていた。裕平はそれを誇りのように感じた。
しかし、その映像の中に、彼の暮らす家の特徴がはっきりと映り込んでいた。壁の色、窓の位置、積まれた段ボールの山。匿名の誰かがそれらを繋ぎ合わせるのに時間はかからなかった。
ある朝、ポストに一枚のはがきが入っていた。大きな赤い文字でこう書かれていた。
――「おい!家族!」
母がそれを見つけた瞬間、声にならない悲鳴をあげて床に崩れ落ちた。手紙を握る指が震え、滲んだ涙がはがきを濡らす。
父は無言で立ち尽くしていたが、やがて吐き捨てるように言った。
「……お前のせいだ。裕平。」
裕平は口を開こうとした。しかし喉から出たのは声ではなく、乾いた咳のようなものだった。自分の居場所が、急速に家の中から消え失せていくのを感じた。
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