第23話 日常

「で誰だよテメェ」

『酷くない?ほら〜覚えてない?私の事』


あの後、俺はベットで寝た筈だ。


「テメェは羽生えてるバケモンだろうが、俺に人外の友達なんていたのかよ」

『...何か態度悪くなった?ってああなるほど...今日は確認しに来ただけだからすぐ終わるさ。だからそんな顔しないで?』


大抵、人外ってのはロクでもない。前世の自分とどんな縁があるかは知らないが、用心に越したことはない。出くわしたら即逃走も考えているべきだ。

だが逆に言えば、いまこうして即死していないという事実は、向こうに殺す気がないということの裏返しでもある。つまり、多少機嫌が悪い事を隠さなくても問題ない。


「言うんだったらさっさとしてくれ、どうせこんな所に連れてこられたんだ。俺が反抗したって何の意味もないのは分かってる」

『はぁ、それじゃ早速』


目を閉じつつ、羽の生えた怪物は額を突き合わせる。


『順調順調、もう帰っていいよ』

「おい待て、もしかしてお前が俺の記憶を」

『記憶?ああ、それ私は何もやってないよ』

「それ?お前記憶喪失に関しては何か知ってるなら答え」

『残念、時間切れだ』

「おい待」

『ちなみに赤髪ってあだ名、考えたの私だから』



―――はッ?























気がつけば、朝日が差し込む部屋で目が覚める。大時計鐘の音が聞こえ、少し耳が震えている。


「....もう何なんだよ。急に襲われっぱなしだわ、意味分からん奴に目をつけられるわ」


落ち着け、不満をぶちまける意味はない。


「おい、流石に整理整頓しろって...寝てんのか」


部屋が汚ねぇ、一晩でなんでこんな部屋散らかせるんだ?こいつ新倉 黒乃だけ一人部屋にしろよ。


部屋を片付けつつ支度をする。

向かう先は隣の部屋。ノックで自身が来た事を知らせる。


『入って、どうぞ』

「約束だ。殺しの利点を教えろ」


誘導され、椅子に座る。


『...言っとくが俺も聞いた話だからな?』

「それでも良い、頼む」

『んじゃ何から言うっか。あ〜まずは』


言葉選びを考えているのか、少し頭を抱える。


『ゲーム?って奴にKill Streakキルストリークってのがあるらしんだが...伝わるか?』

「殺せば殺す程、特典が貰える...であってるか?」

『そうそう、でなーこの特典がピンキリでよ。例えばお嬢の場合だと、人を殺せば殺す程記憶が蘇るって感じか?ほら、魂が云々ってやつ』


サングラスをいじりながら、ノアが語る。恐らく眼で彼女の記憶を視たのだろう。


「...おかしくないか?なら記憶喪失の原因が俺達を召喚したピエロどもって事になる。いくら何でもわざわざ俺を弱体化幼女化させる事は無いだろ。嫌がらせ以外に理由が無さすぎる」

『いや、その考えが間違ってるっつ思考はどうだ?』

「つまり?」

『記憶喪失した。させたのはどうしようもない理由、もしくはアッチにとっての何らかの意図利点があった...って事なんじゃないのか?逆に考えてみようぜ』


...それなら自分の経験に基づいてもしっくりくる。俺がイリスを殺した事で記憶を一部取り戻し、治癒が使えるようになった。


「ありがとう。納得いった」

『なら良かった。んで話を戻すぜ?つまり強化される要素はその人次第って所なんだが、その強化される部分には一個共通点がある』

「何だ?」

『そいつが経験や欲、強く望んでいたり、誇りに思っている経験に基づいて、強化されるんだ。キルとは違うが、女神に寵愛チートだって理屈じゃ同じ。性格出る。こんなもんだな』

「...人殺しはなるべく無しだ。やるとしても最後の手段だな」

『俺ちゃんもサンセー。殺す覚悟はしてきたが、別に殺したい訳じゃない』

「ならこの方針のすり合わせは任せる。お前が集めたメンバーなんだから統制してくれ」

『ういうい』

「他に連絡あるか?」

『ないな』


無言で席を立ち上がる。用がないならさっさと戻ろう。


『あ〜ちょい待ち!』

「...何だよ」

『デートし』


扉を閉める。


『待て!待て!言い方が悪かった!そういうのじゃなくて親睦を深めるってやつ!マジで!』

「TPO、相部屋やめろ...用があれば部屋に来い」



飯食って魔導所読も。























キッチン?もあるのかここ。しかも調理器具も揃ってる...魔道具って何だよ。


部屋を出て廊下を歩く。行き先は勿論隣の部屋だ。


『入ってど〜ぞ』

「ついでに飯作ってやるから来い」

『おっ!良いねぇ!』

「早速魔道具ってやつの使い方を教えてくれ」


大きな欠伸を上げる。昼過ぎだというのに、女が起き上がった。


『おや、この良い匂いは...』

『力を込めるイメージで手をかざして魔力を送り込んで...うっし、多分一発で出来るぞ』

「魔法...か」

『良ければ教えるぜ?お嬢は憑依系だからもしかしたら使えるかもだしな』

「後で頼む。先、座ってろさっさと作る」

『私にも』

「次からちゃんと片付けろよ」

『はーい』


キャラ違くねぇかコイツ。買ってきた物でさっさと作ろう。

中世頃末期頃にはもうパスタはあったらしいが...トロフィエっつう短くてねじれてるのがあった。今回はこれと...店員さんから勧められたジェノベーゼソースを使ってパスタを作る。


別に特別な事はしない。たださいの目切りにしたじゃがいもと一緒に15分塩入れて茹でるだけだ。


「ほらよ。色々揃ってんのな、此処」

『良いとこ選んだからな。そんじゃ頂くぜぇ〜』

『緑色...私野菜駄目で...』

「もったいないから食え...ほんとに昨日と同一人物か?」

『何さ。私はこれでもここに来る前は学問の神とか呼ばれて...』

「菅原道真かよ。それに野菜食えないとかの生活能力に文句言ってんだ。絶対お前家事出来ないだろ」

『....出来るよ?』

「無理だろ」

『出来る』

「なら昼過ぎに起きたり何でもやりっぱなしにすんなよ?俺何もしないからな?」

『ごめんなさい』



小話 ノアの部屋にて


「お前らって何でサングラスつけてんの?この世界異世界にあんのか?」

『いんや、俺ちゃん達の故郷に偶に流れてくるんよね。ひび割れてるのが多いが、綺麗なのを磨いてつけた。そんな名前なんだな!これ』

「俺の世界ではサングラスって呼び方だった。つうか何でサングラスが流れてくんだよ...」

『そりゃ神様がそのサングラスってのが好きだからっしょ!』

「そんなもんか」

『そんなもんだろ!』

『僕は中々気に入ってるけどね。さて、僕は相棒動物達と触れ合ってくるよ』

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