第12話 詳記
大自然の中で目が覚める。あるのは大量の磨かれた木材と、フリートさんとヒルトさんだけ。僕は、彼らと共に大自然の中に放り出された。
『とりあえズ、伝言ナ』
「は、はい」
『弱点を克服しロ。だってヨ』
そう言われても、弱点なんて分かったらとっくに克服しようと努力している。
『まア、どちらかといえバ、癖の矯正ってやつだと思うゼ?』
「癖の矯正、ですか?」
『あア、こっからはオレが指導に回ル。安心しろヨ?多分心持ちの問題だからナ。早かったラ、数時間で直せル』
「本当ですか?」
もし本当ならかなり有難いんですけど
『オマエ次第だかラ、気張れヨ?』
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『お前の癖ハ、回避に頼り過ぎている所ダ。アイツはそこをこの数日間で直したいんだろうヨ』
「ですが、それが木材の修行と何の関連が?」
『オマエハ、相手に踏み込んだリ、受け流ス事が出来なイ。いヤ、やらなイ。それはオマエが自分を信じていないからダ。今までソレをやってこなかったツケだナ』
「でしたら、つまり自分は」
『あア、多分オマエが考えている通りダ』
今僕がすべき事は、自分に自信をつける事?
なら、僕には...
『...その程度のものだったのカ?オマエの執念ハ』
思考を読まないでくださいよ。僕が自信を持つって、どうすれば良いんですか。
『それはオマエが考えんだヨ。為にならないじゃン』
「そうですけど。自信なんて急にどう持てば...」
『まア、他の事はオレが教えてやっかラ』
あっけらかんとしているフリートさんは、頼もしい反面、能天気すぎて頭にくる。僕がこんなにも必死でやっているのに、彼は何処か抜けている。そこが彼の良い所なのかもしれないですが
『オレはオマエみたいな向上心があるタイプは嫌いじゃネェ。生きた武術書。そう言われた実力を見せてやル』
そんな事を言うフリートさんは、誰の目から見ても自信満々でした。
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『違ウ。それでは戦闘中長くは持たないゾ』
『そこは踏み込むんだヨ』
『流して態勢を崩すんダ』
現在僕は今、フリートさんのアドバイスを受けながら、彼と修行で軽く打ち合ってもらってるんですが...
「.....」
『もっと素早く』
『重心をもっと下げロ』
『線を避ける感覚ダ』
「....」
『腕からじゃ無イ。体からダ』
「すみません。本当熱心に指導してもらっているのは分かってるんですけど...」
『ン?何だヨ?』
「もう少し、声を小さくしていただけると、有難いです。」
『.....』
「ごめんなさい!違うんです!有難いんですけど、ちょっと集中できなくて!」
フリートさんは本当にショックを受けしまってようで、心なしか動きのキレが無くなっていました。
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「ま、俺も鍛え直しますか」
野生の魔獣に自分の存在を知覚されないよう、森の中を静かに移動する。
アイツの鍛えべき箇所が基礎の技術や癖の矯正なら、俺が鍛えるべきは素のフィジカルとこの異世界の教養だ。
「一旦この体に合うくらいのトレーニングを心がけるか」
この体での動きの限界は、イリスとの戦いで大まかに分かったが、持久力なんかはまだ未知数。それなら走り込み辺りで己の限界を知ろう。
「スースー、ハーハー」
2回吸って2回吐く、呼吸はこれを徹底し、体を一本の棒のようにまっすぐ保ち、体の軸を意識する。これによって前傾姿勢にはなるが、目線を上げる事を意識し、腕を振りながら走る。
分析も並行して行う。あの日の会合についだ。...不可解な点が多いし、考える事が多すぎる。恐らく、時間はかなり限られているだろうしな。無駄には出来ない。
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『来てくれたか。本日はこのような場を設けてくれた事に感謝する』
幼女が扉を開いた先には、煌びやかな装飾をされた客間の先には少し筋肉質な彫りの深い顔をした中年の男がソファアに座ったまま、こちらに視線を向けていた。
『さぁ、座りたまえ。茶菓子もあるぞ』
なんか微妙に子供扱いされている気がするが、どうせなら子供の振りをするとしよう。誘導された通りに座る。
『私の名は、エミール・オースティン。よろしく頼むよ』
そう言う男は手を差し出してきた。どうやら異世界でも握手はマナーらしい。
「お気遣い感謝致します。私の事は、赤髪とお呼びください」
男の手を幼女は手に取る。手のサイズ差が激しいが、2人は固く手を握る。
『子供とは聞いていたが、思った以上に幼い見た目だ。君が我息子を倒したとは、真実かい?』
怪訝な目で疑われる。当たり前だよな、分かる。
「はい。真実です」
マハトに言われたように、嘘偽りなく答える。
『...なるほど、どうやら本当のようだ』
「やけにあっさり信じなされましたが、何か理由があって?」
『まだ詳しく言うつもりは無いが、私には嘘をつけないと思って貰えばいい。これでも現役時代は軍で尋問官をしていたからね』
「そうなのですね〜」
...だから扉を開ける前に恐怖を感じたのか。尋問官ってトラウマしか無いんだよな、大体酷い目に遭わせられるし...まあ彼らはそれが仕事なんだが
『...さて、話の枕はここまでにして、本題に入ろうか』
先程まで温和そうな雰囲気を纏っていた男だったが、元尋問官として相応しい威圧感が姿を露わになる。
『私が求めるのは、我が息子の護衛。期限は一週間でいい。命を賭けても、息子を守ってくれ』
真剣な表情をした大の男が、幼女に頭を下げる。
...この親子は本題を先に言わなかったら死ぬのか?余程必死なのは伝わったけど。
「悪いですが、命を賭ける事は出来ません。私は昔から、生き残る事しか出来ませんよ」
命を賭けての人助けは、俺にはもう無理だ。
『勿論タダとは言わないさ、対価を聴いてからでも遅くはないだろう?』
やっぱりこのおっさんやり手だな、対人関係の経験値が
「勿論。そちらがよろしいなら、聞くだけ聞きますよ」
『感謝するよ。なら説明しよう。まず君に与えたい対価は、3つある』
『一つ目は、金貨50枚』
「...それは大体、どの位の金額なのでしょうか?」
『王都で家を買っても余るくらいかな』
思っていたより大金だった。これだけ金を賭けるなんて、一体どんな奴に命を狙われてるんだ?
『二つ目は、この街最高峰の魔導書を授けよう。君は魔法に興味があるのそうだからね。きっと欲しがると思ったんだ』
「まあ、あればあるだけいい知識ですから、有難いですけど」
命を賭ける程の何かに対してこれかー?流石に無理だな。引き際は弁えてるつもりだ。3つ目次第だが、余程の事がなければ断ろう。
『何だか微妙そうな反応だが、安心してくれたまえ、3つ目が本命だ』
「本命、ですか」
『君なら絶対に気になると思う。それに私にとっても、君に知っていて欲しいんだ』『星の智慧派。我が長兄を殺した彼らの情報。それが、私の切れるカードだよ』
「...何ですって?」
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