零章 知らない人

第3話 異能



「...もう干物にでもするしか無いか?」


火起こしを諦めた俺は、切った木に吊るしたまま、魔物の肉を脱水させる。ここが湿度低い地域である事を祈るしか無いな。少し湿っている気がしないでもない。


次は水の確保か、水源を探す...この世界の植物を知らない...どうやって探すか。

水分含有量が多い果物を探す?いや、毒物だったら取り返しがつかない。

植物の生息地を利用して探す?当然異世界の植物の知識なんて無い。

滝の音を耳で探知する?今の俺にそんな便利な事は出来ない。

後は....試してみるか。


近場の 地すべり地形か断層を探す。そこなら湧き水くらいは手にいれられる筈...いや、移動するのは余計に危ないな。























数分前の自分に問いただしたい。


『何何?こんな夜道に子供1人で』


『どっから来たの?俺が来たからには大丈夫、何か困った事は無い?』


俺は今、Tシャツを着た男にニヤつかれながら会話している。


「ありがとうございます、特に問題ございません」


苦肉の策だが、ここは貴族風の身なりを生かしてやり過ごそう。


「貴方はどうやってこちらに?珍しい服をされていますが」


『あーいや、所謂旅人ってやつだな、東の国から来た』


なるほど、転生者とは明かさずただの一旅人として接する事で、要らぬ異世界人差別を避けるか。だったら。


「具体的に、どちらの国からいらして?」


『...なあ、この茶番もうやめない?俺の事怒らせない方がいいよ?お嬢さん』


「何か癪に触られましたか?」


『だからいいってそのRP演技、君転生者でしょ?』


....は?何故バレた?ボロは出さなかった筈なのに、どうやって?


『驚いてる?説明聞かなかった?俺達転生者は、この時計で相手が転生者かどうか分かるって』


そう言って時計を見せつけるTシャツ男。


「いえ、私が聞き違えていなければ知りませんが」


『え?』


「え?」

『......俺はチート持ってんのよ、言っちゃ何だけど、俺の能力強いよ?』


「具体的にどんな?」


『そんな訳で、優しい俺はこんな選択肢を用意した』


一泊置いて男が語る。彼女の疑問を無視して。


『俺のどれ)部下になってくれれば、最後の1人になるまで生かしてやる...ってな!』


ゴソゴソと何かを探っている様な音。何だ?この音は。


「真っ直ぐ走って逃げろ!死ぬぞ!」


『えっ何』


今の今まで気づかなかった...もっと早く気づければ...ごめん、助けられない。


「光の隙間」


同時

次の瞬間、茂みから女が飛び出し、目の前の名も知らぬ男へと刃を振るう。

首と胴が泣き別れになるのと同時に、俺は周囲の光を奪った。



声を殺して走る、暗闇の中冷静さ乱さない様に必死に思考を続けながら。


何だ?あの女は、恐らく日本刀?であの男の首を切ったのは分かる。だが何かがおかしい。人間の域を超えた剣速だった、服装もおかしい。和服、俺が知らない物。何もかもが未知数だ。やはり関わるべきでは無いな。さっさと走り抜けて逃げる。


『あらお嬢さん、貴方の速度で逃げられるとお思いで?』


何で分かんだよ!?こっちは視界も封じて音も消してんだぞ!


『...気配を消すのが上手い子』


『けど甘いわ...私相手に逃げ切るなんて、視覚を潰しても、足音を殺しても、人間は呼吸しなくちゃいけないじゃない』


まさかこいつ...僅かな呼吸音だけでたどりついたのか?化け物かよ...無呼吸長時間運動なんざ今の俺には絶対無理だ。


視覚を塞いでこれなら、ここままじゃ俺の方が不利!だったら!


『視界が回復したわね?やっぱり貴方がやったの?』


「ああ、俺がやった」


『なるほどねぇ。貴方...さっきの子より強そうね。ゾクゾクしちゃうわ』


「んな訳ねぇだろ。さっきの女神の寵愛チート持ちとは違って、俺はそんなの持ってねぇ」


『だって貴方...さっきの子とは違って貴方は、人を殺せるでしょ』


「...お前に俺の何が――」


『分かるわよ。貴方の眼が少女でも、無垢な顔をしていても、さっきの貴方の行動は...経験者のだった』


経験者?経験...?俺にエピソード記憶も何も無いのに...何を...


『準備は良いようね。私が貴方を、救ってあげる』


女は刀のようなものを構える。

構え方がどの流派とも一致しない為、確信には至れない。


「救いは求めてねぇよ。お前戦闘狂キチガイか?」


話し合いは無理なタイプ...となれば戦うしかねぇ。

変に会話を試みて不意を突かれたら死ぬ。こっちが殺らなきゃ殺られるんだ。



『いいえ違うわ。側から見たらそう見えるかもしれないけどね』


「知らねぇよ。要はお前が戦う前に待ってくれるタイプかどうか聞きたいだけだ」


『何か準備したいの?あまり焦らして欲しく無いのだけど』


「いや?20秒あれば十分だ」


刀もどきを構えるのをやめた。どうやら時間をくれたらしい。それなら、詠唱短縮の応用で、先制する。


「感謝するぜ?詫びに見せてやるよ。戦闘狂キチガイ


俺もあのイカれ女も、スイッチを押されたみたいに状態が切り替わる。

感情の影もなく、当たり前のように殺気を身に宿す――そんなのまるで


「霊視、見えざる刃・アサルト




瞬間、数多の不可視の刃が女を襲う。


――怪物じゃないか

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る