転生探索者のすべき事
寿司バナナ
第1話 序章
異世界転生――そんな言葉を、現代人は一度は耳にしたことがあるだろう。
追放モノ、料理モノ、悪役令嬢モノ……今や一つの文化として確立されたジャンル。
日本の若者なら誰もが、少なからずその存在を知っている筈だ。
かく言う俺も、名前くらいは知っている。
だが――それが現実に起きるなど、誰が想像しただろうか。
『皆の者、王の御前である!平伏せよ!』
瞬間、眩い光が視界を覆った。
気がつくと、俺は中庭のような場所に立っていた。
周囲には現代日本の服装をした男女が数十人。皆一様に戸惑った表情を浮かべていた。
そんな彼らを尻目に、玉座の前に立つ一人の男が威厳ある声で名乗る。
『朕の名、ソルグリム・ゼノン・ユリアヌスである』
“朕”――その一人称に、彼女は察する。
王か、あるいは皇帝か。
『そなたたちは選定の儀式を突破し、この地に辿り着いた勇者の卵である。まずは
魂の選別? 何の話だ?
戸惑いが広がる中、一人の青年が手を挙げた。
恐る恐る口を開く。
『あの....一体、何がどうなってるんですか? 状況がまるで分からないんですけど』
『これまさか“異世界転生”ってやつじゃないか?』
『ゲームの世界みたいだ』
『異世界って何?』
『魂の選別って...?』
広間は瞬く間に騒然となった。
混乱を、鋭い声が断ち切る。
『鎮まれ!異世界人!』
重装の騎士が男たちを一喝し、王の前にひざまずく。
『王よ、いかがなさいますか』
『うむ感謝するぞ――エスペランサ』
今のやり取りから、王と騎士の信頼関係が垣間見える。
ただ……この王はどこか柔らかい。
威厳よりも、弱さを感じる程に芝居ががっていて余計に不気味だった。
『改めて、貴殿らがなぜこの世界に召喚されたのか。混乱している者も多いようだし、順を追って説明しよう』
王は静かに語り出す。
曰く──かつて魔族と人族が果てなき戦争を繰り広げていた、遠き古の時代の事。
“魔王”と呼ばれる存在がいた。
その力はあまりにも強大で、持て余すほどの魔力をも併せ持ち、まさに一個の災厄とも言うべき存在だった。
圧倒的な“個”の前に、人族は抗うことすらできず滅亡の淵へと追いやられて行く。
絶望の只中に一筋の希望が現れた。
それが唯一神アレフの化身にして異世界より遣わされた勇者──後の“転生者”である。
女神の
しかし──平穏も永遠には続かない。
時は流れ、魔王は復活する。
かつてと同じく人族は滅亡の危機に瀕し、再び聖書の教えに則って勇者召喚が試みられた。だが、今度は神の祝福を受けた者──“チート”を持つ転生者は現れなかった。
それでも人類は希望を捨てなかった。
幾百の魔法使いたちが二十年余の歳月をかけ、独自に編み出した召喚魔法陣。
全ての知識と技術、願いと執念を込めて完成させたが──ことごとく失敗に終わる。
学究肌の魔法使いたちは焦燥に駆られ、人々は絶望した。世界の終焉は、目前に迫っていと。
だが、どのような世界にも“狂人”という者は存在するもの。
世界の終わりに抗おうとした一人の魔導士。
執念の果てに、彼は神の理すら踏み越える“禁忌”へと手を伸ばす。
──かつての勇者の“遺骨”を触媒とし、大量の異世界人を召喚し、彼らの魂に対して蠱術を施すという、神への反逆そのものの行為。
肉体を失った魂の殻を魔王を弱体化させる結界の柱とし、魂の内部を蠱術によって転生者の力を高める贄とし殺し合わせる。この儀式さえ成功すれば、人工的に新たな勇者を創造することが出来る。最後に一人残った転生車は勇者と化し、魔王を殺しうる“刃”となるのだ。
王はそう締めくくる。静寂の後、一人の女性がヒステリック気味に叫ぶ。
『ふざけないで!いきなり言われてそんな提案!飲める訳ないでしょ!?』
その言葉を皮切りに、場が爆ぜた。
『ふざけんなよクソジジイ! 』
『二度目の人生まで社畜なんてやってられっか!』
『せっかく異世界に来たんだ、好きにやらせろ!』
怒号が飛び交い、力の奔流が空間を震わせる。
が――
『...仕方ないか』
「は?」
冷徹な声。笑みを浮かべたかと思えば、次の瞬間には声色が凍る。
死への恐怖が、口をついて出ない。
王が呟いた次の瞬間、何の前触れもなく数十人が肉塊と化した。
軽く笑い、しかし次の瞬間には声が凍りつく。
情緒の欠片もない変化だった。
『これで分かっただろう?提案では無いと』
血の匂い、崩れ落ちる音。広間は一瞬で死の空気に包まれる。
息を飲む。手が震え、心臓が喉元まで上がってくる……声にならない叫びが体中で暴れた。
『異世界人――つまり
声が出ない。目の前が無惨に人が死ぬ様を見てしまったから。
『良い返事だ。ではこれから――女神の
軽い調子で言い、王は笑う。
『魔王を滅ぼし、"全て"を終わらせた暁には...どんな願いも叶える力を得れるだろう』
残されたのは恐怖と、血と、沈黙のみ。
『では行こうか、エスペランサ』
『はっ』
そう言い残し王――いや、仮面を脱ぎ捨てた道化のような男は、騎士エスペランサを伴い場を立ち去った。
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