第6話 部活クラッシャー
「ねぇ。マサもユウも聞いた? 部活クラッシャーの話!」
月原が他の女子にカツアゲ? をしている所を見てから数日。
俺と政則は、土屋や月原について細心の注意を払いながら、高校二年生の生活を何とか平穏に過ごしていた。
そしてまたとある日の昼休み。
俺、政則、星奈の三人で弁当を食べているところで、星奈が少し笑いながら口を開いた。
「部活クラッシャー?」
俺が星奈に聞き返すと、星奈は一度ゴホンと咳払いした後に部活クラッシャーの事について話し始める。
「うん。私さ、色々な部活のヘルプとかしてるじゃん? その中である友達が話してたんだよね。部活を破壊しようとしている人物、部活クラッシャーがいるって。正直な話、私は半信半疑なんだけど」
それはまた何とも物騒な話だ。
俺はまた変な噂か……と少し落ち込む。
月原との勘違いの件とカツアゲ現場の目撃、土屋の変な噂と政則への告白に俺への思わせぶりな態度、そして義妹である唯花との関係など、考える事が今でも多いのにこれ以上増えてどうするんだよ本当に。頭から煙出るよもう。
「マサも知らない?」
「俺も少し噂で聞いたぐらいだな。信じてはいねぇけど」
政則も噂自体は知っていたようだが、信じてはいない様子だ。
そりゃあそうだろう。
俺たちは言ってみればただの高校生で、そんなに力もない。それに部活を転々として部活動を一つずつ破壊していく、みたいな事があるとも考えづらい。道場破りか何かですか? といった感じだ。
ただ土屋の件と同じような形で、火のない所に煙は立たぬといった事もある。もしかしたら、また何か厄介な事があるのかもしれない。そう思った俺は、ひとまず星奈の話を集中して聞く事にした。
「どうやらその部活クラッシャー? はめちゃくちゃ美人で、多くの男子を虜にさせているらしいの。それでまぁ色々といざこざがあって……みたいな?」
ほら、恋愛って綺麗なものじゃないだろ?
確かに、恋愛面でなら何かしら揉めてもおかしくはないし、そこで他の女子も絡んだりすると非常に面倒くさい事になるんじゃないかと感じる。
その部活クラッシャーと呼ばれている子の目的が男子を弄ぶためと仮定すると、部員たちの関係をぐちゃぐちゃにして楽しんでいるといったとこだろうか。許される事ではないとは思うが、楽しんでいる事自体は分からんでもない。
しかし、もう一つ大きい疑問がある。それは、その子がなぜ部活クラッシャーと呼ばれるまでの人物になったのかだ。
ただの恋愛関係のいざこざなら、嫌な女子、ぐらいの感じで止まっていただろう。部活クラッシャーと呼ばれるぐらいということは、一つの部活ではなく複数の部活で同様な事を行っているのかもしれない。
「おっ、ユウは何か思いついた?」
「まぁ、ちょっとな。部活クラッシャーと呼ばれるぐらいだから、その子は多くの部活で同様の事を行ってきたのかなって」
「おぉ鋭いねぇ。私も色々な人から話を聞いてみた感じ、その子の影響を受けた部活は一つの部活ではなさそうなんだよね。どの部活も解決はしてるみたいだけど」
「どの部も解決はしているのか?」
「そうみたいだよ。喧嘩とかはあったみたいだけど、今は仲直りしたっぽい。私も文化部の友達から噂を少し聞いただけだから、本当かどうかは分からないけどね?」
どの部も解決している、というところに俺は少し疑問を持った。
被害にあった部活を仮に五つとしよう。その五つの部活が、全て上手く仲直りできるだろうか?
人間はそんなに素直で綺麗な生き物ではない。自分の事が大事で守ろうとする人もいれば、誰かに敵意を向けて攻撃をする人もいる。
そもそもの噂が間違いなのか? それとも表面上は解決しているようにしているだけなのか?
本当に頭が疲れる。最近は難解な事ばかりで、勉強以外の事に頭を使っている時間のほうが長いくらいだ。
「勇雅が疑問に思う気持ちも分かるぜ。やっぱ、そもそもの噂が間違いなんじゃねぇ? きっとどこかで噂が大きくなったとかそういう感じだよ」
「そっか。マサもユウも話に付き合ってくれてありがと。面白半分で噂話とか、あんまりするものじゃないよね。ごめんね」
政則と星奈はそう話しながら、噂は間違いだったと結論づけた。ただ俺には、完全にこの噂が間違いだとは決めつけられなかった。
第一、噂が妙に細かすぎる。先生が不倫をしていた、みたいな噂なら最初は疑うだろうが、この噂はやけに信憑性がある。どこか妙にリアリティがある感じがするんだよなぁ……。
噂話、と聞いてのイメージはやはり恋愛の話の印象が強い。誰々が好きだとか、二股をしているとか。あとはテストの結果とか、勉強の話もあるか。
それに部活クラッシャーというあだ名というか、呼称がある事も引っかかる。噂話にしては、設定がしっかりしているような気がするし。
そういえばの話だが、一昨日ぐらいに唯花が部活動の勧誘のチラシを見比べながら、ブツブツ呟いているところを見たな。
一年生はどこかの部活に所属しなければならないと決められているし、部活は高校生活においても重要なものだ。悩む気持ちも分かる。
ちょっと待てよ……? 一年生はまだ仮入部期間だったな……?
仮入部期間なら、色々な部活を転々とできる。一日だけ仮で入部してみて、合わなくて辞めるといった事を行えば、数多くの部活を体験できるだろう。
それに仮入部していたが辞める、となって部活を去れば、トラブルの原因がいなくなる……?
トラブルの原因である部活クラッシャーが、暴れた後に仮入部していた部をやめるとする。すると、現実に戻された当事者の部員たちが冷静になる。そして部内で仲直り、みたいな事もあるかもしれない。部活クラッシャーと呼ばれる子は可愛い子みたいだから、部を辞めていっても未練タラタラの奴もいそうだけどな。
一応、これならある程度の筋は通る。何故こんな事をしているのか、そしてそれによって部がどういう状況になっているのかは分からないが、ある程度の話の内容は掴めてきた。
「勇雅?」
「ユウ?」
政則と星奈が考え込んでいる俺を心配するような形で、俺の名前を呼ぶ。
二人には……話さなくてもいいか。
俺の考えすぎかもしれないし、部に入っていない星奈と同好会の俺たちには無縁な話だ。部活クラッシャーで被害にあった人もいるかもしれないが、俺たちには関係ない話でもある。少し冷たい感じだが、当事者同士でどうにか頑張ってもらおう。
「いや、何でもない。お腹も空いたし、さっさと弁当食べようぜ」
◇◇◇
「おい! 勇雅もこの動画見ろって!」
「ははははっ! いやその展開は面白すぎだろ……」
放課後。
今日は同好会の活動日でもあるので、俺と政則はコンピューター室で、動画を見ながらただただ楽しく話していた。
別に二人なので活動しなくても良いのだが、習慣化してしまった事もあって、週に一回はコンピューター室に集まるようにしている。
これも立派な同好会の活動である、とは言わないでおく。俺も政則も、同好会になって自由になった事を私的利用しているだけに過ぎないからな。
でも先生や生徒会からは注意されていないし、だれにも迷惑はかけてないのでどうか俺たちが卒業するまでよろしくお願いします。見逃して!
「政則。そういえばの話なんだけどさ、新入生の勧誘どうする? 一応は部活紹介の冊子に載っているわけだし、誰か来てもおかしくはないぞ」
「男子二人の同好会に誰か来るか? それに今のままで楽しいんだし、適当にやってりゃいいだろ。部員が欲しくなったら、運動部のヘルプ要員の星奈を連れてくれば良いんだし」
「それもそっか」
政則と話した事で少し気になった俺は席を立ち、コンピュータ室のドアを開けて誰か来ていないかを一応チェックする。
「勇雅も心配症だなぁ。誰もいないって」
後ろから聞こえる政則の声に少し笑いながら、俺は誰も来ていない事を確認して扉を閉めようとする。
「あの~こんにちはっ! 今って活動してますか~?」
しかし俺が扉を閉めようとしたとき、階段の方から大きな声が聞こえてきた。俺たちの活動場所のコンピューター室は四階で、この階は俺たちしか活動していない。聞き間違いじゃなければ、俺たちの同好会の見学をしに来たということになるが……。
「どもどもです先輩っ! 私、
「あ、あ、どうも」
「どんな感じかと思いましたけど、かっこいい先輩で安心しました。今日はよろしくお願いしますね!」
この時、俺は昼に考えていたことは正しかったのだと確信した。
間違いない。この子が部活クラッシャーと呼ばれる子だ――
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