夏子との電話

 夏子はエスターの誕生日に何か気の利いたものを選んであげたいと思った。何をあげても喜んでくれるのは承知の上だが、離婚したとはいえ、デンマークに越して来てからずっと家族として付き合って来た母のような存在である。


 夏子は最近急にエスターの物忘れがひどくなったのが気になっている。ケンタも気付いているようだけれど、これからどうするつもりなのか。つまりいつまで一人で暮らせるのかなど、そろそろ真剣に考える時期に来ていると思った。けれど自分の立場で立ち入るべきではないとも思えたので、とりあえずあれこれ考えるのをやめた。心配性は私の悪い癖だ。



 木曜日の午後エスターから電話がかかって来た。土曜日に夏子も来るのか気になったと言う。

大丈夫、行くわよと明るく答えた。

あのスウェーデン人の女性も来るのかしら。アグネス?アリス?

 アンナよ、と夏子が答える。来ると言っていた、でもマークはまだ風邪ですって。

 そうなの、残念ね。


 エスターはマークにも息子同様に接している。マークはカナダ出身だけれど、マーティンのためにデンマーク語を必死で覚えたのだと、のろけたりするとても愛らしい人だ。子どもたちもとてもよくマークによく懐いている。


 アンナはケネットの恋人で、二人が一緒に暮らし始めて2年近くになる。アンナには夏子とケネットの娘のルナより一つ年上の18歳になる息子、アレックスがいて、アンナ自身は夏子より何歳か年下らしい。


 ルナもアレックスも難しい年頃に両親の離婚を経験した。その割にルナは明るくサバサバしている。学校でも友達が多く成績もいい。夏子は自分にあまり似ていない性格の娘に内心感謝している。


 反対にアレックスは未だあまり新しい家族に馴染もうとしない。言葉の壁だけではなく、やはり母親に新しい家族が出来た、しかも大家族なので集まると息苦しいと感じるという気持ちも夏子には分かる気がした。


 エスターの電話の用件は、土曜には夏子にも来て欲しいと暗に言いたかっただけなのだと夏子は察していたので、必ず行くからと言って電話を切った。

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