第2話 某日1549時 北海道北広島市 エスコンフィールド インドラ・エネルの感想
初めて弟子が出来た。弟子、と言うのは相応しくないが僕の指導担当の魔法少女がやって来た。名前は、リー・モーティマーと言う乙種魔法少女である。愛用はリボルバーで、ウェスタン映画に出て来る保安官めいた格好をしていた。
女の子らしい格好をしているの魔法少女には珍しいスカートではなくパンツスタイルで、上半身はスーツっぽいが腹部が大きく開いており、へそが見えている。可愛らしい、と言うよりも美人系と言うのが正しい魔法少女だ。
身長も170cmを超えており、変身後の僕よりも背が高い。常に笑みを浮かべているが、その瞳は相手を値踏みするように一挙手一投足を見て来る。正直、後輩なのに先輩……特にクアトロ・セブンを相手にしているかのようだ。
その、クアトロ・セブンが連れて来たのが彼女なのだから、非常にやりずらい。
「えっと、拳銃の射撃はどれぐらいの腕なんだい?」
「クアトロ・セブンの様なライフルを持っている魔法少女達には負けますが、まぁ、そうですね。
此処から、あそこにいるアイドルのポスターありますよね?右目ぐらいならヒップショットで撃ち抜くのがせいぜいです」
あそこ、と指さされた方を見れば柱が立っており、50メートルごとに何かのアイドルのポスターが貼ってあった。50メートルか。それを腰撃ちという事はかなりの腕だ。見た所、武器はかなり古いタイプのリボルバーだ。先輩なら名前が直ぐに分かるだろうが、生憎僕はミリオタじゃない。見ただけでは銃の名前は知らない。
「そのリボルバーは何発だい?」
警官のもっているリボルバーは確か5発だ。
「これは6発です」
「成程。
口径は警察官の持ってるM37やM60と一緒かい?」
「いいえ、これは36口径です。
名前はM1851“ネイビー”と言います。本来は、パーカッション式リボルバーですが、能力のお陰で弾切れでも新しい銃が出て来ます」
リーはフフッと笑うと、右腰に下がっているホルスターからリボルバー、M1851を抜いて見せた。クルクルと回してから、グリップを僕の方に向ける。
「どうぞ?」
「あ、うん。ありがとう」
それを手に取って握ると、見かけ以上の重さに驚いた。
「重いね」
「ええ、そうでしょうね。
19世紀半ばの銃です。技術があまり発達していない。今の拳銃にとは比べ物に成らないくらいシンプルです」
1kg前後あるであろう拳銃を彼女に返す。彼女はそれを握るとクルクルと回し始める。リボルバー、M1851は全体的に黒いが、用心金、トリガーガードとも呼ばれる其処は金色であり、たぶん真鍮だろう。撃鉄も金色だ。グリップは純粋な木星グリップで何の彫り込み等も無い。輪胴、リボルバーの弾倉部もフルート、つまりは溝も無ければただただ回転機構の為の凸部が彫ってあるだけだ。
さみしいと言えば寂しい銃だが、クアトロ・セブンの様な武骨ゆえの美しさもある。
「君の銃は彫刻が無いんだね」
「彫刻?
ああ、エングレーブですか?」
リーは柔和な笑みを湛えたままホルスターに収めたリボルバーを抜き、それから消すと同時に新しいリボルバーを取り出した。先程のリボルバーと色などは変わらないが、銃身や機関部には精密な彫り込みが施されている。派手過ぎず、下品でもない、それでいて美しさが際立つ緻密な彫り込みだった。彫り込みには金が流し込まれており、それが銃全体の黒色と引き金や撃鉄のそれと相まって非常に美しい物だった。
「きれいな銃だね。
ザ・オールド・ワンの銃みたいだ」
この銃とすこし違うが、ザ・オールド・ワンの銃もこんな感じで綺麗な銃だったと記憶している。
「ありがとう御座います。
まだまだ新人の身故に、派手な銃は控えようかなと思いまして」
彼女は何でもわかっていると言わんばかりの笑みでリボルバーを撫でてからクルクルと回す。そして、暫く回すとホルスターに収めた。
「取り敢えず、今日は一日、君は見学と言うか研修して。
キメラが出ても、犯罪者が出ても、君は積極的に前を出なくていい。何かを見付けたら報告して」
「分かりました」
リーは頷くと、ホルスターに収めたリボルバーを自然に抜き放ち、それから、何の迷いもなく撃発した。
バゥンとぶっ放し、何をと言う前に悲鳴が上がる。150メートル程先に居た男がへたり込んでいる。
「何をっ!?」
「盗撮犯です。
あの人の前にいる女子高生のスカートの中を覗いていましたよ」
警備員が男に駆け寄っているので、確保しろと叫ぶ。それから男に駆け寄る。
「大丈夫ですか?」
「な、何するんだ!危ないだろうが!!」
男は僕を睨み付け、それからその後ろを睨み付けた。振り返ると、リーは悠然とリボルバーをクルクルと回しながら歩いて来ている。警備員たちもそんなリーの態度を見て眉を顰めていた。
「リー・モーティマー!」
僕の言葉に彼女はニッコリ笑うだけだ。それから、警備員に手を借りて立ち上がった男に回していたリボルバーをそのまま突きつける。
「君、何故僕に撃たれたか分かっているだろう?
隠し通せると思うのかい?」
リーは撃鉄を起こすと、男の顔は真っ青になった。リーの顔は笑みを浮かべてはいるが、目は笑っていなかった。
「自白するか、僕等によって逮捕されるか選び給えよ」
リーの言葉に、男は盗撮をしていたことを認めた。男の証言通り靴を探すとカメラが仕込まれている。
駆け付けた警官に身柄を引き渡し、被害女性も女性警官に保護して貰った。
僕等はそのままエスコンフィールドを回る。
「凄いね」
「ありがとう御座います。
こう言う場所では盗撮やスリ等の犯罪が多いと聞きましたので、そういう感じの人を探していました。例えば、あそこの350メートルぐらい先の女性とか、あっちの400メートル先の老人。あれは多分スリでしょう」
リーは的確に指を指す。僕はそいつ等に電撃を飛ばし、警官を向かわせた。そして、リーの言葉通り全員からスリや盗撮の証拠が見つかった。しかも、驚いた事に女性が女性を盗撮していた。
はっきり言って警察系の役割は十分以上に発揮できている。舌を巻くほどだ。
「君は……何と言うか、凄いな」
「有難う御座います、先輩の足を引っ張らない様にと努力した甲斐が有ります」
リーはクルクルとリボルバーを回しながら首を振った。彼女の癖なのだろう。リボルバーを回すのが。それからエスコンフィールドを回る。エスコンフィールドではアイドルのコンサートが開かれている。僕等はそこでの対キメラを中心とした警備をしているのだ。僕等の他にも多数の魔法少女がこうやって巡回している。
コンサートが始まればひと段落着くのだが、開始まではまだしばらくあるのだ。
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