20年前の教室の隅で創作を語る
【セント】ral_island
テンプレートの海を泳ぎきって
■テンプレートの海を泳ぎきって、その先へ──キャラクター創作の現在地
ツンデレ──かつてはこの一語で、キャラクターの輪郭を説明できた。
「べ、別にあんたのためじゃないんだからね」と口を尖らせて頬を染めれば、それで成立する人物像。90年代から00年代にかけての美少女ゲーム全盛期を知る者にとって、このテンプレは10,000回見たし、かつて、熱狂した。
当時、キャラクターは“属性”で構成されていた。
幼なじみ、先輩、後輩、ツンデレ、天然、眼鏡、妹系、ヤンデレ、などなど。
これらは言わば“味の素”のようなものだった。読者に即時の印象と記号的魅力を与える調味料。
セリフの語尾もまた、その属性を補強する要素として機能した。「〜なのです」「〜だよぉ〜」「〜っス」など、どこかで見たことのある、けれどなぜか安心できる“キャラ感”がそこにはあった。
「うぐぅ」と聞いて羽根つきランドセルを背負った少女を連想した方がいれば今日から親友だ。
もとい、それくらい記号は便利かつ有効だった。
しかし昨今、その枠組みだけではキャラクターは生き残れない。
『ガールズバンドクライ』に衝撃を受けた。
主人公の仁菜は、理屈では語りきれない痛みと、若さゆえの不器用な表現で世界に中指を立てる。「恥ずかしい」や「共感性羞恥」などという視聴者の防衛本能を、正面からぶち破ってくる。良くも悪くも“イタさ”が、現実の若者と地続きなのだ。
『次にくるマンガ大賞』にノミネートされた『都市伝説先輩』もまた、不思議なキャラクターを持ってきたものだ。
霊感体質でありながらパチンコ漬けで金銭感覚が壊れた大学生男子と、霊障に恋する女子大生が織りなす、歪で、しかしどこかリアルな青春が描かれる。
イロモノ、といえばそれまでだが、テンプレキャラでは到達しえなかった個性≒深みに足を踏み入れている。
『チェンソーマン』のデンジなんてもう、何だあいつは。
貧困、教育の欠如、情緒の未成熟。彼はヒーローでもなければ、正義感に燃える少年でもない。「パンが食べたい」「胸を揉みたい」といった、生理的欲求の地平から物語を歩き始めた異色の主人公だ。だが不思議と、多くの読者は彼に共感してしまう。なぜか。「正しさ」ではなく「生きている感じ」があるからだ。
これらのキャラクターに共通しているのは、テンプレートを大きく踏み外していながら、なぜか魅力的で、心を掴まれるという点だ。
カテゴライズできない個性で構成されているのに、我々は彼らを「愛せる」。この“ねじれ”が、今のキャラづくりの肝と言える。
では、そんなキャラクターを創作するには、どうすればよいのだろうか。
■テンプレートを超えるキャラクター創作のための3つの視点
1.「恥の履歴」を書く──キャラの“黒歴史”は宝物
人間の記憶に最も深く残るものの一つが「恥」だ。友達に嫌われたと思い込んで泣いた放課後。告白してすべったあの教室。自分のせいじゃないのに責任を押し付けられ、悔しくて眠れなかった夜。誰にでもあるような、でも誰にも言えない黒歴史。
これをキャラクターにも持たせると、単なる属性以上の“体温”が生まれる。
設定資料に「中学時代、演劇部で主役に選ばれたが本番でセリフを飛ばし、以来人前が苦手」と書くだけでは足りない。彼女がその出来事を今もどう思っているか、後悔しているか、それとも忘れたふりをしているか。恥を乗り越えていないキャラほど、人は目を離せなくなるものだ。
2.「どこにも帰れない痛み」を持たせる──孤独はキャラを立てる
仁菜は家庭に、デンジは社会に、それぞれ“帰れない”。この「どこにも居場所がない」という感覚は、テンプレ属性には含まれない“陰影”をキャラクターに与える。
物語の中で何かを「取り戻す」キャラクターがいるとすれば、それは“かつてあった居場所”を探しているからだ。一方で、最初から「どこにもいない」キャラクターは、物語を通して“居場所を創ろうとする”。この主体性こそが、強さとなる。誰かの脇役として存在するテンプレキャラとは対照的に、帰属のないキャラは、逆説的に物語そのものを駆動させる原動力になる。
3.セリフではなく、「やらかし」で語らせる──欠点は愛される武器になる
セリフではなく、行動。特に“やらかし”はキャラクターの深部を浮き彫りにする。
そしてそれが失敗であればあるほど、読者は共感しやすい。人間は、完全な存在には感情移入しにくい生き物だ。どこか間抜けで、うまくいかなくて、それでも前に進もうとする姿にこそ、愛おしさを感じる。
だからこそ、キャラクターを「賢くする」よりも、「やらかさせる」ほうがずっと強い描写になる。
■“記号”から“生”へ──今、キャラクターは生きているか?
テンプレートキャラの時代は、属性の組み合わせと語尾で成立していた。だが今はもう、記号だけでは生きられない。SNSで、アニメで、漫画で、人々の目に触れるキャラクターは、すでに無数のテンプレを超えてきている。だからこそ、新しいキャラは“傷”や“未完成さ”を抱えてこそ生きる。
設定を作り込むだけでは足りない。行動、恥、痛み、やらかし。こうした“におい”のような情報が、キャラクターを生きた存在にする。そしてそれは、創作という名のフィクションの中で、最もリアルなものになる。
テンプレートを捨てるということ。それは、キャラクターの「不格好さ」と向き合うということだ。だが、その不格好さの中にこそ、人はもっとも強く、共感し、恋をする。
だから今日も、テンプレをなぞらない。そこにこそ、創作者にしか見えない“本当の魅力”が眠っているのだから。
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