第6話 ついでに見物人を寝かしつける
僧侶ギルが場を辞すると見物席から荒っぽい声が飛ぶ。
「おいおい!こんなの出来レースだろ!」
「俺にもやらせろ!腕っぷしなら村一番のこの俺が!」
――『出来レースって……私のパーティーにとってのメリットは何一つ無いんだが……』
次々に力自慢たちが出てくる。
鍛冶屋の大男、漁師の怪力兄弟、果ては酔っぱらった冒険者まで混ざっている。
老人の強さはもう間違えようがない。
怪我人を出すまでもないと勇者は止めようとしたが――
「ほっほ。では、まとめて相手をしますかな」
「じ、じいさん!一対多数はさすがに無理だろ!」席に残った見物人が声をかける。
「心配ご無用。わし、子守りは得意な方でしてな……」
次の瞬間――ぽいっ、ぽいっ、どすんっ
挑んできた力自慢たちが次々に宙を舞い、気づけばサコンの腕の中に納まっていた。
そう、みんなおじいちゃんの“大きな抱擁”に。
「よしよし、怖くない怖くない」
頭をぽんぽんされる大男たち。
「うぅ……寝そう……」
「えっ、な、なんだこの安心感は……」
「母ちゃんに抱かれてるみたいだ……」
漁師の兄弟はスヤスヤ眠り……
冒険者はうっとりとほほ笑んでいる。
鍛冶屋の男は「おじいちゃんの武具を作らせてください!」とキラキラした目で懇願している。
観客全員が呆然。
「ちょ、ちょっと待て……! 殴り倒すどころか、包み込んだぞ!」
「なにこの爺さん……武力だけではなく、慈愛でも勝つのか!?」
「まさか……“武神”……?」
サコンは挑戦者たちを、そっと地面に寝かせ胸を張る!
「ふぅ……わしの特技“寝かしつけ”じゃ!」
勇者は思わず口に出す。
「なんて茶番だ……いや、ここまできたら、一周回って茶番ではすまないか……」
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