第3章
寄せる黄色い波
その隣に控える者は、
「おいおい、こりゃあとんでもないものを見つけちまったんじゃねえか、
八字髭の野盗のような男が舌なめずりしながら、顔の半分が髭の黄邵に言った。
「金目の代物を隠してるんじゃねえか? ひょっとすると糧食の蓄えもあるかもしれねえ。
目を細めて不気味な笑みを浮かせた賊徒のような黄邵が、八字髭の何儀に持ち掛けた。
「そりゃあ、いいな」
何儀と黄邵は
西暦一八八年、春――。
邑のことを
風が新緑の香りを運んでいた。
北東の
「冬はこれからが本番。冬を越してからにしてはどうだい?」
元緒は、塢主である許淵の言葉に甘んじた。連れの来訪を待つように、昼間は角楼で過ごす日々が多くなっていた。
塢の四隅にある角楼には、毎晩、邑の者が交代で見張りに立った。異変があれば、屋根から吊り下げられた鐘を鳴らすことになっている。
「ありゃ?」
目を見張った元緒は、弾かれたように立つと、吊り下がった鐘に身を寄せた。
「
元緒は渋々、
「――――⁉」
東西南北の門が閉まる音がした。それに続いて、門を補強する戸板を下げようと滑車を回す音が響いている。
「ほう。思いのほか迅速に対応するではないか。役割は
元緒が笑みを浮かせて感心していると、緊張の面持ちで角楼に姿を現したのは、許淵と
それに遅れて、
東に面した
黄色の軍勢は、明らかに許塢を目指して寄せている。騎馬百、歩兵千七百ほどだった。陽を照り返した得物の刃が綺羅と光って見える。
「やはり、こういう日が来るのか……」
「ここは野盗の
許淵の震えは武者震いだった。寄せる黄巾の群れに据えた
「定! 褚!
「応よ‼」
邑の者たちは勇んで持ち場へと向かった。行き場を失ったのは、元緒と許林杏だった。餓狼の群れから
「許林杏や、少し下がっておれ。お主は機敏じゃ。儂が伝令の任を命ずる。大切な役目じゃ。お主の活躍で、あの黄巾が退散すると言っても過言ではない。引き受けてくれるか?」
柔らかな笑みで元緒が許林杏に尋ねた。
許林杏の瞳には、活き活きとした光が宿った。
「はい! 元緒さま」
「うむ。
弓矢を手にした若人たちにその場を託すようにして、元緒と許林杏は角楼を降りた。墻壁に沿って東の
塢の中に矢が射込まれ始めた。すぐに千矢の
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます