第2話 学校前集合、S山Kトンネル行き

 補修が終わったその日の夜。


 俺は日をまたぐ前に学校の校門前に行ってみると、そこには真っ黒な人の影があることに気づいた。


「い、一条か・・・・・?」


 俺の問いかけに対して、真っ黒な影は突然光を放ったかと思うと、その人影は歩み寄ってきた。そして、街灯の明かりの元までやってきたその人は、紛れもなく一条だった。


「すごいっ、本当に来てくれたんだね山藤君」

「なぁ、マジで行くつもりなのか一条?」


「当然、せっかく家を抜け出してきたんだよ?」

「あのさ、先に忠告しとくんだけどやめといたほうがいいぞ」


「どうして?」

「心霊スポットなのはもちろんだが、あそこは悪い噂ばかりだぞ?」


「でも、幽霊が本当にいるのか知りたくない?」

「知りたくない」


「え、じゃあ、なんで山藤君はここに来たの?」

「ここには忠告しに来たんだって、マジでやめといたほうがいい」

「またまたぁ、そんなこと言って山藤君だって興味あるんでしょ?」


 そんなことを言いながら一条は俺の自転車の荷台に乗ってこようとした。


「おい、何やってるんだ一条」

「え、二人乗りで行くんでしょ?」


 当然のように荷台部分に乗ってくる一条にドキドキしていると、彼女はどこか不満げな様子を見せ始めた。


「ね、ねぇ山藤君、何なのこの荷物?」


 一条は俺が背負ってるものに興味を示し、ペタペタと俺のリュック

を触りながら中身を確認する様子を見せた。


「まぁ、一応な」

「これって何が入ってるの?」


「水、食料、ロープ、救急キットなどなど」

「こっちの長い袋は?」


「ぶっとい竹の釣り竿」

「え、なんで?」


「いや、一条がいなかったら夜釣りでもしよっかなと思ってたから」

「・・・・・・山藤君って、なんかずれてるよね。クラスでもいつも独りぼっちだしさぁ」


 お前に言われたくない、その気持ちを心の中で押さえた。


「それよりも一条、本当に行くのか?」

「しつこいなぁ山藤君、別にいいよ、山藤君が来ないなら私一人で行くだけだしさ」


 忠告しに来たつもりだったのだが、それでも断固として行くつもりの一条に対し、俺はとりあえず彼女をSトンネルまで連れていく事にした。


 まぁ、現地に付けば恐怖ですぐに帰りたくなるだろう・・・・・・


 だが、そんな思いとは裏腹に一条はSトンネルに到着するなり、はしゃぎながらトンネルへと走って行ってしまった。


 俺はそんな彼女の背中をすぐに追いかけようと思ったのだが、トンネルの脇道あたりに暗闇に紛れる様に黒い不審な車を見つけた。

 

 先客でもいるのかはたまた・・・・・・


 とにかく、一条を一人にしてはいけないと思った俺はすぐに彼女を追いかけた。


 トンネル内は涼しく、連日の猛暑を忘れるには最適の場所に思えた。


 そんな事を思いながら一条の傍までたどり着くと、彼女はご機嫌そうに笑顔で歩いていた。


 そして、トンネル内を見渡す限り先客がいる様子も見られなかった。


「一条、そんなに楽しいか?」

「うん、だって幽霊に会えるかもしれないんだよ」


「本気で会えると思ってるのか?」

「もちろんっ」


「で、その幽霊とやらはどこに現れるんだ?」

「トンネル内に現れるって聞いてたんだけど・・・・・・今のところ異常なしっ」


 一条は深夜だというのに随分と高いテンションでそういうと、トンネル内のあちこちにビシビシと指をさし示しながら歩いていた。

 

 そうして、俺たちはトンネル内を歩き続けていると、ついには出口にまでたどり着いてしまった。


 すると、一条はここでようやくつまらなさそうにため息を吐いた。まぁ、肝試しなんてのはこんなもんだ。それにトンネルだからいきなり野生動物が出てくるってことも少ないし、


「もどろっか、山藤君」

「あ、あぁ」


 さっきまで楽しそうだった一条は、露骨に残念そうな様子を見せながらそう言った。そんな顔をされたら、ちょっとくらい何かが起こってもいいかもしれない。


 なんてことを思いながら歩いていると、ふと背後から人の声が聞こえてきた。

 

 それは、まるで俺たちに話しかけてくるような大声であり、すぐに振り返ってみると、そこには警察官と思われる格好をした男がこっちに向かって走ってきていた。


 彼は俺たちの元まで来ると、息を切らしながら話しかけてきた。


「こんばんは、警察だけどちょっといいかな?」


 警察官を名乗る男は、そういって話しかけてくると一条はすぐに俺の背後に隠れた。

 幽霊にはあれだけ積極的な一条も警察にはおびえるらしい。やはり、なんだかんだ言っても一番怖いのは人間だ。


「ちょうどこのあたりを巡回中でね、君たちの姿を見かけたから声をかけさせてもらったんだ」

「すみません、正直に言うと心霊スポット巡りです。もう帰るところです」


 そういうと、警官は俺の顔をまじまじと見つめてきた。


「おや、君は山藤さん所の岳弥君じゃないか」

「・・・・・・はい、いつもお世話になってます」


「そうかそうか、今日は夜釣りじゃなくて彼女と心霊スポット巡りかい?」

「ただの同級生ですよ」


「またまたぁ」

「本当ですよ、でもこんな夜更けにすみません、すぐに帰りますので」


「いやいや、ちゃんと送り届けるからちょっと待ってて、すぐにパトカーとってくるからさ」

「でも自転車なんで」

「まぁまぁ、そういわずにさ、ここで待ってて」


 そういうと、警官は急いで俺たちに背を向けて走り去っていった。すると、すかさず一条が話しかけてきた。


「びっくりしたぁ、っていうか山藤君、あの警察官と知り合いなの?」

「いや、よく職務質問されるのと、親が色々とやってるから」


「色々?」

「まぁまぁ、とりあえず今日のところはおしまいだ、さっさとトンネル抜けて帰ろう」


「はぁ、なんか雰囲気ないなぁ、せっかく夜更かしして幽霊に会いに来たのにさ」

「まぁでも、警官が走ってきたのは怖かっただろ?」

「そ、それは確かにそうだけど・・・・・・」

 

 一条は悔しそうな表情を見せながら口を尖らせると、チューチューと変な音を鳴らした。

 しかし、そんな事よりも俺が今気になっているのは、あの警察官のあわてた様子だった。


 どこか嫌な予感を感じた俺は、この帰り道がただで終わらない様な気がした。

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