クママとミノル、罠にはまる

第10話


 カモダは、いつになったらくちばしが閉じるんだろう? と思わずにはいられないくらい、とってもおしゃべりだった。歩きながら、最近あったことや、面白いと思ったこと。悔しかったことに、さんざんだったこと。いろんなことを話してくれる。

「それでだ、どうして自分は鳥なのかと考えるなどしてだ――」

「あっ!」

 ミノルがどこかを指さしながら叫んだ。

「なんだ? カモダが話しているときによそ見をするとは何事か!」

 クママには、ミノルの目に映ったものがなんなのかよく見えない。だからミノルによじ登って、ミノルが見たものを見てみることにした。

 よいしょ、よいしょ。

「あっ! 小屋がある!」

 クママは、マキさんの家までの道に戻れた! と思った。ミノルを見る。ミノルも同じことを考えているみたい。ミノルは手をひょい、とクママに近づけた。クママはそれに勢いよくタッチ!

「あれ? 小屋?」

 喜ぶふたりとは対照的に、カモダは首をひねって困った顔をした。

「ぼくたちが持っていた地図に、小屋があってね。そこで休憩しようって話をしていたんだ。きっと、その小屋だよね? 小屋の先の道はよく覚えてないけど……。でも、なんにも分からないより、少しは分かるところに行けたら、ちょっと安心!」

「小屋? 小屋ぁ?」

「カモダさんは小屋を目指していなかったの?」と、ミノルが問うと、

「いや、そっちへ行こうとしていたわけじゃないけど、小屋がある道もある。ん~、だけどなぁ。あんな小屋、見たことがないカモ?」

「そうなの?」

「あれ? でも、あんな小屋だったカモ?」

 ちょっと、頼りないかも?

「とりあえず、行ってみようよ! 近くに行ったら、何かが分かるかもしれないよ!」

 言うと、クママはぴょん、とミノルから飛び降りて、腕を大きく振りながらずんずんと進み始めた。


「ついた!」

 いちばんに小屋に着いたクママは、ぴょんぴょん跳ねながらミノルとカモダを待っている。そんなクママに、

「もう、クママったら」

 ミノルは微笑みながら近づいた。

「んー? 何か、おかしいカモ?」

 カモダはなかなか小屋に近づこうとしない。

「カモダさん、どうしたの?」

「ああ、いや……なんでもないカモ?」

 ぴょこ、ぴょこ、ぴょこ。カモダは一歩一歩慎重に、難しい顔をしながら近づいてくる。

「どうしたの? なんでそんな顔をしているの? もしかして、このへんに何か埋まっていた、とか?」クママが言うと、

「えっ! うそっ! あたし、なんにも考えないで歩いてきちゃった!」

 ミノルは口に手を当てながら、おっかなびっくり自分の足跡を目でたどった。ミノルの視線が遠くへ行くほど、カモダはどんどん近づいてくる。ついにカモダが小屋に着いた。

「もう、どうしたの?」

「いや、なんか、なんとなく――ああ、でも、なんてことなかったカモ」

「まったくぅ。驚かせないでよ……ねっ!」

「きゃっ!」

「うわーっ! やっぱり、ダメだったカモー!」

 三人は、突然地面に開いた大穴にすとーん! と落ちてしまった!

 

 いてててて。

 クママは背中。ミノルはおしり。カモダは頭。

 みんな、落ちた拍子に打ってしまったところをさすっている。

「大丈夫?」

「ぼくは平気」

「ダ、ダメ、カモ……」

「えっ! 頭、おかしくなっちゃった?」

「し、失礼な! カモダ、頭おかしくないぞ!」

「なんだ。平気そうだね。ぼく、安心したよ」

 クママが微笑んだ。その顔を見たミノルとカモダの緊張の糸が、すっと緩んだ。二人の顔にも安堵の色が浮かぶ。でも、上を向いているミノルの顔から、その色はすぐに消えた。

「大した怪我がなかったり、頭がおかしくならなかったのは良いけれど……」

 ミノルが見ているほうをみんなで見る。大きな穴の向こうに、木の葉とオレンジ色の空。

「はやくここから出ないと、ここで夜を明かすことになっちゃうよ」

 それは大変だ。クママとカモダは「うーん」と唸った。

 すると、その時。

 ――かかったぞ。かかったぞ。ついに獲物がかかったぞ。

 どこからか、歌声が聞こえてきた。

 ――かかったぞ。かかったぞ。数か月ぶりのごちそうだ。

 歌声は、だんだんと大きくなっているような気がする。

「なにか、きこえる、よね?」

「それにこの穴、揺れてる、よね?」

 どん、どん、どん。

 歌声と共に、揺れがだんだんと大きくなっていく。

「も、もしかしてだけど、さ」

 ミノルが言うと、クママはごくん、と唾をのんだ。

「これ、罠カモー!」

 カモダが絶望感いっぱい、今にも泣きだしそうに叫んだ。

「ど、どうしよう!」

「逃げなきゃ!」

「登れる?」

「あたし、この高さは無理! クママは?」

「いける、かもしれないけど……。ちょっとむずかしいかも。っていうか、ミノルを置いていけないから、ぼくだけ登るのはダメ!」

「いや、クママひとりでも登れたら、ツルかなにか垂らして……いや、無理かぁ」

 バサ、バササ――。

 クママとミノルは羽ばたきの音を聞いてハッとした。

 罠カモ、と叫んでからというもの一言もしゃべらなかったカモダ。そんなカモダは、鳥だ。飛べる鳥。ってことはつまり――唯一難なくここから抜け出せる生き物!

「カモダさん、飛べそう?」

「飛べるなら、助けを呼んできてよ」

「カモダ、飛べる。だけど、助け、呼べない!」

「「なんで⁉」」

「だ、だって、怖いカモー!」

 ぼわん。カモダの体が少し浮いた。このままじゃ、飛んで逃げられちゃう!

 ミノルは焦って、カモダの足を掴んだ。

「コラ、放せ! 放してくださいカモー!」

「ちょっと! マキさんのところまでついて行くんじゃなかったの? パンを食べるんじゃなかったの?」

「死んだらパン、食べられないカモ! パンより命が大事カモー!」

「あたしたちをここに置き去りにして帰ってもいいよ! いいけど、せめて助けは呼んでよ! お願いだからーっ!」

 バササッ!

 翼が当たってひるんだミノルは、カモダの足を放してしまった。カモダがぶわん、と飛びあがる。

「まだ食べられたくないカモーっ!」

「助け、呼んでよーっ!」

「頼んだからねー!」

 クママとミノルは、飛んで逃げるカモダに必死に叫んだ。



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