迎撃戦ーTacticsー

秘宝護衛作戦

 向かってくる脅威を迎え撃つ。それは四方八方から来るもの、予想外もあり得る事。


 策を張り巡らせ計略を練り、実行し、臨機応変に応対する。失敗の許されぬ知恵比べ。


 神たる存在が蠢く中で行われるものがある。危険が迫る中に動き出す、危険が迫るからこそ動く、その中でしか感じ得ぬものがある。


 故に彼らは策を張る。合間を縫って迫る脅威を退ける為に、危機的状況下で余裕がないからこそ来るとわかっているのだから。



ーー


 エタリラ四大国には、それぞれ象徴たる大精霊、精霊、そしてそれに由来する秘宝が存在し崇められ、古来より大切に扱われ続けている。

 時にそれは争いの種となり数多の事変や騒乱を巻き起こし、エタリラの歴史を大きく動かす物事にもなった。


 厳重かつ堅牢に守られている秘宝を狙う者は数多入れども、それを得たものは一人としていなかった。だが、そこに王手をかけた者が五年前に現れ、阻止こそできたが大きく揺るがす事態へと繋がる。


 盗賊ザキラ、一人のリスナー犯罪者によるその事件はリスナーと呼ばれる存在が脅威となる得る事、その知恵と力とをまざまざと見せつけ、今再び火の国の秘宝を狙うべく動き出す。

 それを迎え撃つは火の国の大名の一人であり法を司り、十二星召に名を連ねるアヤセ・ミサキを中心とした面々だ。


 火の国サラマンカ南部にあるカゲロウ神社。緋色に見える内海に浮かぶかのように造られた社は様々な神事が行われるそこへイスカの案内でエルクリッド達は到着し、黒装束の配下に指示を与えて散開させたアヤセが一行に気づき、微笑みを見せつつも凛々しく応対する。


「こんにちは皆様。此度の協力依頼に応じてくれたこと、心より感謝申し上げます」


 深々と頭を下げるアヤセの言葉からは緊張感が伝わる。ザキラが秘宝を狙ってくる、その事実が彼女にとって大きな意味を持つことはエルクリッド達も事前に聞き及び、イスカが話を進めていく。


「首尾はどう?」


「ザキラのやり方が変わってなければ犯行予告通りに来るでしょうし、そこに書いてあるやり方をしてくるのやその裏を想定も致しました。信頼にたる腕利きリスナーとしてエルクリッド達を応援にと思ったのですが、こうして来てくれた事で手札が増えたのは僥倖です」


「一応わえの方からも分家に援軍頼んでおいた。そろそろ来るだろうから、こっちの説明は任せた」


 話を終えると共に一瞬でイスカはその場から姿を消して去り、余韻も残さぬそれにはアヤセは半ば呆れつつも改めてエルクリッド達の目を見て、以前よりも確かな成長を果たした事を感じつつ一歩前へ進み出て懐から一通の封筒を取り出し、エルクリッドへ手渡す。

 封筒には蜘蛛の巣を背景に頭が横に伸びた鮫を画く朱印が押されており、その中にはとても綺麗な字で書かれたザキラからの手紙が入っていたのでエルクリッドが読み上げる。


「拝啓アヤセ・ミサキ様、かつて盗み出すのに失敗した火の国の秘宝サラマンダーの牙をいただきにザキラ組は奉納しているカゲロウ神社に参上致します、新月の夜にまたお会いできる事を楽しみにしつつ完璧な手際で秘宝は手に入れに参ります、ザキラ……ってこれが犯行予告ですか?」


 えぇ、とエルクリッドに答えながら手紙を受け取ってアヤセは封筒を見つめ、何かを思い返すように目を閉じ静かに語り始めるのはザキラとの因縁についてだ。


「五年前に彼女を捕縛した時、バエル・プレディカが偶然いた事で彼女が足止めされる形となり逮捕できましたが……ワタクシが張り巡らせた策を全て乗り越えられた事は未だ後悔しております。私情は本来挟むべきではないと自覚していますが、何としても彼女をワタクシの手で捕縛したいのです」


 静かに燃える闘志が言葉から伝わってくる。沈着冷静に振る舞いながらもアヤセの言葉からは強い決意があり、その為に手を貸したいと思わせるだけの思いがある。


 と同時に、ふとノヴァはある事に気がつく。


「新月って今夜じゃないですか!?」


 あっ、とエルクリッド達もノヴァの指摘に気がつきタラゼド以外に動揺が走る。エタリラの月は常に出ているが、完全に光を失う新月の日がある。


 その時だけは星明りのみが地上を照らし闇の帳を彩るような時間がエタリラの夜を包む。呼ばれてすぐにザキラの犯行を防ぐ事となったのは驚きではあれども、それもまたアヤセの策と見抜くようにタラゼドが微笑みつつ周囲に目を配りながら口を開く。


「盗賊ザキラは事前の調査を怠らず計画し、不測の事態もある程度は想定しつつも危険は犯さない性格でしたね。我々を当日に呼び出したのもその為ですね?」


「その通りです。ザキラは危機察知能力が高く勝算のない盗みは行いません、ですが今回は彼女は必ず来ると確信しています」


「……ネビュラの存在、ですね」


 静かに頷くアヤセを見てエルクリッドの脳裏にネビュラの姿が浮かぶ。彼が何かの理由でザキラを解き放ち、それに関連するならば今回の協力要請はやる意味があるというものだ。


 無論、ザキラが用心深く戦わずに相手を無力化させる手腕や判断力を持つ事もエルクリッドは身をもって体験済みなのもあり、今回は単独犯でないとすれば陽動もあり得る。

 その中で相手の予想を覆す一手として選ばれたと思うと身が引き締まり、アヤセもそれを察して眼鏡の位置を直しエルクリッド達へ改めて話を切り出す。


「では皆様に具体的なザキラの捕縛、ならびに秘宝護衛作戦についてお伝えします」


 内海の水面が風で揺れる中でアヤセが話す策の概要を伝えていく。真昼の太陽が照り返す中で、エルクリッド達は護衛作戦に挑む。


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