5章

21話

学校の敷地内は生徒とお客さんでにぎわっている。体育館からは軽音部だろうか、歌と演奏が聞こえてくる。今日は文化祭。信楽先輩に半ば強制的に実行委員に参加させられた私達オカルト研究会は準備の手伝いと、当日の役目として受付を主に担当していた。実行委員の腕章をつけ、校門付近に席を構える。


「こんにちは!チケットを確認させてくださ~い!」


 私の隣でおそろいの腕章を着ける音色ちゃんは営業モード全開で対応していく。昨今のさまざまな情勢から、文化祭に招待する人をある程度制限している。基本、高校に通う生徒の家族あるいは広報も兼ねて中学生を対象者としている。


「楽しんでってね~!」


 文化祭ということもあり、普段なら許されないファッションに身を包む生徒たち。音色ちゃんも髪に赤いメッシュを入れて、実行委員会で作ったおそろいのTシャツを腰のあたりで縛り、いかにも文化祭中の女子高生といった出で立ちだ。美人な高校生のお姉さんに声を掛けられ、男子中学生たちの嬉しそうなこと。罪作りな女よのお。


「二人ともお疲れさま」


 同じく実行委員会のおそろいのシャツに身を包む信楽先輩と××先輩が交代の時間のため戻ってくる。


「お疲れ様です」

「交代するわ。オカルト研究会の出し物まで時間あるから、それまで他周ったり、ご飯食べてていいわよ」

「はーい!」

「お、秋津それ似合ってるよ。2人も折角だからやればいいのに」

「え、メッシュですか?いや私はそういうのちょっと…」

「…いいから交代するわよ。ほら」


「あの2人、進展することあるのかな。いつも一緒だけど」

「クロエたんがあれじゃあね~」



 ***



 私はあちこちからお呼びのかかっている音色ちゃんと別れ、何ゆえか道場の門をたたくことになってしまった。


「そんなへなちょこパンチじゃお化けを倒せないよ!ほらもう一発!」

「ええ~?こういうのって綺麗に割れるようにできてるんじゃないの!?というか、持ってる人が割ってくれるのでは?」


 空手部の出し物の板割りを体験する(させられる)私をスパルタ指導するのは、夏の間により仲良くなれた渡辺さん、もとい琥珀ちゃんである。私が霊感があることを受け入れてくれてからは、変に私のことを風潮するでもなく、ただ”そういうひと”として扱ってくれる。お互い、いい意味で遠慮がなくなった気がする。それにしたって今日はスパルタでは?


「そろそろ勘弁してあげたら?」

「この子はオカルト研究会として、世の悪鬼悪霊と戦っていく使命があるんです!これ割ったら出店でなんか奢るから、ほら頑張って!」

「別にそんな、使命背負ってるわけでは…」


 使命を背負ってるわけではない。でも、怪異から自分の身を守るための力は欲しい。私を受け入れてくれる人たちが助けを求める時に力になりたい。これも糧になるなら…。


「よし、行きます!渡辺師範!」

「そのいきだ!来い!」

「え、え~い!」


 板は爽快感のない悲鳴を上げ、2つに分かれた。



 ***



 スパルタな渡辺師範の奢りでおなかを満たした私は、少し早めに生徒会室へ向かっていた。信楽先輩が場所を確保して、オカルト研究会も出し物をできるようにしたのだ。ちょっとした占いの館みたいなものをやることになっている。占うのは口が達者な音色ちゃんと蝉川さんがメインだ。

 雰囲気出そうだからと、生徒会室に施した装飾とともに私の人形・蒼美を置いている。大人しく、お人形らしく待っててくれてるよね?


「あの~ちょっといい?」

「…はい?」

「オカルト研究会って、どこでやってます?」


 声をかけてきたのは、同年代と思われる男子だった。背が高いか若干幼さが残るし、制服だし、中学生だろう。可愛らしい彼女?を連れている。まあ、モテるんだろうなという感じの男の子だ。


「あ、私オカルト研究会のものです。ちょうどこれから向かうとこで…よくわかりましたね。私がオカルト研究会の人だって」

「え、そうなんだ。いや係の人だと思ってたまたま声掛けて…」


 係の人?そういえば、実行委員会の腕章を着けたままだった。


「場所は2回の生徒会室です。ちょっとまだ予定の時間まであるから、他の人集まってないかもしれないけど、案内しますね」


 生徒会室に2人を案内する。やはりまだ誰も来ていなかった。いや、人形は戻って来ている。ではなかった、ずっとここで待ってくれていた…と思いたいが、若干朝置いた場所と位置がずれている。誰にも見つかってないでしょうね。


「もう少しで、その~、占い師さん来るから待っててね」


 偏見ではあるが、正直あまりオカルトなことに興味があるようには見えない少年は、緊張気味で部屋を見渡す。彼女さんはといえば、さっきから無言でなにやら不貞腐れているようにも見える。それにこちらをにらんでいるような。私はあなたの彼に言われてここに案内しただけで、他に行きたいなら彼氏さんに文句をお願いします。

 とはいえ、私の方が大人なので、何か話題を振って場をつないで見せましょうとも。口が達者でないにしても、頑張って雑談しよう。もう、人との関わりを避けてきた自分は捨てたのだから。


「ふ、2人は高校の文化祭はここが初めて?他も周ってみたの?」

「…え?」

「いや、だから、うちの高校を志望してくれてるのかな~なんて…」


 驚愕した様子の彼氏さんと、相変わらず不愛想な彼女さん。私そんな変な話題振ってるだろうか。


「俺、1人で来たんだけど…」



 ***



「へー、じゃあザクロの弟君来てるの?」

「さっき来たって連絡あったから、どっかにいると思うんだけど。それからあいつ返信よこさなくて」

「はたまた、なんでオカルト研究会に用があるんです?」

「あたしが勧めたんだ。アイツ最近鏡に女が写ることがあるとか言ってるからさ。そういうのに詳しい友達いるからって。2人はどう思う?」


 オカルト研究会の出し物を行うため生徒会室に向かう途中、秋津音色、蝉川翠は吉祥ザクロと合流していた。オカルト研究会の2人は友人の弟の身に起きた現象について相談を受けた。


「うーん、本人に憑りついているのか、あるいは家に憑いているのか…。ザクロは家で何か感じることない?」

「それが何にも。経験上、いれば感覚的にわかりそうなんだけど」

「え!?吉祥さんも霊感あるんですか?」

「あ~いやその、ないんだけど、前にちょっとね。音色や真夜ちゃんに助けてもらってさ」

「そうなんですか。その時って…あ、いえ、怖い思いしたわけですもんね、すみません。私は全然霊感ないので。わかんないからこそ、オカルトが好きでいられるんだと思います」

「怖いって言うか…ううん、気を遣わせちゃってごめん」


 気まずい雰囲気を吹き飛ばすように、赤いメッシュの少女が口を開く。


「…よし!じゃあ弟君を待つ間、我々でザクロを占ってしんぜよう!何か悩み事とか、気になってることはないかね!」

「え~!?ザクロ、モテすぎて困ってま~す!モテすぎて逆に誰も声掛けらんないってゆうか?どうしよう翠ちゃん、どこかに運命の人いない?」

「うーわ、もっとわかんないヤツきた」


 先頭をいく赤いメッシュの少女はガラッと生徒会室のドアを開ける。

 中は占いの館らしい、水晶っぽい球、怪しげなカード、いかにもな装飾が施される。普段は生徒会長の指定席のテーブルに陣取る蒼いお人形。

 普段の生徒会室であればふさわしくない品々の数々。だが生徒会室に最もふさわしくないであろう光景が床に広がっていた。

 そこには女子高生と、それに覆いかぶさる男子中学生の姿があった。


「うーわ、わからんわからん!もうなんもわからん!!」

「てめえアタシの真夜ちゃんに手ぇ出しやがってどこの馬の骨じゃコラあ!!」

「何よ、何事?…なんだせい先に来てたんだ」

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