第15話 ヘルヘイムの狂気

 ――ヴァルハラ戦域


 ソルマーニによる光の螺旋が大地を削る……その光の残滓と砂塵が辺りに巻き上がっていた。


 『こ、高濃度のエーテル粒子が広がり、周辺の索敵に影響が出ています』


 管制官からの通信が響き渡る。


「なんという力だ……これが、神装機の力なのか」


 ヴィーダルが、目の前で起きた光景に呆然としていた。


「ソレーユ?ルーナ?二人ともそれに乗っているの?」

「ジルさん、はい、気がつくとこの操縦席にいて」

「これ、神装機らしいの!すごくない?」

「神装機、これほどの力を……」

「油断してはいけません。前方の警戒を」


 ソルマーニが周辺の警戒を促す。

 

「大丈夫よソルマーニ、あの威力よ?さすがに……」


 ソレーユが、言葉の途中で開口したまま、前方を見つめる。


「なに、あれ?」


 砂塵の中から黒い霧が漏れ出す……


「いけない!フィールド展開!」


 ソルマーニの口調に焦燥感が滲み、ルミナス・フィールドを展開させる。

 その瞬間、紫炎を纏った黒線が撃ち出された。

 ソルマーニが機体に纏ったバリアでその黒線を受け、激しい振動と爆炎が視界を支配する。


「ちょ!なにこれ!?」

「前方に高濃度のエーテル指数を確認。さっきの二体とは、別の……」

 『管制塔より、各機へ!前方に新たな……え、この反応は、ヘイムダル?』


 管制官の言葉と同時、目の前の砂塵が晴れ、視界が戻る。その中に現れたのは、禍々しい瘴気を纏う黒緋の機体……


「お前達、遊びが過ぎるぞ?」

「ロキ様っ!申し訳ございません」

「面目次第もありませぬ」


 その機体の前に傅く犬の様に、スコルとハティが首を垂れる。


「ソルマーニか、よもや貴様がここにいようとはな」


 ヘルヘイムはソルマーニを蔑む様に睨み付け、腕を組む。


「私は、魂の残滓を感じてここに来たまで……ロキ、ヘイムダルと差し違えたあなたがどうして?」

「知れたことを、我はただ、冥府の底より蘇っただけだが?」

「そんな、どうやって……」

「些末な事を気にするな。お前達も、直に冥府へと送ってやるのだ」


 そう告げると、ヘルヘイムは上空へと浮遊し、周辺に夥しい量の黒霧を解き放つ。


「この機体からだ、この力、どれほどのものか試させてもらおう……」


 その瞬間、ヘルヘイムの周りの光が失われ、漆黒に染まる。まるで、その空間にだけ穴が空いたように球体が作り出された。


「ちょっと!あいつ、何する気よ?」

「嫌な予感がします……ジルさん、私たちの後ろへ」

「ええ、あの球体、とてつもないエーテル指数よ」

「ルミナス・フィールドを展開、出力最大」


 ルーナがバリアを展開させ、防御体制をとる。

 次の瞬間、黒い球体から無数の触手が伸び、無差別に襲いかかる。

 スコルとハティは即座に後方へ退がったが、逃げ遅れたガルムが全て、触手に飲み込まれた。


「なにこれ!やばいんだけど!」

「気味のわるい……セルマさんたちは!?」

「大丈夫。無事にヴァルハラまで撤退出来た様です」


 この間にも触手はニ機に襲いかかる。しかし、ソルマーニのバリアに触れた瞬間に粒子となって霧散していく。

 徐々に攻撃の手は緩くなり、反撃の隙が窺える……ルーナはルミナス・ビットを展開させ、ヘルヘイム目掛けて集中砲火させる。

 幾つものビットがヘルヘイムを斬りつけ、その傷痕から黒い瘴気が噴き出す。


「ふむ、まだコントロールは難しいか……だが、感覚は掴めた」


 しかし、ロキはその傷を気にすることなく大地に足をつけると、傷口から噴き出す瘴気を集めて剣を成した。


「ロキ様!」

「お前達は離れていろ、肩慣らしだ……」


 そして、ソルマーニの方へ視線を移すと同時に姿が消える……凄まじい速度で進み、黒い軌跡を残しながらソルマーニへ迫っていた。


「来る!」

「やってやろうじゃない!」


 ソレーユはソール・キャリバーを構えて迎え撃つ……

 バシュ……バチン、バチバチバチバチ……高濃度の瘴気とエーテル粒子が衝突する音が響き渡り、空中で凄まじい攻防が繰り広げられる。


「ははは!良いぞ!ようやく機体からだが温まって来た!」


 ヘルヘイムは更に速度を上げ、空気を裂く音とともにソルマーニの懐に入り、黒剣で斬りつける。

 夜の闇の中、白く輝く軌跡を残しながら地面へ叩きつけられる。


「いったぁ……ルーナ、大丈夫?」

「うん、ソルマーニは?」


 搭乗者の二人は無事な様子だが、ソルマーニの胸部装甲は先の一撃で破損させられていた。


「装甲の中層まで損傷したようですが、戦闘の続行は可能です」

「良かった。でも、相手も無事じゃないみたい」


 ルーナとソレーユがヘルヘイムを注視すると、剣を振り抜いた腕の装甲が抉れ、肘の接続部分から火花と瘴気が噴き出していた。


「これ以上は機体からだの方が負荷に耐えられぬか……スコル、ハティよ、興が冷めた。戻るぞ」

「「御意」」

「待ちなさいよ!逃げるつもり!」


 ソレーユが再び、刀を構えて距離を詰める。しかし、ヘルヘイムの周りに黒い球体が幾つもの現れ、手のような触手が蠢く。

 その腕は近づいてくる、ソルマーニの腕や足の装甲を掴み、動きを封じる。


「勘違いをするな、今回はほんの挨拶に過ぎん……オーディーンもおらぬようだしな」


 そう言って、ロキは持っていた黒剣をソルマーニに突き立てる。

 ギィン!……ジジジジ……装甲が抉れ、剣が刺さる音とエーテル粒子が蒸発するような音が鳴り響く。


「あうっ!」

「おとなしく待っておるのだな……我の力と、このヘルヘイムの力が完全に一つとなる時、再びお前達に亡びを与えてやる」


 ロキはそう言い残し、スコル、ハティとともに瘴気の霧に包まれて消えた。


「なんなのよ、あいつ!」

「敵影、消失……」

 『あ、周辺にヨトゥンの反応、ありません!司令……』

「ああ、全機、帰投させろ」


 ――ヴァルハラ、第2区画、格納庫


 ソルマーニとジルの機体がハンガーへと帰投すると、G.O.D-04と07が痛ましい姿で横たわり、整備班に囲まれていた。


 そこで、セルマとフェリクスを見つけて駆け寄るシグフェイル姉妹。

「セルマさん!おじさん!大丈夫?」

「ソレーユ、ルーナ!ああ、俺は軽い打ち身程度で済んだよ、フェリクスさんも無事だ。二人こそ、怪我はない?」

「うん!流石にやばいと思ったけど、気がついたら神装機の中にいたの!」

「まさに、奇跡」

「本当に、今回ばかりはもうダメかと思ったわ」


 そこへ、ジルも合流する。


「ジル、すまない……君にも無茶をさせてしまった」

「仕方ないわ、戦力が少ない状況であんなのが出てきたら……」

「いや、レイヴァンスやグエンがいたところで状況は変わらんだろう。神装機の力が無ければ……」


 そう言って、視線をソルマーニの方へと向ける。

 それに応えるかのようにソルマーニの声が響く。


「人の子らよ、今の世界がどうなっているのか、私に状況を教えて欲しいのですが」


 いつの間にか、ソレーユとルーナの左手首に太陽と月を想起させる形状のデバイスが装着されていた。


「わ、ここから声がする!」

「ユーディンさんも、似たような物をつけてた」

「確か、ソルマーニと言ったか……我々も、あの新たなヨトゥンについての情報が欲しいのだが」

「そうだね、とりあえず司令に話をしに行こう」


 ――ヴァルハラ、第1区画、司令室


 G.O.D部隊とヴィーダル、樹里博士と神峰夫妻が司令室に集まっていた。


「なんか、この前もこうやって集まらなかった?」


 樹里博士がやれやれといった様子で首を竦める。

 それを、ヴィーダルがジロリと横目で圧をかけると、樹里博士は両手を上にあげ、項垂れる。

 そして、今の人類の状況、ヘイムダルがヘルによって奪われたこと、オーディーンと生命の樹についての話しをソルマーニにする。


「……なるほど、あれから千年の時を経て、このようなことに」

「ああ、そして今回、奪われたヘイムダルがあのような姿で現れるとは……あなたの助けが無ければ、多くの犠牲が出ていたことだろう。ヴァルハラの民を代表して、お礼を申し上げる」

「礼には及びません。私とて、自分の力を覚醒させるために愛しい子らを巻き込んだのですから」

「巻き込んだだなんて!ソルマーニは、あたしらにとっても命の恩人よ!ねぇ、ルーナ」

「うん、あのままじゃ、死んでた」

「なぁ、その”愛しい子”ってのは何なんだい?」


 ソルマーニの言葉の節々で耳にする、その言葉をセルマが尋ねる。


「そうですね、言葉の通りなのですが……まず、この神装機ソルマーニに宿っているのは、かつての操縦者でもあるソールとマーニの神格なのです」

「え?操縦者の神格って、機体の核に移しても肉体は残るの?」


 樹里博士が首を傾げながら尋ねる。


「はい、本来であれば消え去ります。ですが、ソルマーニはソールとマーニ専用にオーディン様が創った一つの機体なのです。その核にソールとマーニの神格の力を半分ずつ宿すことで”私”という人格が生まれ、二人は身体を失うことなく存在出来たというわけです」

「神格を半分ずつ、神族ってそんな事も出来るのね」

「いえ、ソールとマーニが特別……二人の神格は太陽と月の力、謂わば二つで一つの力なのです。」

「あーそう言う事ね、太陽と月の力を持つ神装機だからこそ、その核にも搭乗者にも太陽と月の神格が必要になるわけなのね」

「そう言う事です……しかし、神々の黄昏で神格の力を失ったソールとマーニは、スコルとハティ、先ほどのヨトゥンに飲み込まれてしまった」


 G.O.D部隊を壊滅させたヨトゥンの名に、隊員達は顔色を曇らせる……


「それでも、ソールとマーニの子が、命を繋いでくれたおかげでこの子たちと巡り会えたのです」

「なるほど、それで愛しい子なのか。なんだか運命的なものを感じるね」


 セルマの言葉に、ほんの少しの間を残し、ソルマーニが同意を示す。


「運命……そう、ですね」

「ねえ、ソルマーニはヨトゥンとの戦いに力を貸してくれるの?」


 ソレーユが左手のデバイスに向かって話しかける。


「もちろんよ。私の力はそのためのもの……スコルとハティにも、引導を渡さねばなりませんしね」

「うん、あたし達もやられっぱなしは嫌だから」

「一緒に、戦お」


 お互いの情報共有と、新たな神装機の力が加わったところで、ヴィーダルが立ち上がる。


「協力に感謝する。これで解散ということにするが、全員、休める時に休んでおけ……」

「ふぃ〜終わったぁ、行こうルーナ」

「うん」

「それじゃ、俺は機体の修理を手伝いに行こうかな」

「そうだな、俺も行こう」


 隊員達が司令室を出ていき、ヴィーダルは神妙な顔で口を開く。


「樹里博士、G.O.Dの力でヘルヘイムに対抗できるか?」

「ジュ・リ・ア・ンよ、ふぅ……正直、勝ち目はないわね。出力、火力、機動力も全て段違い。神装機の力で互角となるとね」

「なんとかなるか?」

「神装機の戦闘データをもとに、スペックの強化が出来るか考えてみるわ、神峰博士も手伝って」

「もちろんよ、博士」

「よし、早速、データの確認から始めよう」


 遂に姿を見せたロキ、ヘルヘイムの脅威に対抗すべくヴァルハラの頭脳が知恵を巡らせる……

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