第2話 家庭訪問
小学校入学後の蓮はほどなくして教師の目に止まった。
薄汚れた服、給食もがっつくように食べており普段の食事も十分ではないのだろう。
明らかに適切な養育を受けられてない。
担任の田中は蓮を呼び止めて話をきいた
「ねえねえ蓮くん、お母さんと話したいんだけど先生がいっていい日あるかな?」
「うーん、お母さん毎日夜遅く帰ってくるからたぶんむり!」
「そっかー、お父さんは?」
「お父さんはねー、ずっと部屋から出てこないの。入るとすっごくおこる!」
「そうなんだ、お風呂とかご飯はどうしてるの?」
「ご飯はお母さんが朝と夜食べる分作ってくれる。でもたまに夜の分お父さんが食べちゃうこともあるんだ。お風呂は休みの日にお母さんが銭湯に連れてってくれる。3年生になったら1人で入れるようにってたまに1人で男湯にいくこともあるんだ。」
なんてことだ…。田中はメモ書きを走らせひとまずの対応を考えた
「お母さん、休みの日があるんだよね。それはいつ?」
「うーんとね、土曜日!」
「じゃあ今週の土曜日先生行きたいって伝えてくれるかな?」
「わかった!」
そして迎えた土曜日
望千夜は眠い目を擦り来客の応対をした
「蓮くんのお母さんお休みのところ失礼します、私蓮くんの担任を務めさせていただいております田中です、そしてこちらが」
「民生委員の鈴木です。よろしくお願いします」
「はあ…ご足労ありがとうございます」
田中は部屋を見渡した。望千夜が寝る前に頑張っているのかよく掃除されている。しかしきになるものが目に入ってきた
「あれ?蓮くんは1週間に一度銭湯にいくんだよね?でも家にお風呂があるように見えるけど」
「あ、そこはお父さん用」
「…は?」
「お父さんね、『他の人が入ったお風呂入りたくない!それにガス代がもったいないやろ!』とか言ってるからそのお風呂はお父さん用なんだ!」
「…まああの人アトピーで風呂入るのめんどくさがるから3日に1回くらいなんだけどね。その隙に入ろうとしても不機嫌になるから銭湯に連れてってる」
望千夜がうんざりしながら続けた
鈴木に蓮を任せ田中は本題に切り出した
「お母さん、失礼ながら生活大変じゃないですか?」
「まあ、大変ですね。仕事3つ掛け持ちして休みも今日くらいだし」
「旦那様は何を」
「俺は配信者だーとか小説家だーとか騒いでる時もありますけど、実質無職です。毎日毎日スマホとにらめっこして冷凍食品食べて寝るだけの生活ですわ。ただあの人の弁護をさせてほしいのは、きっと普通に働くのは無理なんです。たぶんだけどここが」
望千夜はこめかみを人差し指でトントンとさした。
それを聞いていた鈴木は
「それならばなおさら私どもに頼ってください。旦那様の部屋の前に案内してもらうことはできますか?」
「…はあ、どうせでてこないと思いますけどいいんですか?」
「はい、扉越しにでも話しますので」
「『syakuさん』、お客さんきたから出てきてくんない?」
悠平は今でも自分のことを『syakuさん』と呼ばせたがる。なぜか彼は本名を嫌っているのと自らの虚像にすがりついているからだ
「誰だで?凸者なら追い返しやがれ!」
「凸者ではありません。私民生委員の鈴木と申します」
「みんせいいん?なんだでそれは」
「『syakuさん』たちご家族のお手伝いができたらと思いお邪魔させていただきました」
「オラそんなの頼んでない!帰って!」
「…出てこなくてもいいから話だけでも聞いてくんない?あとであんた好きなアイス買っとくから」
「それなら仕方ないだでな、早く済ませるだで」
鈴木は望千夜に小声で感謝を伝えたあとsyakuに伝えた
「syakuさんは今は療養中なんですよね?」
「…悪い?」
「いえ、療養中ならばどんな治療方針なのか気になったまでです」
「オラ、病院なんていってないだで」
「…え?でも療養中って」
「オラは障害者じゃない!」
扉越しでも不機嫌さが伝わるような大声を悠平は出した
「…わかりました。あとお風呂の件なんですが入らない日は蓮くんに譲ってあげることってできませんか?」
「イヤッ!なんでおらがガキに使わせなあかんねん」
鈴木は「それでも父親か」という言葉が喉元まで出かかっていた。しかし感情に任せてそれを言ってしまえば母子のためにならないだろう。鈴木は自らの使命をまっとうすべく1枚のチラシをドアのすき間に差し入れた
すると悠平は
「ヴヴヴヴヴ!オラをバカにしやがって!」
と地団駄を踏み出した
「申し訳ございません、余計なお世話でしたか?」
「当たり前だで!」
くしゃくしゃに丸めて鈴木に投げつけられたチラシからは「引きこもり支援」との文字がチラ見えしていた
鈴木は悠平との対話を諦め、望千夜と田中のいる居間へ退却した
「蓮くんのお母さん、気分を害されたら申し訳ございません。生活保護を受けませんか?」
「…やっぱそう思う?」
「お母さん、無理してますしお父さんも医療支援が必要な方のようなので」
「うーんうーん…私はそれでもいいんだけどさ、あいつが嫌がるんよ」
望千夜は悠平の部屋を一瞥した
「それはなぜですか?」
「あいつがネットで配信してたときかな?『お前は福祉の世話になって静かに生きるべきだ』ってコメントがきたんよ。それをあいつはアンチコメントだと見なして怒り狂った。それ以来福祉関係の言葉はうちでは口にできない」
「…」
「では、われわれはこれで失礼します。こちら子ども食堂の地図です。お子さんなら無料で夕ご飯が食べられます。大人も格安で食べられて悩み相談もできるみたいなのでぜひ」
「わかりました。本当に助かります」
「私からはこれ、お母さんと蓮くんで食べてください」
鈴木はフードバンクの食料を渡した
「あと、こちらも」
「…はい」
こうして田中と鈴木は去っていった
「あいつらいなくなっただでか?めんどくさいやつらだでマッタク…」
彼らがきた理由が己にあるなど思いもしないのであろう、悠平はまた部屋にこもりスマホを弄り始めた
「私の人生、どこで間違えたのかなあ…」
望千夜はそう思いながらも襲いかかる睡魔に勝てず眠りについた
望千夜が目覚めたのはもう部屋が真っ暗になっていた頃だ
「ごめんお母さん寝てたね。今日はもらいもののご飯食べよっか」
「お母さんあのね、それお父さんが全部食べちゃった」
「は!?」
ダッシュで小包をみるとパンやカップラーメンなどすぐ食べられるものは軒並み食い荒らされていた
「おい悠平!」
悠平はビクッととびあがるもすぐに威圧的な態度に踏み直し
「だから!オラを悠平ってよぶな!」と喚き出した!
「そんなことどうでもいいんだよ!なんで貰いもの全部食ってんだコラ!」
「だってあの鈴木ってやつは家族を助けるためにもってきたんだで?ならおらが食べてもいいだでな」
「…ぐっ!あんたには毎食冷凍食品買ってるじゃないの!私の料理は味が薄いっていうから高い冷凍食品買って!それでもたまに蓮の分の弁当まで食べて!今日はいただきものまで食べたの!?いい加減にしてよ!」
「文句あるだで?オバエみたいな貧乏人のところにいるからステーキ食べられないだでよ、蓮ばっかりかわいがられてオラかわいそうー」
「そんなこと言わないで、ひどい…」
望千夜は机に突っ伏して泣き出してしまった
あの人の理解者でいよう、そう振る舞ってきたのに実際は私の大切な子どもを苦しめている…
左手には鈴木が差し出した「DVSOS」の連絡先がかれた名刺がしっかりと握られていた
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