第4話:経済の網、響命の旗
中之島・リーガロイヤルホテル。
関西財界の重鎮たちが一堂に会する、重苦しい会議室。
光洋電機の会長、京阪神電鉄の総帥、港湾開発のゼネコン幹部ら──名だたる顔ぶれが、津守新の前に並んでいた。
壇上に立つ津守は、濃紺のスーツに身を包み、白装束の影を一切見せなかった。
背後には「大和未来党・政策懇談会」の文字。
宗教ではなく政党。改革の旗を掲げる新たな姿を、鮮やかに演出していた。
津守は一呼吸置き、ゆっくりと口を開いた。
「大阪を、未来の首都とする。
ここを拠点に、再生の旗を掲げるのです。」
その言葉に、場内はざわめいた。
財界人たちは互いに視線を交わし、半信半疑の色を隠せない。
津守はふと、光洋電機の会長、そして京阪神電鉄の総帥に目を向けた。
二人はわずかに頷いた──その瞬間、空気が変わった。
⸻
回想──数日前、光洋電機本社 応接室
黒塗りの応接セットに腰掛けた会長は、腕を組んだまま津守を見据えていた。
「……経営の神様とまで呼ばれた我が社だが、今や縮小と撤退ばかりだ。
海外勢に押され、誇りは地に落ちた。何をもって再生などと言うのかね。」
津守は微笑んだ。
「再生可能エネルギー施設の国家特区を、光洋に一任する。
未来のエネルギーを担うのは御社です。」
会長の眼がかすかに光った。
──同じ日、京阪神電鉄本社。
重役会議室に広げられた都市地図の上で、津守はペン先を沿線に走らせた。
「東京資本が不動産も鉄道も、次々と関西に食い込んでいる。
ですが、大阪が首都となれば、御社の沿線は“国家の動脈”になる。
再開発利権を、すべてお渡ししましょう。」
総帥は息を詰め、津守を見据えた。
「……首都が大阪に?」
「ええ。万博後の開発利権を土産に、民自党との連立に入る。
それが突破口となる。
東京に飲み込まれるか、大阪で立ち上がるか──選べるのは今だけです。」
静寂ののち、重々しい頷きが落ちた。
津守はその瞬間、勝利を確信した。
⸻
現在──リーガロイヤルホテル
財界人たちは光洋と京阪神の沈黙の賛同に気づき、次々に表情を変えていく。
最初は疑念、次に安心、そして拍手。
「未来」「再生」の言葉が口々に繰り返され、やがて賛同の波が会場を覆った。
壇上の津守は、冷ややかな眼差しでそれを見下ろしていた。
思想では動かぬ者たちも、欲望なら動く。
だがその欲望を束ね、現実に変えることができるのは、自分だけだ──。
⸻
夜。祠に戻った津守は、石像に向かって低く呟いた。
「虚像か、現実か。
どちらでも構わぬ。操る者こそが、未来を作る。」
奥の端末が冷徹に記録する。
「……記録しました。」
津守は目を閉じた。
財界の笑顔も群衆の熱狂も、すべては幻。
だが幻を操る者にだけ、現実を変える力があるのだ。
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