心臓刑 ―最後の鼓動を待つ人々―

サボテンマン

序章

 人は心臓を抜かれても、すぐには死なない。

 それは医学の進歩が証明した事実であり、この国における「死刑」のあり方を変えた根拠だった。


 絞首刑は残虐である、と長年非難されてきた。電気椅子も薬物注射も同じだ。人を「殺す」その行為自体が残酷だとされるならば、もっと穏やかな死の形はないのか――そう議論が繰り返された。


 そして導入されたのが「心臓刑」だった。


 罪人の胸を切開し、医療機器によって心臓だけを摘出する。脳には酸素を供給する人工循環装置がつながれ、痛みは与えられない。本人はその後も一日から二日ほどは、歩き、食べ、話すことができる。だがやがて眠るように、静かに命が尽きる。


 抜き取られた心臓は、臓器移植のために使われる。罪人の命は、別の誰かを生かすための資源として再利用されるのだ。


 この制度が「残酷か否か」については、今も議論がある。だが国家は「死刑囚の命が社会に還元される」という大義を掲げ、世論もおおむね賛成した。


 死刑囚の心臓は、人を救うために使われる。

 そして死刑囚自身には、最後の一日を「自由に過ごす権利」が与えられる。

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