コラム:新人冒険者のための実践的文字化術

俺のところには、毎月のように新人冒険者から相談が来る。


「目標を文字にしろと言われても、具体的にどうやったらいいんですか?」

「どんなノートを使えばいいんですか?」

「周りからバカにされそうで恥ずかしいんです」


気持ちはよく分かる。俺も最初は同じだった。ぶっちゃけ、今でもさっきの質問のような悩みを抱えている。


ただ、安心してほしい。文字化は誰でもできる簡単な技術だ。特別な才能も高価な道具も必要ない。重要なのは、


君たちが明日から実践できる、具体的な文字化の方法を教えよう。


・まずは道具選び:とりあえず『冒険者活動記録手帳』を活用せよ


「どんなノートを使えばいいか分からない」という質問をよく受ける。答えは簡単だ。何でもいい。本当に、何でもいいのだ。


高価な手帳である必要はない。むしろ、最初は身近にあるもので十分だ。一番手軽なのは、ギルドの受付でもらえる『冒険者活動記録手帳』だ。あの薄っぺらい茶色の手帳のことだ。君も一度は手にしたことがあるだろう。


多くの新人がこの手帳を軽視している。「あれは任務報告書を書くためのものでしょう?」と思っているかもしれない。しかし、実はあの手帳こそが文字化の練習に最適なのだ。


冒険者活動記録手帳の優れた点は、まず安価なことだ。失敗を恐れずに使える。次に、適度なサイズ感だ。大きすぎず小さすぎず、持ち運びに便利で書きやすい。そして何より、ギルドの環境に最適化されている。待合室でも、酒場でも、自然に使える。周囲から「真面目な奴だな」と思われることはあっても、変な目で見られることはない。


俺も最初の2年間は、この冒険者活動記録手帳を使っていた。今でも大切に保管してある。あの手帳に書いた目標と記録が、俺のMVP獲得の原点なのだ。


もし君がもう少し本格的なものを求めるなら、文具屋で売っている普通のノートで十分だ。50ページ以上の分厚さ、横罫線入り。これが俺の推奨仕様だ。ブランドや装飾は重要ではない。別に、俺の推奨仕様のノートでなくても問題ない。むしろ、俺が気がついていないだけで、君のほうがもっと適切なノートを使っているかもしれない。


重要なのは、毎日使い続けることだ。


・1日1ページの鉄則:ケチるな、見やすさが命


新人がよく犯す間違いの一つが、「ページを節約しよう」とすることだ。1ページに3日分書こうとしたり、余白を詰めて文字をびっしり書いたりする。気持ちは分かる。手帳代を節約したいし、無駄遣いは良くないと思うのだろう。


しかし、これは完全に逆効果だ。


1日1ページ使うことには、明確な理由がある。まず、見やすさだ。詰め込んだ文字は読み返すのが苦痛になる。そして読み返されない記録は、書いていないのと同じだ。


さらに、拡張性の確保だ。最初は数行しか書けなくても、慣れてくると振り返ってメモしたいことが増えてくる。その時、余白があれば追記できる。しかし、詰め込んだページには追記の余地がない。


手帳代なんて、任務報酬の0.何パーセントに過ぎない。それで成長が加速するなら、これほど安い投資はない。1日1ページ使うのをおすすめする。


・時間記録の基本:大雑把でいい、続けることが重要


「何を書けばいいか分からない」という質問もよく受ける。答えは「時間ごとに何をしたかを大雑把に記録する」だ。


例えば、こんな感じだ:


6時:起床、朝食

7時:装備点検、出発準備

8時:ギルドで任務受注

9時-12時:森でゴブリン討伐

13時:昼食、休憩

14時-16時:薬草採取

17時:ギルドに帰還、報告

18時:夕食、仲間と情報交換

20時:剣術練習

21時:入浴、休息

22時:就寝


これだけだ。詳細な分析も深い考察も必要ない。ただ、何時に何をしたかを記録するだけだ。


なぜこれが重要かって?

時間の使い方のパターンが見えてくるからだ。1週間分の記録を見返すと、「午前中は集中力が高い」「夕方は疲れて効率が落ちる」「休憩時間が長すぎる」といった発見がある。


また、目標との関連性も見えてくる。「Sランクになりたい」と言いながら、実際には練習時間が1日1時間しかない現実が浮き彫りになる。現実を知ることで、改善の余地が明確になる。


最初は大雑把で構わない。むしろ、細かく書こうとすると続かない。「大体こんなことをした」程度の記録で十分だ。重要なのは毎日続けることだ。


慣れてきたら、少しずつ詳細を加えていけばいい。「ゴブリン討伐」だったのを「ゴブリン5体討伐、新しい剣技をテストした」のように具体化していく。しかし、最初から完璧を目指す必要はない。


・周囲の目を気にするな:ギルドでの実践法


多くの新人冒険者が文字化をためらう理由の一つが、「周りからバカにされそう」という不安だ。ギルドの待合室で手帳に向かっていると、「真面目すぎる」「カッコつけてる」と思われるのではないかと心配するのだろう。


気にしなかったら良い。他人もそこまで暇じゃない。わざわざ君を念入りに観察したりしない。


それでも気になるなら、対処法を教えよう。


まず、堂々とやることだ。恥ずかしそうに隠れて書くから、変に思われる。「俺は自分の成長のために記録を取っている」という誇りを持って、堂々と書く。



実際、俺の知っている成功した冒険者の多くは、新人時代から何らかの記録を取っていた。それが手帳だったり、メモ書きだったり、形は様々だが、共通しているのは「自分の成長を意識的に管理していた」ということだ。


つまり、記録を取ることは基本の一種なのだ。基本を継続していることを恥じる必要はない。


・継続のコツ:完璧主義を捨てる


最後に、継続のコツを伝えよう。それは、ここまで何度も繰り返したことだが、完璧主義を捨てることだ。


「毎日完璧に記録しなければ」「詳細に分析しなければ」「美しく書かなければ」。こんな思い込みが、継続を阻害する。


俺の記録も決して完璧ではなかった。書き忘れた日もある。雑に書いた日もある。後から見返して「何を書いているか分からない」記録もある。


しかし、それでいいのだ。重要なのは継続することであって、完璧に記録することではない。


80%の精度で365日続けることの方が、100%の精度で30日で止めることよりも遥かに価値がある。そして、80%の精度でも365日続ければ、成果の現れる確率は高い。


だから、完璧を求めようとしない。今日書き忘れても、明日から再開すればいい。今日の記録が雑でも、明日はもう少し丁寧に書けばいい。昨日より今日、今日より明日。少しずつ改善していけばいい。


記録は君だけのものだ。他人に見せるものではない。だから、自分が分かる程度の記録で十分だ。字が汚くても、略語だらけでも、構わない。君の成長のための道具なのだから、君が使いやすい形にすればいい。


・今日から始めよう


長々と説明したが、要点は簡単だ。


手帳を用意する(冒険者活動記録手帳で十分)。1日1ページ使う。時間ごとに何をしたかを大雑把に記録する。周囲の目は気にしない。完璧を求めず継続する。


これだけだ。特別な技術も才能も必要ない。君に必要なのは、今日から始める勇気だけだ。


俺からの最後のアドバイスは、「今日から始めよう」ということだ。明日から、来週から、来月から。そんな先延ばしをしている間に、年金受給開始時期を迎えてしまう。


今日、ギルドの受付で冒険者活動記録手帳をもらってこよう。

そして、今日の記録から始めよう。たった数行でもいい。始めることが最も重要だ。始めなければ始まらないのだから。

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