第21話 光を纏う少女

遥か向こうの彼方の大陸。その荒野を一人駆け抜ける少女がいた。風を切る髪は金色に輝き、瞳は冒険心に満ちている。


「よーし、今日も秘宝探し、がんばっちゃうぞ!」


ルクシアは小さな地図を手に、にこりと笑った。元気いっぱいに飛び跳ねながら、彼女の足取りは軽く、それでいて確かな決意を帯びている。


冒険者らしい装いに身を包み、背中には小さな装備袋を背負っている。




「この大陸のどこかに、きっと隠されてるんだよね! あー、楽しみすぎて胸が痛いくらいだよ!」


周囲には誰もいない。けれど、ルクシアは一人でも決して臆さない。正義感に溢れる彼女の心は、困っている人を放っておけない性質を持っていた。


「ふふん、私にかかれば、どんな罠だって大丈夫なんだから!」


彼女はトレジャーハンター歳は17才


そして少女は、大陸の奥深くに待ち受ける秘密の遺跡を目指して駆け出した。砂埃が舞う道の先には、きっと、誰も見たことのない宝物が――。



ルクシアは地図を握りしめ、険しい山道を登り切ると、眼前に古びた遺跡が姿を現した。大理石の柱はひび割れ、苔が生え、時の流れを感じさせる。だが、少女の目は好奇心で輝いていた。


「わぁ……すっごい……! でも、ちょっと怖いかも……でもでも、行くしかないよね!」


足元の砂利を踏みしめながら、慎重に遺跡の内部へと足を踏み入れる。すると、床に微かに光る線が浮かんでいることに気づいた。


「ん? これって……何かの仕掛けかな……?」


その瞬間、ルクシアの耳に金属がきしむ音が響く。振り向くと、巨大な機械仕掛けの像が、ゆっくりと少女を取り囲むように動き出した。


「ええっ! な、何これ!? でも……逃げないよ!」


ルクシアは小さく拳を握り、強い決意を声に乗せた。


「私、怖くたって負けたりしない! 正義のために進むんだから


彼女の胸の奥で、何かが輝くような感覚が走った。淡く光る――色はまだ分からない、不思議な光が、遺跡の奥からほのかに漂っている。ルクシアはその光に引き寄せられるように、一歩一歩前へ進んだ。



「絶対に見つけてみせる! 誰も触れさせないんだから!」


遺跡の奥、光と影が交錯する空間に、少女の冒険は今、幕を開けた。



遺跡内は薄暗く、冷たい空気が漂う。ルクシアは慎重に歩みを進めると、前方に小さな石の台座がいくつも並んでいるのに気づく。台座の上には、色とりどりの宝石のような石が埋め込まれていた。


「……これは、順番に置いていくタイプね」


壁に刻まれた古代文字を読み取りながら、ルクシアは小さく唇を噛む。どうやら正しい順番で宝石を押さなければ、落とし穴や魔法の結界が発動するらしい。


「よし、落ち着いて……」


彼女は石を順番に押していく。最初は正解、次も正解。しかし三つ目で石が光り、床に薄い霧が立ち込める。


「……あっ!」


間一髪で横に飛び、落とし穴を避けるルクシア。息を整え、再度順番を考え直す。光の色と壁の文字を手掛かりに、慎重に順番を組み替える。


「これで……どうかしら」


最後の石を押すと、遺跡の奥から重厚な音とともに床が揺れ、壁が左右に開いた。通路の先には、氷でできた不安定な床と、クロックハートが眠る祭壇が見える。


「やった……!」


だが、喜ぶ間もなく、祭壇の影から低くうなり声が響いた。機械の巨体がゆっくりと姿を現す。


「ふふ、試練はまだ終わってないのね」


ルクシアは短剣を握り直し、明るくも凛とした声でつぶやく。


「よし……ここからが本番!」



ルクシアが空洞のような遺跡の通路を進むと、天井から微かに光が差し込み、埃と砂の粒子が漂っていた。床は不規則な石の板で、足元は所々に崩れかけた隙間がある。


その瞬間、奥の影から小型の機械が現れた。金属の体は古びているが、関節や装甲は緻密に組まれており、鋭い爪でルクシアを威嚇する。


「……ここも手強そうね」


ルクシアは短剣を握りしめ、一歩踏み出す。機械は素早く前進し、石の床を跳ね飛びながら突進してきた。


「くっ!」


ルクシアは床の隙間を避けつつ横に飛び、爪の一撃をかわす。崩れかけた石に足を滑らせながらも、反射的に短剣で反撃の構えを作る。


機械は無数の関節を駆使して攻撃を繰り返す。跳躍、旋回、突進――その動きは予測困難で、ルクシアは一瞬の判断力を試される。


「ここで引けるわけない!」


ルクシアは石板の隙間を巧みに利用して距離を取り、短剣で関節や接続部を狙って斬りつける。鋭い金属音が遺跡の空洞に反響し、機械が一瞬ひるむ。


しかしすぐに姿勢を立て直し、周囲を跳び回ってルクシアを囲む。彼女は呼吸を整え、目の前の一瞬の隙を逃さず、渾身の一撃を放つ。


刃が金属の装甲に深く切り込み、機械はバランスを崩して後退。最後の力を振り絞った斬撃で、機械は派手に爆発し、破片が空洞の床に散った。


ルクシアは短剣を握ったまま深く息を吐く。


「……やっと、ここまで来た」


空洞の遺跡は静まり返り、遠くにわずかに光が差し込む。ルクシアの瞳には、疲労と同時に決して折れない意志が輝いていた。




破壊された機械の残骸を越え、ルクシアはさらに奥へと進む。通路は次第に広がり、天井は高く、壁には古代文字と装飾が刻まれていた。光は差し込むものの薄暗く、空気には静けさと緊張感が漂う。


「……これは、ただの遺跡じゃない」


足元の石板は一部欠け、崩れた柱が横たわる。慎重に足を運ぶルクシアの耳に、かすかな機械の動作音が響く。まだ何かが潜んでいるのか。


突然、前方の広間の中央から光が漏れ、そこに奇妙な仕掛けが姿を現した。巨大な歯車やレバー、浮遊するクリスタル――古代技術と魔力が融合したような装置だ。


ルクシアは息を整え、仕掛けを観察する。


「なるほど……これは力任せじゃ解けないタイプね」


レバーやクリスタルを操作するためには、順序やタイミングを考えなければならない。間違えれば罠が作動するだろう。


彼女は深呼吸して手を伸ばす。慎重にクリスタルに触れると、微かな振動と共に音が響く。歯車が静かに回転を始め、光の軌跡が壁に映し出される。


「よし……次はこっちか」


ルクシアは直感と観察眼を頼りに、仕掛けの組み合わせを一つ一つ試す。歯車の噛み合う音、クリスタルの光の変化、床からの微かな振動――すべてを感じ取り、慎重に操作を続ける。


やがて、奥の壁がゆっくりと開き、光が差し込む。その光の中心には――クロックハートの影が、静かに輝いていた。


「……ついに、見つけた!」


ルクシアの瞳に決意が宿る。誰にも邪魔させない、この手で必ず手に入れる。小型機械との戦いで消耗した体を押して、彼女は一歩前へ進む。



奥の壁がゆっくりと開き、そこに差し込む光の先――薄紫から眩しいピンクへと変わる光の塊があった。ルクシアの瞳が光を捉えた瞬間、心臓が跳ねた。


「これ……これが……!」


光の中心に、クロックハートが静かに浮かんでいる。手を伸ばすと、まるで自分を呼んでいたかのように、自然と指先に収まった。


眩いピンクの光がルクシアの掌で揺れ、温かく、力強い存在感を放つ。思わず彼女は笑みをこぼし、胸がいっぱいになる。


「やった……やったよ!私、手に入れたんだ……!」


小さく跳ねるように喜び、拳で軽く胸を叩く。疲れも、迷宮の緊張も、戦いの痛みも一瞬で吹き飛ぶ。ルクシアの目は輝き、クロックハートの光が彼女の頬を淡く照らした。


「見てなさい……絶対に、全部集めてみせるんだから!」


胸に抱えたクロックハートを大事そうに握りしめ、ルクシアは次の冒険へ向けて、力強く一歩を踏み出した。



ルクシアはクロックハートをそっと握り、試すように力を込めた。すると瞬間、眩いピンクの光が指先から放たれ、周囲を包み込む。息を呑む間もなく、体がふわりと宙に浮いたような感覚に襲われる。


「わ、わあ……!」


光の渦に身を任せると、世界が一瞬にして溶け、ルクシアの姿は空間の中に溶け込んだ。眩しい光の中で、全てが消えていくような錯覚――そして次に気が付くと、荒涼とした地上の荒野に立っていた。


目の前には広がる乾いた大地と、遠くにうねる砂嵐。空はどんよりと灰色に覆われ、風が耳元をかすめる。クロックハートは依然として掌にあり、穏やかに光を放っている。


「もしかして……これって、移動の力?」


目を見開き、周囲を見回すルクシア。胸の高鳴りと興奮が混ざり、まだ荒野の空気を感じながらも、その力の可能性に心を躍らせる。


「すごい……これ、使いこなせたら、冒険がもっと広がるんだ……!」


クロックハートを握りしめ、ルクシアは荒野の先へ一歩を踏み出した。その足取りには、希望と好奇心が混じり合い、未来への期待で胸が膨らむのだった。





ルクシアはクロックハートを握り、静かに目を閉じた。心の中で、自分の街の景色を思い浮かべる。通りの並木、噴水のある広場、そして家族や友達の笑顔――すべてを鮮明に想像した。


「ここだ……!」


指先のクロックハートがピンクの光を強く放ち、体を包み込む。眩い光に目を細めると、瞬間、世界が溶けるように消えた。風も地面も、荒野の砂も、音も匂いも――何もかもが一瞬で過ぎ去る。


そして次の瞬間、ルクシアは見覚えのある街の広場に立っていた。周囲には人々の声が響き、鳥のさえずりも聞こえる。足元には石畳がしっかりとあり、心地よい風が頬を撫でた。


「わぁ……すごい……本当に来ちゃった……!」


驚きと喜びで胸がいっぱいになる。自分の想像した場所に、思った通りに移動できる――クロックハートの力は、想像力と直結しているのかもしれない。


ルクシアは街を見渡し、指先のクロックハートを握りしめた。心の中に次の目的地を描けば、どこへでも行ける。胸の高鳴りが止まらない。


「これで、冒険も、もっと……自由になるんだ!」


希望に満ちた笑顔で、ルクシアは街の中へ歩み出した。未知の旅路に向けて、胸の奥で新しい決意が静かに燃え上がるのだった。




ルクシアは自分の家の扉を押し開け、久しぶりに帰った部屋を見渡した。思い出の詰まった家具や窓辺の花々、家族の笑い声の残像――どれもが懐かしい。だが、彼女の胸はすでに次の冒険でいっぱいだった。


「よし、準備はバッチリ……!」


荷物をまとめ、背負い袋に水や食料、道具を詰める。部屋の中で何度も装備を確認し、旅の支度を整えると、ルクシアは深呼吸をひとつ。外に出ると、友達の姿が見えた。


「ルクシア、どこ行くの?」


明るく声をかける友達に、ルクシアは元気よく手を振る。


「ちょっとね、冒険に行ってくるの!また帰ってきたら話すから!」


笑顔で挨拶を交わすと、街の外れに向かって歩き出す。荒野の風が髪を揺らし、砂の匂いが鼻をくすぐった。ここで、クロックハートをそっと手に取り、力を試す。


心の中で目的地――港町の風景を思い浮かべる。石畳の通り、船が停泊する波止場、海風に揺れる帆――鮮明に描く。


クロックハートが淡いピンクの光を放つと、世界が再び揺らぎ、荒野は後ろに消えた。目を開けると、港町の波止場に立っていた。遠くで船員たちが声をかけ合い、海鳥が空を舞っている。潮の香りが肺いっぱいに満ち、心地よい緊張が胸を打つ。


「すごい……本当に着いちゃった……!」


ルクシアは笑顔を浮かべ、背負い袋を背に力強く歩き出した。冒険はここからが本番だ――未知の港町での出会い、任務、そして新しい発見。クロックハートを手にした彼女の旅路は、いま始まったばかりだった。

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