追放されたSランク治癒師、辺境の捨てられた村で神竜と出会う。俺の『全自動・状態異常回復』で寂れた土地が最強の聖域に変わっていくんだが、今さら王都に帰る気はない

九葉(くずは)

第1話 追放宣告

「ゼノン・アーシュレイ。貴様を本日付で王宮治癒師団から解任し、王都からの追放を命じる」


その言葉は、まるで氷の刃のように俺の心臓を貫いた。

王城の謁見の間。

豪華絢爛な装飾が施されたその場所は、いつもなら厳かな空気に満ちているはずだ。


だが、今、俺にとってそこは、ただただ冷たく、重苦しいだけの空間だった。


「……は?」


呆けた声が、俺の喉から漏れる。

理解が追いつかない。

いや、理解したくなかった。


目の前に立つのは、第一王子アルフォンス・ド・アステル。

金色の髪をなびかせ、宝石のように輝く瞳は、俺をゴミを見るかのように見下ろしている。


「聞き取れなかったか、Sランク治癒師殿? 貴様はもう、このアステル王国には不要だと言っているのだ」


アルフォンスの声には、一切の慈悲も、迷いもなかった。

その冷酷な響きが、俺の耳の奥で反響する。


俺はゼノン・アーシュレイ。

王宮治癒師団に所属するSランク治癒師だ。

確かに、俺のユニークスキル『全自動・状態異常回復(オート・リフレッシュ)』は特殊だった。


毒、麻痺、呪い、混乱、病気、疲労、空腹、睡眠不足……。

あらゆる状態異常を、俺の周囲に展開されるフィールドが自動的に浄化してくれる。

その効果は絶大で、幾度となくパーティの危機を救ってきたはずだ。


だが、この王都では、それが「役立たず」と評価された。


「貴様のスキルはHPを回復できん! ただ状態異常を治すだけ! そんなものがSランクの治癒師だと? Sランクの面汚しめ!」


アルフォンスの言葉に続き、俺の元パーティメンバーたちからも罵声が飛ぶ。


「そうだ、ゼノン! お前がいなければ、俺たちはもっと活躍できたはずだ!」


勇者のライアスが、憎々しげな表情で吐き捨てる。

彼の剣は、俺の浄化のおかげで常に錆一つなく、切れ味を保っていたはずなのに。


「HP回復ができない治癒師なんて、ただの荷物持ちじゃない! いつも魔力ばかり食いやがって!」


魔法使いのリーゼが、苛立ちを隠せない様子で叫ぶ。

彼女が放つ強力な魔法の反動で、いつもかかっていた魔力枯渇のデバフを、俺はすぐに回復させていたはずだ。


「お前のせいで、どれだけ俺たちが苦労したか……。 Sランクなんて詐欺だ!」


騎士のバルドも、拳を握りしめて俺を睨みつける。

彼の身に降りかかる毒や麻痺を、俺は常に瞬時に解除し、彼が前線で戦い続けられるように支えてきた。


俺のスキルは、決して派手ではない。

目に見えてHPが回復するわけでもない。

だから、彼らには俺の貢献が見えなかったのだろうか?


いや、見ようとしなかっただけだ。

彼らにとって、治癒師とは『傷を癒す者』。

それ以外の何者でもなかった。


俺のスキルは、致命傷を負った者を救うことはできない。

どれだけ状態異常を回復しても、失われたHPそのものを戻すことはできないのだ。

それが、俺の唯一にして最大の弱点。


そして、この王都では、その弱点こそが全てだった。


「貴様のような半端者は、もはや不要だ。せいぜい辺境で、病に苦しむ村人の手を握ってやるがいい!」


アルフォンスの言葉が、俺の胸に突き刺さる。

半端者……。

俺は、Sランクだぞ?

この国の、数少ないSランクの一人だ。


だが、そんなプライドも、この場では何の役にも立たない。

王子の言葉は絶対。

それが、アステル王国のルールだった。


「衛兵! この男から全ての装備と金銭を取り上げ、王都から追放しろ! 二度とこの地を踏ませるな!」


アルフォンスの命令に、二人の衛兵が俺の元へと歩み寄る。

彼らは無感情な目で、俺の腰から剣を抜き取り、魔法を込めたローブを剥ぎ取った。

ポケットの中の金貨も、容赦なく奪われる。


「抵抗するなよ、Sランク様。無様に喚けば、もっとひどい目に遭うぞ」


衛兵の一人が、冷たい声で囁いた。

俺は何も言えず、ただされるがままだった。

抵抗する気力も、意味も見出せなかった。


身一つにされた俺は、衛兵に背中を押されるまま、謁見の間を後にする。

パーティメンバーたちの嘲笑が、耳の奥でこだましていた。


王城の重厚な扉が、背後で音を立てて閉まる。

俺は、まるでゴミのように城門の外へと押し出された。


空は鉛色に染まり、冷たい雨が降り始めていた。

王都ルミナスの大通りは、雨に濡れて光を反射している。

人々は傘を差し、足早に家路を急いでいた。


誰もが、俺を避けるように道を空ける。

彼らの視線は、好奇と嘲り、そして微かな憐れみを含んでいた。

かつては「Sランク治癒師様」と持ち上げられたこともあったが、今となってはそれも遠い昔のようだ。


俺は、本当に役立たずだったのか?

俺の『全自動・状態異常回復』は……。


毒に侵された子供を救った時。

麻痺で動けない兵士を戦線復帰させた時。

呪いで苦しむ貴族の痛みを和らげた時。


あの時、彼らは確かに俺に感謝の言葉を口にした。

その言葉は、偽りだったのだろうか?


雨粒が、俺の頬を伝う。

それが雨なのか、涙なのか、自分でも分からなかった。


王都の喧騒が、遠ざかっていく。

俺は、当てもなく北へと歩き出した。

この広い世界で、俺の居場所はどこにあるのだろう。


「俺の『全自動・状態異常回復』は…本当に、役立たずのスキルだったのだろうか…」


雨音にかき消されるほどの、小さな呟き。

悔しさと、絶望と、そして――。


心の奥底に、微かに芽生えた疑問を抱えながら、俺は冷たい雨の中をただひたすらに歩き続けた。


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