たの死い家族の造り方

かんぽうやく

1

 七塚ミミは突然、見知らぬ女児から左手を握られた。ミミは違和感に硬直するが、女児の方はニコニコと上機嫌だ。

「えーっと…、こんにちは?ママはどこかな?」

 ミミはぎこちなく挨拶する。今は右手を握る妹、ノノの下校時間の付き添い中だった。周りは人通りもまちまちで、探せばこの子の家族もすぐ見つかるだろう。


「あれ?みおりちゃん?」

 妹が女児の方へ視線を向け、小首をかしげた。


「ノノ、同じクラスの子?」

「うん」

「そう!伊部いぶみおりです!これがノノちゃんのお姉ちゃんなんだ」

 ミミが妹に確認を取る。ノノの肯定に被せるようにして、みおりは元気いっぱいの挨拶を返した。


「…クラスで仲良い、のかな…」

「?まあ、ふつうくらい」

「すごく仲良しだもんねあたしたち。ノノちゃんのお姉ちゃん、すごくステキ!!お名前なんていうの?」

 姉妹のひそひそ話にも、みおりは構わず入り込もうとする。その間も、みおりはずっとミミの手を離そうとしない。


「……あの、ママさんはどこに」

「みおり…!!」

 ミミが不快感を隠しきれなくなる頃、青ざめた女性が駆け寄ってきた。慌ててみおりの手を引き剥がし、自分の方へ向き合わせる。


 女性はミミたちに気づくと、真っ青になったまま頭を何度も下げた。

「ごめんなさいごめんなさい、みおりがご迷惑を…」

 ミミはその狼狽えぶりに、かえって困惑した。

「あっ…、大丈夫ですよ、大丈夫…」

 正直に言えば、大丈夫などではなかった。初対面からいきなり馴れ馴れしく詰め寄られ、一刻も早くこの不気味な子供から距離を取りたかった。


 それでも、女性の動揺を見ると気の毒になってしまい、責める気にもなれない。

 おそらくは母親なのだろう。にしては大学生のミミほど若くも見えるし、しかし老け込むほど疲れているようにも見える。


「じゃあ、あの、すいません、失礼します…」

「あ、ごめんなさい、本当に…」

 保護者二人は気まずい顔で、それぞれの帰路に向かった。みおりはまだミミから名前を聞きたがっていたが、誰も答えなかった。


 姉妹と別れて歩くうちに、みおりが母親に尋ねた。

「ママ、うちに強力粉とイースト菌、まだあったよね?」

「…?あった、と思うけど、パン食べたいの?」

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