第三幕 封印の記憶、語りの断絶。


 あの春、わたしたちは異世界にいた。


 名前も、姿も、少し違っていた。


 でも、心は同じだった。



 その子の名前は、千春ちはる


 千春くんとわたしは、マジカルエンジェルとして、世界を守っていた。


 変身の呪文は「レッツ・変身!」


 それを唱えるたびに、わたしたちは強くなった。


 でも同時に、何かを失っていた。


 記憶の断片が、少しずつ削られていった。


 最後の戦いの日。


 わたしは、敵の攻撃から千春くんを庇った。


 その瞬間、強い光が走った。そして、わたしの声が消えた……


 封印されたのは、声だけじゃなかった。


 あの春の記憶、千春くんとの語り、笑い声、涙――


 何もかも全部が、音の中に閉じ込められた。


 異世界から戻ったとき、わたしは何も覚えていなかった。


 名前も、姿も、元に戻った。


 でも、心の中には空白があった。


 春の記憶が、ポッカリと抜け落ちていた。



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