第二部 ミズキの語り。

第一幕 風の予兆、声の空白。


 ――春の風が、街の角を撫でていた。


 わたしは、何も考えずに歩いていた。



 午後の光は柔らかく、通り過ぎる人々の声は遠く、まるで水の中にいるようだった。


 でも、角を曲がった瞬間、空気が変わった。


 風が、髪を揺らした。 そして、誰かがわたしの名前を呼んだ。


「ミズキちゃん?」


 その声は、震えていた。でも、わたしには、その震えの理由がわからなかった。


 わたしは、その人を見た。でも、知らなかった。目の奥に〝知ってる〟がなかった。


「……ごめんね。あなたの声、知らないの」


 わたしは、首を傾げて言った。


 その瞬間、風が止まった気がした。でも、わたしの中では何かが揺れていた。


 知らないはずの声が、どこか懐かしかった。でも、思い出せなかった。その声は、わたし封印に触れていたから……



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