千春の春は、声の春。……記憶の封印と声の魔法。
大創 淳
第一部 千春の語り。
第一幕 風の記憶、声の空白。
――レッツ、再会!
春の風は、ウチを呼び戻す。
それは、ただの風やなかった。
ウチの中の、忘れられへん疼きを撫でるような風やった。
その日、ウチは普通に歩いてた。
普通の街、普通の午後、普通の春……
でも、普通じゃない風が吹いた。
風は、ウチの髪を揺らし、ポケットの中のタグを微かに震わせた。
その震えが、ウチの胸の奥にある、忘れたくない記憶を呼び起こした。
角を曲がった瞬間、ウチの目の前に、ミズキちゃんがいた。
その姿は、あの春と変わらへんように見えた。けど、違ってた。
目の色も、髪の揺れ方も、声の響きも。
ウチは、思わず声を出した。
「……ミズキちゃん?」
声が震えた。ウチの声が、春の空気に溶けてゆく。
ミズキちゃんは、ウチを見た。でも、なかったの。
ミズキちゃんの目の奥に〝知ってる〟がなかった。
「……ごめんね。あなたの声、知らないの」
その言葉が、ウチの春を止めた。
それに、それに……ミズキちゃんはウチのこと〝君〟って呼ぶ。
違ってた。目の色も。輝きも。ウチの名は『
あの異世界で、ウチらは一緒に戦った。マジカルエンジェルになって、変身して、笑って、泣いて。
でも、ミズキちゃんの声は、ウチを忘れてた。
ウチの声が、届かなくなってた。
春風はフワリと吹いた。でも、ウチの中には、音の空白だけが残った。
街の音が遠ざかる。人の足音も、車の音も、全部、ウチには届かへん。
ウチの耳には、ただ、ミズキちゃんの「知らない」が残響してた。
その響きが、ウチの胸を締めつけた。
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