第38話 ノームたちの大いなる希望の光

 ノームとマーストンたちの、クエストの依頼人との商談はどうやら新しい契約が結ばれたようだ。


 昔ばなしを聞いた後は、マーストンとニンフだけが、召喚の契約のためにへルモンドの後へと、ついて行く事になった。


 ーー蟻の巣のような迷路を進む僕らは、きっとへルモンドから離れれば地上へは戻る事は、2度とないだろう……。って事はない、子どもがどこらかしこを、自由に歩きまわっているからたぶん大丈夫だろう。


「どけどけどけー!」と、細い通路を走っている子どもは、小等部ぐらいだろうか? 


 ヘルモンドに足をかけられるが、ひょいとその足を飛び越え、マーストンたちが辿って来た道を走って行ってしまった。


「あれくらいの歳になると、誰も、彼も、すばしっこくなっていかん。人とぶつかって危ない、って勉強にもならん」


「角から人が飛び出しても、避けれそうなぐらいになってますね……」


「まぁ――戦の勉強にはなっていいがな?」

「はぁ……、ここでも戦があるんですね……」

 そう思うと、気が重くなる。今は、魔物との戦いに明け暮れているが、それでも小さな諍いはあると聞く。


「こんな不毛な大地、誰も欲しがるわけないだろう? だが、我らは500年は生きるのでなー、その間に地理変動や、情勢が変われば引っ越す機会もあるかもしれん。まあ、そのためだな」


「なるほど、なんだか気の早い話しですね……」


「こっちだ」

 そう言ってヘルモンドは右側の入口へと入っていく。


 そこは扉が無く、部屋は円柱に作られ、天井を支える様に、円の中心に中央柱が立っている。

 その柱を中心に向かってはりから傘のようにアーチがわたされてできていた。


 地面は一段さがって作られ、そこに透明な水が流れている。

 そこに幾つかの鉢に入れられた植物が置かれていた。


 ヘルモンドは飛び石のような足場を渡り1つの植木鉢を取り、マーストンに手渡した。


「これは?」

 植木はずっしりと重い、星のような葉がいくつも、縞々な幹にから伸びる枝、その先の小枝から生えている。


 ニンフが、マーストンの横へと来て、星の形の葉をちょこんと、人だし指でつついた。


 ――つついた?


「あぁ――――!? ニンフ靴が!」


 そういうと彼女は、水に浸かった白いシューズを脱いで、裸足になる。

 そして両靴から水をジャーっと流す。


「すみませーん、入ってしまって」

「いや、構わんよ。大人も、子ども暑ければ、ここで足をつけ涼んでいるからな」


 そういってヘルモンドは髭を触り、落ち着いたものだった。

 そうしてうちのニンフは靴を飛び石の床に置いて、手を上げている。


「だ、だめだよ。これを持って行くんだから」

 彼はニンフと植木がぶつることがないように、後ろへ回す。


「お前も大変だな……」


 ――そう言ったへルモンドは、僕を見ているようで、僕を見ていなかった。

 たぶん、彼の視線の先には祖父が、いやもっと以前の誰かかも?


 思い出の中でしか、会えない人がいたのだろう。


 彼の人生はとにかく長く、思い出には事欠かないはずだ。


 そしてマーストンはへルモンドが、適当に捕まえた植木鉢を持ってくれる子どもの後ろを、ニンフを背負い歩いている。


「重ーい!」

「ごめんね」

「そんなんでは、立派な戦士になれないぞ?」


「へルモンドさーん、この村のどこに戦士がいるのー? ヘルモンドさんぐらいでしょう?」

「そんな事を言ってると、こいつの子ども代で、ノーム不足で知名度が減って、また土地が減るだろうが」


 そう言ってヘルモンドは、大きくため息をついた。


 ――もしかして、土地を確保するためにノームは召喚に応じているのだろうか? 性格的に、戦闘には向かない、ヘルモンドの秘密はなかなか切実なようだ。


「僕はーここまでー!」

「はいご苦労さん」

「ありがとうねー」


 そう、少年が言って植木鉢を置くと、違う子が植木鉢を持ってくれる。

 どうやら年下の子が、先に行って違う誰かに、話しをつないでくれるようだ。


 子どもたちは、次から次へと現れ笑っている。

 こんな……火山の間近で、子どもたちは生き生きと生きている。


 それはとても凄い事だと思う。


 そしてやっと荷馬車の前に辿り着く。

 子どもたちは行ってしまい、植木鉢は残った。


「おっ、これは年末の樹ですね」

 商人がやって来て、その木を眺める。


「そうだ! ヘルモンド、この木が召喚の契約に関係あるんですか?」

「まあな、これをお前たちの土地へ持って行き、来月の中に持ってくればいい」


「それだけでいいんですか?」

 マーストンは驚き、ヘルモンドさんを見た。


「あぁ、そうだ」

 そう静かに答えるへルモンドたちの前で、商人がふたたび話し出す。


「この樹は北国の植物なので、少し冷気に触れさせなけれならないんですよ。そうしなければ、美しい花が咲かないんですよ」


「お前の帳簿にはわびさびが無いのか? 実際、初めて見てみて、素晴らしいとか感動を味わいたいと思わないのか?」


「うーん、説明を怠ると、客がうるさいですよ。だから、わびさびとかお金にならないものはいりません」

「左様か」

 ――にこにことする商人と、憮然とするヘルモンドさんの温度さが凄いな……。


「では、また来月来ますので、お願いします」

「じゃーマーストンさんこっちの仕事も、来月もお願いしますよ。こんなに機嫌の良い、ヘルモンドさんを見たのは久しぶりで、私も仕事がしやすかったです」


「ありがとうございます。是非」

 そう彼が商人の彼に、頭を下げると――。


「何を言っておる。商人、お前は失礼にもほどある。そしてマーストン、昔なじみの孫が来たんだ。何もないが、食事だけは出そう。ついて来い」


 マーストンがニンフを背負い、みんなと食堂へと進むと、多くの子どもが居て、骨付肉、鶏の丸焼きの、カボチャのシチューなど豪華な料理がならぶ中。


 『栄光と、土地を手に入れるために、マーストンの子孫に求められ、世界に名を轟かせる存在にならなければならない!!』って話が長く続く。


 ――僕は相手もいないのに、その先の子孫の話を繰り返され困った。

 ノームたちは夢と希望を持って、僕を見つめていた。


 それも大きなプレッシャーだった。

 しかも、僕の子どもにも職を選ぶ権利はあるはずだ。と、そう思った。


 続く

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