第35話 大きなカボチャ
ギルドを出ると、日が暮れかけて、大通りの人込みも増えてくる。
そんな僕らのまわりを横切る風は、先ほどの海辺より塩味が効いていない。
街の中で、海とは幾分離れている分、潮の香りも弱まっているのだろう。
僕らのまわりの風は、夕食の少しスパイスの強めの香りを運んでいた。
僕らも夕食のために市場を覗く。素材を買っていてもいいし、気に入れば出来上がった料理を買ってもいいワクワクとした気持ちが僕らの気持ちを占めていた。
野菜の店が並ぶエリアへと入る。
僕らを出迎えたのは、載せている机ほどの大きさの、でかカボチャだった。
「大きいですね」
驚き思わずつぶやいた様なダークエルフさんの声、彼女の横には、展示されている一番大きなカボチャを指さすニンフが居た。
大きなカボチャの横に、重さを当てるクイズの回答用紙が貼られている。
「この重量を当てれば、こぼカボチャが貰えるのか……」
「ここまででかいのに、観賞用ではないらしいなぁ」
「いらっしゃいませー、カボチャの重さ当てクイズをやってます! 是非、書いていてね」
「へぇーこのカボチャは普通に食べれるやつなのか?」
「皆さんのように、剣の腕や魔法の腕が立つ人間ではないとカットは難しいですが、今回のこれもカットした形でお渡しもできますし、美味しいですよ」
今回はイベントの係員なのか、八百屋でいつも大きな声をを出し、よび込みをしている亭主が、箱を持ちながら登場しそう答えた。
そして箱を置くと、このカボチャについて書かれた紙がもらえた。
原産地、種類、育て方、調理方法、このカボチャを大々的に売り出したいのかもしれない。
「一般的なカボチャと変わらなければ、子どもにはこちらの方がうけるかもな」
「そうなんですよ。イベントの今回だけですが、お得意様に重力操作系の魔法使いさんが、今年は家まで運ぶのを手伝ってくれるので是非、そのままでお持ち帰りください」
箱を棚に置いた彼は、にこにことした笑顔で説明を続けた。
「じゃー俺たちも書いて行くかー。」
「アレックス?! こんな大きなカボチャ僕らだけでは消費できませんよ!?」
そう言うと彼は腕を組み、少し考える素振りすると、すぐにいつもの笑顔になる。
「大家のブルーノ一家に、お世話になっているチトセや、『ブラックファイアー』にも声をかければすぐじゃないのか?」
「そう言われればそうですね……。書いていきましょうか」
そう言いつつも僕は、アレックスの人付き合いの良さに、やはり感心していた。
「はぁーい、記入スペースはこちらです」
そう言われすぐ横の、中央に用紙を入れた小箱が置いてある、丸い机へと案内される。
僕は『カボチャの重さを当ててみよう!』とだけ書かれた用紙を配り、アレックは先にダークエルフとニンフへ鉛筆を手渡した。
「ちょうだい」
その声の方を見ると、元気そうな男の子が僕へ手を出していた。
「はい、どうぞ」
僕の分の紙を手渡すと、男の子は「ありがとう」と言って受け取った。
そして横に立つお母さんは「ありがとうございます」と笑顔で頭を下げた。
しかし気付くと先ほどまで人が居なかった。このスペースに3,4人程の家族に見守られている子どもたちがいた。
そして子供たちを囲む、その家族が円の外側に、外円として区別できる様子でいる。
その人数をパッと見ると、先ほどの閑散とした様子と凄い違いだった。
あれ? いつの間に? という気持ちだ。
子どもたちの中で、若者が交じる気恥ずかしさな、気持ちになりながら書き終わり顔を上げる。
そんな僕の前にいるアレックスは、となりの男の子に「僕、カボチャ好きなんだよ」と、話しかけられ、笑顔で答えていた。
凄い、少しクスッとするほどの、アレックスの人たらしぶりに思わず僕の顔から笑顔がこぼれる。
その笑顔のまま、応募用の箱へと、紙をいれると、亭主が「当たるといいですね」と、言って僕の笑顔の意味を違う解釈をされたかもしれない。
それに対しても、心の中では、なんだか少しだけ可笑しかった。
アレックスを待つ間、カボチャの近く、多くの種が売られているスペースにいるダークエルフさんとニンフのもとへ行く。
そして僕が行くとニンフは、種の棚とあの大きなカボチャを交互に指さす。
「えっ」戸惑いと、子どもぽい一面に向ける笑顔なる気持ち。
それが合わさった声を、僕はふと漏らす。
「あぁ……あのカボチャの種に興味がおありなんですね!」
後ろを向くと、先ほどの亭主が僕らの後ろにいた。
市場に居る層は結構忙しく、足を止める人物も少ない。
しかし冒険者は暇を持て余してる僕らに、声を進んでかけるようにしたのかもしれない。
カボチャの種を亭主は、教えてくれ、その中のカボチャの種を取って見せてくれた。
「このカボチャの種があれは、飾ってあるカボチャまでいかないでしょうが、きっと大きなカボチャになるはずですよ」
そう彼は自慢げに言う。
そして僕の手を左右かしこに振ると、ニンフはしっかりと受け取り、大事そうに胸にその種を持っていた。
「ニンフ……、君が育てると大変な事になるよ……」
「まぁーまぁーお兄さん、小さい子には、草木と触れ合う事も大事ですよ」
亭主の言葉に大きくうなずくニンフは、僕にその種を『買いますよ』という様に見せて来る。
金髪の三つ編み姿の彼女は、とても無邪気な子ども様に、ブラウンの瞳を煌めかせ僕を見る。
しかし僕の頭の中では、ニンフが種を無造作に畑、いっぱいに蒔いている姿がやすやすと浮かんでくる。
空想の中のカボチャの量は、予定してるお客様の人数だけで食べきれるだろうか?
「ニンフ、買うのはいいけど、このカボチャの種類なら育てるなら、3株だけにするんだよ」
僕はそう言って種を、受け取った。
彼女は僕の顔を見る。彼女の表情は透明だ。
――えっ?
そう思った途端、ニンフは『うん』うなずくと明るい笑顔になった。
「えっ……本当に駄目だからね」
僕は彼女の目の高さに視線を合わせ、ふたたび言ってみた。
彼女はまばたきをすると、やはりにっこーり笑う。
――うーん、大丈夫かな……。
「マーストンは過保護だな。ニンフ、大丈夫だよなー?」
「私も手伝いますねー」
そう言われると、ニンフは彼らと握手した。
僕はその場で亭主に、お金を払い、種を買ったのだった。
◇◇◇◇
次の日、ニンフは僕らの家のリビングルームで、僕に手を出した。
「おやつ?」
彼女はしきりに、手を大きく広げている。
そしてみつめる僕の前で、げんこつを作り、自分へ近づける。
そして口を少し開けて、息を吸い込んだ。
「スープが飲みたいの?」
そう言った僕の前に、大きくバツが作られる。
「あれじゃないか? 昨日買ったカボチャの種。今やったのは、昨日、飲んだカボチャスープの事だろう?」
足を曲げ、その上に鎧を置いて、鎧を磨く様に拭いているアレックスはそう言う。
そして彼は、鎧を掲げ太陽の光に当てて、その様子を観察している。
「あぁー、そうでしたね。…………確かこの棚の上に置いたはずです」
棚の受けに置かれたバスケットの中から、カボチャの種を取り出す。
そして種の袋を破るニンフの様子をみる。
「種を3粒だしたら、返してくださいね」
ニンフは、ビクッっとなって、こっちを警戒するように見た。
「3粒で、どれくらいカボチャとれるのかな?」
ニンフの様子を見ていた、ダークエルフさんがひざに手を置き腰をまげている。
そんな彼女を、ニンフはおそるおそるって感じで見た。
「どうしたんだ。ニンフ?」
そうアレックスに言われると、彼女は袋からささっと種を出し、残りを僕に押し付けた。
そして手を振って、リビングルームから出ていく。
「えっ? 手伝うよ? ニンフ」
「はい、手伝っちゃいまーす」
そう言って手をつないだ。ダークエルフさんだけ連れ、扉の前で手のひらを僕らに見せる。
そして彼女たちは出て行き、しばらくすると玄関の開閉の音がした。
「不安だな……」
「あれはなー」
不安な僕と対照的に、アレックスはなんとも楽しそうだ。
「2階へ行って、ちょっと見てきます」
「過保護だなー」
そう言って笑う。
二階の階段を上がり、階段の上がりきった場所に、付けられた飾り窓から外の様子をそっと覗く。
やって来たニンフが畑を歩き回っていると、目立って葉と蔓が見えてくる。
あっという間か、とみるみる内にと言えばいいのか? そんな感じに畑に葉と蔓が広がり畑の土の色が見えない。
「これは……」
葉が畑を覆う頃、彼女は畑の中心に立っていて、カボチャの緑のでかい実の成長に喜び、ピョンピョンと跳ねる。
まわりを歩きまわる、ダークエルフさんと一緒に生き生きと喜んでいる。
僕は目尻を下げ、出来たカボチャの量に「困ったな」、と口に出してみたが、口角が上がっている自覚はある。
そして階段を上がって来たアレックスは、「あれだけあれば、カボチャの重量当てに当たらずとも、これでみんなに配れるなぁー」
そう言ったのだった。
続く
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