第32話 応接での出来事
当然、迷宮へ現れた白いエルフ。
彼は多分執事であり、ダークエルフさんの出生の謎を知る人物であるはず。
その謎のエルフを知るには、エルフであるホワイトさんに聞くしかない!
そういうわけで、意気揚々とエルフの領事館へ行ったが、留守。
ホワイトさんは王宮ってわけで、王宮の門番の所まで来た。
槍を持つ百戦錬磨の城の兵士は、低い声で問う「何か用か?」と。
「エルフのホワイト様はいらっしゃいますか?」
「あぁ……ホワイト様ね」
彼はぶっきらぼうに、そう答えた。
そして……。
『僕らは冒険者で、ダークエルフと冒険をともにする者、そう言って頂けばわかるはずです』
そう想定していた返事をする前に……。
「ホワイト様を、お迎えだからって言って呼んで来てくれ」
「あぁ、わかった」
門番の2人の間で、話がついたらしい。
2人の内、1人が残った。
その彼は机の中を探して、封筒に入っていたお札の様な紙を取り出す。
それを枚数がわかりやすくわかるように、少しずらして僕らの前に差し出した。
「これはギルドのレストランの、食事券5人分だから」
「いえ、貰う理由がありません」
「貰う理由か……」
彼は空を少しだけ仰ぎ見る。
僕も上空を見上げるが、そこには何も無かった。
「まぁ、座れ」
そして僕らは花壇を囲む、レンガのふちへ兵士さんを囲んで座っている。
「お前たちには祖父はいるか?」
「いえ、居ません」
「俺のところはまだ元気です」
「わかりません」
ニンフだけ首を傾けて見ていたが、僕の返事を聞いて、首を振った。
彼女にとっては僕の祖父も、祖父なのかもしれない。
「俺には祖父が居た。俺の祖父はホワイト様をこの街の、今の人間の様にしたっていた」
「僕たちは、彼の住まいに行きましたが、『ホワイト様が居なくて寂しい』って声を聞きました」
「そうだ。本当の祖父より長く生き、彼はみんなに慕われている。この国の建国より、彼は長く生きているだろう」
そう言う彼は、花壇の下の蟻を見ていた。
生きる長さとして、エルフにとって、蟻も人間も同じような命の短さなのかもしれない。
「だが、兵士となればおいそれと、他の者を城に侵入させるわけにはいかない。だが、今回、彼の入城を許可したのは新米だったんだ……。だが、誰も帰って欲しいなんて言える者はいない。おじいちゃんより年上なんだぞ……。だから、ホワイト様を引き取ってくれ。頼んだぞ」
僕とアレックスは、彼に肩を組まれた。
「あの……」
僕が立ち上がり、その言葉が続く前に……。
「やぁー! 待ったかい?」
吟遊詩人ぽい恰好で、銀の長い髪をなびかせて、ホワイト様が現れた。
兵士は一歩退き、門番としてホワイトさんを『通さないぞ』と、いうように城内の入口を封じるために立った。
彼から固い意志と、決意を感じる。
「聞きたい事があるから、ギルドでいいか?」
「では、城内へ行って話そう」
そう僕らに話したホワイト様は、吟遊詩人の衣装を颯爽とひるがえし振り返った。
手には美しいハープを手に持ち、姫が別れを惜しみ、嘆くくらいの華やかさに包まれている。
そんな彼を、扱いに困った祖父母を笑顔で、いなす孫のような役目を、僕らはこなさなければならない。
気付けば、アレックスと僕とで、彼の肩に手を置き、ゴーレムの様に門番が立っている。
「いえ、駄目です。今回の件はどちからというと、エルフ側に非がある可能性の方が多いのです」
「僕は……ほかのエルフが困っても全然かまわないよ。しょっぴいてしまえばいい」
ホワイト様はやはり、華やかな笑顔で言う。
「それはギルドで話してから、あんたたちで決めてくれ」
「仕方ないなぁ……また、来るよー」
アレックスの言葉を受け、ホワイトはそう言って、手を曲げながら手を振った。
「ホワイト様、次回は必ず、お約束時間を取り付けてから、いらっしゃってください!」
そう彼は僕らの背中に言ったが、肝心のホワイト様は、一番先に行ってしまっている。
門番の彼らの悩みは尽きないかもしれない。
◇◇◇
港町アオハジのギルドの応接室。
僕ら4人の前に、向かって右から、チトセ、ホワイトさんとギルドマスターのスザークさん。
スザークさんにいたって、ギルドマスターの部屋の入ったチトセは、長い時間、出て来る事は無かった。
しかしそのうち……。
「ギルドマスター来てくださいよ~! 私だけでは冒険者さんはともかく、ホワイト様は御しきれませーん!」
悲鳴にも似た声が、中から聞こえてきた。
そんな声を聞いた、ホワイト様がハープを手に取り、『ポロロン♪』と、奏で「困ったものだね」と、そう呟いた。
そして僕らは揃い、入った迷宮に謎のエルフが居た事すべてを告げると、彼らは押し黙った。
「とにかく、お前たちはしばらく迷宮に入るな」
「それでことがすむのかな、無暗に他の犠牲者が出るかもしれない?」
「だが、このお嬢さんを差し出すわけにもいくまい」
ギルドマスターとホワイトさんが、静かに言い争っている。
「ところで、領事館で管理しているのなら、現れた執事について記録がありませんか?」
そう言うと、彼は目の前の机を、タン!と両手で叩く。
「彼らは、僕に記録を送れと言って来るが、彼らの記録は送られて来ない」
「「いや、それはおかしいだろう(でしょう)」」
多くの人の言葉が揃った。
記録がなければ、新しい記録を生み出すことは出来ない。
そう諭されると、机に手を付きながら、片手は唇の下に、指の関節を押し当て、彼は考えている。
「ホワイト、俺は忙しいんだー。ガキたちはお前の三文芝居を信じるかもしれないが、俺には時間の無駄だ。早く全部ゲロってくれ」
そう、スザークさんが頭の後ろで、腕を組みソファへ深く沈み込む。
彼の固く結んだ金の髪が、それに合わせ跳ねる。
「なんで、そう思うんだい?」
ホワイトさんの興味は、そっちの方へ行ってしまったようだ。
今日は片眼鏡は、つけていないようだが、つけている抜け目ない、彼の方が本質なのかもしれない。
「そんなポンポン忘れちまうような、美しいエルフはここでは、そう自由には生きられない。今でもすべての悪は滅ぼしきれてないからな、残念なことにな」
美しいエルフは立ち上がり、「僕はこの美しさ故に、信仰されているからね。そこは何とかなっているんだ!」そう、両手を別々に、胸に当てて言った。
うん、確かに彼は神々しくもあるが……。
「お前は一度、教会に怒られろ」
――この二人、結構、仲良しなのかもしれない。
「では、ダークエルフさんが、お嬢様と言われていた件についてどうなのですか?」
「マーストンが言う様に、そこに鍵はあるはず。通常、森に住むことが多いと聞くが……」
僕とアレックスが続けて聞くと、彼はスザークさんを横目でにらむ。
「君が余計なことを言うから、次々余計な手間が増えてるじゃないか!」
「はい、はい、すみませんね」
「なんで、君は……昔はあんなに可愛かったのに」
「昔も今、可愛い俺より、新しい方が聞いているんだから、答えてやれよ」
そうギルドマスターは、僕らを指差し言った。
たぶん、『ぞんざいに扱う』、これが長い年月生きている、エルフであるホワイトさんの攻略法なのだろう。
「まぁーわかることはあるさー、エルフでお嬢様、そしてそれにかしずくエルフは、ある程度限られていると考えていい」
「ハイエルフか?」
「まぁ、その可能性は濃厚だね。もしくは森の民も長老の部類に……、いや、そこまで正式な主従関係は難しいかもねー。後、人間界住んで真似事をしていた部類」
「あんたはハイエルフだろう? あんたなら知っているはずだ」
「僕は街に住んでいるんだよ?」
コン!コン!
彼は机を2本の人差し指の先で、机をノックする。
だが、彼は知っているはずだ。いままでの話を聞き、それは確信へ変わっていた。
「教えてください。自分のこと。知りたいんです」
そう言った彼女を僕らは見た。
「だってよ?」
「私からもお願いします」
ギルドマスターのスザークとチトセはそう言い。
僕らは見ていた。
美しいエルフは観念したかのように、頬杖をつき思い悩む顔をしているが、それさえ本気かわからない。
続く
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